生まれてしまった化物
化け物視点、生贄視点(5話から)、三人称が混在します。
ご注意ください。…読みづらかったら申し訳ありません…。
……目覚めたくて、目覚めたんじゃない。
……気が付くと、私は私だった。
……気が付いたときには、広い世界に、独り放り出されていた。
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自我、と呼べるものが芽生えたのは、ある夏の夕方のこと。
唐突に世界を理解し始めた私の、薄ぼんやりと見えてきた視界の中に一番最初に広がったのは――……色鮮やかな赤。
私は、気づくと足元の食事を、鋭く尖った嘴でついばんでいた。
日は随分と傾いて、一刻も早く夜を迎えようと、夏の虫が夜を呼ぶ声が響き渡る夕暮れ。森の中にある古びた納屋の中。
茜色の光が、格子が嵌った窓から、室内に差し込んでいる。
薄汚れ、ギシギシと軋んだ音を立てる床板の上に、その食事を中心に、まるで花開くように赤い血の海が広がっていた。薄暗い夕暮れ時の昏い影のなかでも、その血の色はとても鮮やかで、今でもありありと思い出せる。
口の中に広がる食事の味は極上で、私は上機嫌でそれを食べていた。
――今思うと、それは食事などではなく、死んだ人間の亡骸だったのだろう。
血溜まりの中に沈む、黒い服は修道服。
長い髪を血溜まりの中に揺蕩わせていたのは、きっとシスターと呼ばれる人間。
……私は、その人間を殺したのだろうか。それとも、偶々死んでいたのを食べたのだろうか。
どちらが正しいのかは、今になってみてもわからない。
けれども、その人間の「脳」を口にした瞬間から、私にはっきりとした自我が目覚めたのは間違いない。
そして驚いたことに、自我を獲得したのと同時に、私の頭のなかにはとある変化が起こっていた。
先程までは、本能に従って生きていた、ただの獣だったと言うのに。
――今、私の頭の中は沢山の知識で溢れている。
それは、私が食べた人間が持っていたのだろう知識。
物の名前が解る。現象の意味が解る。世界がどんなものなのかが解る。……それだけで、世界は違って見えた。
けれども、沢山の知識を一気に得た反動なのか、頭の中は常に靄がかかっているようでいて、上手く頭が回らない。意味のない情報が、頭のなかで浮き沈みを繰り返しており、私はそのあまりの情報量の多さに押しつぶされそうになっていた。
更には、同時にとある強烈な衝動が私を支配していたので、その時、理性的な行動をとれる余裕なんて私には無かった。
その時私を支配していた衝動とは――……狂おしいほどの食欲。そして、内から沸き起こる飢餓感。
――お腹が空いた。お腹が空いた。お腹が空いた。
――食べたい。食べたい。食べたい。食べたい。食べたい。食べたい。食べたい。
――……何もかも。全部、お腹いっぱい、食べたい。
人間なんて変なものを食べたせいで、私は狂ってしまったのだろうか。ただの獣で在ったときよりも、異常なほど貪欲になり、体の内から沸き起こる欲望に、じりじりと内側から身を焦がされて、耐えられないほどだ。
私は、夕暮れの昏い影の中で、飢餓感から逃れるために、次の食事を探した。
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私が自我に目覚めたのは、森の奥にひっそりと佇む小さな修道院だった。
人里から離れ、世俗を忘れ祈りを捧げる人たちが生きる家。
……私にとって好都合なことに、滅多に人が訪れることのないそこは、とても良い狩場だった。
特に人間を殺すことを躊躇する理由もない私は、欲望の赴くまま、ひとり、ひとり、確実に。風の中に漂う匂いを頼りに、音もたてずに狩り獲っていく。
止まらない食欲に任せて、私は休み無く人間を狩っていった。私が人間を何人か襲った時点で、漸く修道院にいた人間は異変に気付いて、敷地内の教会に閉じこもったけれども、そんなのはお構いなしに、私は闇に紛れて人間を襲って食べた。
人間は恐ろしく美味で、私は霞がかった意識のなか、随分と積極的にそれを食べていたことは覚えている。
ひと口食べるごとに、流れ込んでくる人間の知識。ひとり人間を食べるごとに、私は賢くなる。
けれども、私にとって不要な情報も、大量にそこには含まれていた。
そんなものを残しておいても仕方がない。私にとって意味のないものを、時間をかけて頭の中で整理していった。慎重に取捨選択を繰り返して、今必要なものだと思えるものだけ残し、要らないものは記憶の引き出しの奥深くにしまいこんだ。
――こうして、私は人間を食べ終わる度に獣であった自分から遠くはなれ。
――遂には、影響は体にも現れ始め、嘗て鴉と呼ばれていた私の体は、いつの間にか人間よりも大きく、巨大なものへと変貌していた。
……そして、最後のひとりを食べ終わったとき、少しばかり食欲が満たされた私の頭から、漸く霞が晴れてきて――……私は、理性的に思考をすることが出来るようになった。
……血溜まりの中で、いつの間にか天辺に昇っていた大きな月を見上げる。
数え切れないほど星が瞬いている夜空の中で、月はその存在を主張するように、青白い光を地上に惜しみなく注いでいる。今日この日まで、あれが月と呼ばれているものだと知らなかったし、それを眺めることもなかった。なんて、勿体無い事をしてきたのだろう。
……ああ。なんて美しい月。美しい夜空。世界はなんて、美しいの。
私は、金色に輝く美しい月を、飽きること無く、夜が明けるまで眺め続けた。
夜が明けると、また耐えきれないほどの飢餓感が私を襲ってきた。飢餓感に襲われ始めると、私の思考能力は一気に低下する。それが嫌で、周囲の森に住まう動物を片っ端から殺して食べた。
……不思議な事だが、人間を食べたときと違って、獣を食べたときは然程知識は増えなかった。
それでも、食べることによって食欲はいくらか満たされる。
ひとしきり食べると、頭が落ち着いてくるので、その度に美しいものを探して森の中を彷徨った。
私はすっかり世界の美しさに夢中だった。
小さな花や、小魚が泳ぐ小川を眺めていると、不思議と心が安らいだ。
……綺麗、美しい、可愛らしい。この世界に生きるものは、きっと全て素晴らしいものに違いないわ。
何も知らない当時の私は、只々見るもの全てに感動して、世界の素晴らしさに浸っていた。
突然自我に目覚めた私には、棲家も目的もなかったから、適当に目についた森の動物を殺して食べ、景色を眺めては心癒される。そんな生活を暫く続けていた。
「あらまあ。随分と歪なものが居るわ」
そこにまた人間がやってきた。丁度、兎の親子を仕留めて食べていたときだ。
その人間は、黒いベールを被り、全身をぴったりとした形の漆黒のドレスで覆っている女だった。
表情はベールに阻まれて、こちらからは伺い知ることは出来ない。
ただ一箇所だけ、女の真っ赤に染まった唇だけが、黒い服装の中で際立って見えた。
豊満な肉体と、紅い唇。それが、私のその人間の第一印象だった。
その時の私は、人間なんて取るに足らない獲物だと考えていた。
修道院で出会った人間が、全て簡単に仕留められたというのもあるのかもしれない。
……特に手を出してくるようでもなかったから、油断していた私は、その人間を無視して、皮を毟った兎を食べ続けていた。
兎の親子は、子供のほうが肉が柔らかくて美味しい。親は肉が固くてあまり美味しくない。
……私は、子供の方だけ食べて、親の兎は放置していた。
「どうして親の兎は食べないのかしら?……ふうん。本能のまま狩り獲って食べるのではなくて、選り好みをしているのね?なら何故、親の兎を殺したのかしら……殺しを楽しむ心がある?……普通の獣じゃあ、ありえないわね。……鳥?元々は鴉、かしらね。いろんなものが混じっている。それこそ人間も。けれども目には知性の光がある」
その人間は、興味深そうに私をじろじろと眺めている。
なんだかその視線が、無性に癇に障った。
(なんだこいつ……兎を食べ終わったら殺してやる)
「ほほほ。私を殺そうってのかい?お前が?」
その人間は私の思考を読み取り、おかしそうに笑った。
途端、ぞわ、と私の全身に悪寒が走る。
私は食べていた子供の兎を置き去りにして、その人間から距離を取った。
「面白いわね。お前……成り立てなのかしら?素晴らしい。良いものを見つけたわ。お前、私の元へおいで」
そういうと、その人間は私に手を伸ばしてきた。途端、その人間――……いや、人間らしき生き物は、べきべきと鈍い音をさせて、体を変形させていく。
伸ばされた腕からは、沢山の鱗が生え、体からは鋭い角が幾本も生えてきた。背中からは異常に大きな翼が生えて、まるで私を威嚇するように、大きく広がった。
風でめくれたベールから見えたそれの目は真紅に染まり、怪しげに光っていた。
人間であったはずのそれは、みるみるうちに巨大ななにかへと変貌し、ぐるる、と低く唸った。
私は息をするのも忘れて、それがおぞましい姿へ変身するのを見つめていた。
そのあまりの忌々しい気配、凶悪な姿に、私はすっかり縮み上がってしまって、脚が震えて動けない。
「……さあ、おいで。私が面倒をみてあげましょう」
そう言って、そいつは私の方へと鋭く尖った爪を持つ、大きな手を伸ばしてきた。
『魔女』。それはそう名乗った。
特定の名前は無い。魔女は魔女。魔女は、先程まで居た森から随分と離れた深い森まで一足飛びに私を連れ去ると、自分の家に招き入れて、面倒をみてやろうと言った。
……私にそれを拒否する術はなかった。魔女はあまりに強大で恐ろしく、本能から逆らってはいけない、そう感じていたからだ。
「ふむ。強者を嗅ぎ分ける本能は残っているのね。……それは、生きる上で大切なものよ。これからも忘れないようにしなさい」
足元に蹲って、魔女にされるがままになっている私に彼女は優しくそう言った。
ぱちぱち……、と暖炉の火が爆ぜている。
温かい部屋の中で、私はじっと足元から魔女を見上げた。
魔女の手は、私の体中の羽毛を優しく撫でている。
私の体は鴉からは随分とかけ離れた姿になっていたけれども、未だ全身黒い羽に覆われていた。それを綺麗に撫で付け、手触りを楽しんでいる魔女は、とても愉快そうに笑った。
「お前は案外、触り心地も悪くない。……醜い化物だけれど、この触り心地だけは、褒めてもいいかもしれないわね」
(醜い、とは何だろう……)
……美しいものとは違うのだろうか。
言葉の意味は人間から得た知識で理解しているけれども、本当に醜いものを見たことの無かった私は、首を捻った。
……醜い、というものは、美しいものと同じで、見ただけで解るものなのだろうか?
私は、そう思いながらも、撫で擦る魔女の手に体を預けた。
よくわからないけれど、撫でられる感覚は、私にとっても悪くないものだったからだ。
それから、魔女は私に色々なことを教えた。
人間の言葉を喋る方法。文字の読み方。様々な魔術を行使する方法。止まらない食欲を抑える方法。
人間の愚かさ。世界の仕組み。魔女としての生き方。
それはとても有意義な時間だった。
私がこのとき初めて知識欲というものを感じた。
魔女から与えられる知識を吸収することが、堪らなく楽しい。もっと知りたい。もっと、もっと、もっと……!
食欲以上に私の内から湧き上がってくるその欲に任せて、私は貪欲に知識を吸収していった。
「お前は本当に興味深いわ」
草原で放し飼いにされていた牛を、一頭襲って食べていたときのことだ。
その様子を眺めていた魔女が、ふいにそういった。
私は意味がわからなくて、思わずじっと魔女の目を見た。
魔女はにんまりと目を三日月型に歪めて、紅い唇を釣り上げて笑っていた。
「食べたものの特徴を得ることが出来るのね……?ほら、お前の頭に、牛の角が生えてきた」
「……ホントウ?ドウシテ?」
片言の言葉をなんとか使って魔女に問いかけるけれど、魔女は質問に答えようともせずに、楽しげに私の頭に生えてきたらしい角を指でつついている。
「お前が食べてきたものって、なんだったかしら。牛、蛙、兎、鳥、蛇……そして、人間。何がなんだか、混じり過ぎてよくわからない、随分と歪な生き物になってしまったわね。……これぞ、化物というやつなのかしら」
「バケモノ……」
「ふふふ。魔女は嘘を吐けない。嘘を吐くと高温の青白い炎に骨まで焼かれてしまう。だから、はっきり言うわ、お前は化物。それも、とっておきの化物」
「トッテオキ?」
「この世で一番、おぞましい化物ってことよ」
「……」
「あら、これは褒め言葉よ?」
そういうと、魔女はからからと笑って、私のおぞましいらしい体に抱きついた。
「マジョ。……ホン、ヲ、ヨンデ」
「おや、また?お前はもう自分で字が読めるでしょう?」
「マジョ、ガ、ヨム。ワタシ、キク。……スキ」
「ふふふ。お前は……。仕方がないわね。読んであげましょう」
私は度々魔女に本を読むことを強請った。
それは、お気に入りの一冊。……魔女に攫われた人間の姫君を、王子様が救い出す物語。
私は椅子に座る魔女の膝に頭を乗せて、魔女の口から紡がれる物語に耳を傾けた。
魔女はそうしていると、私の頭をそっと撫でてくれる。それがとても気持ちよくて、うっとりと目を瞑って物語の世界へ入り込んだ。
……やがて、物語は佳境へと差し掛かり、魔女は退治され、姫君と王子様は熱い抱擁を交わしている。
「助けに来たよ」と優しく笑う王子様に、姫君はうっとりと見惚れて、ふたりは口づけを交わして――……そして、王となって国を背負う王子様を、姫君は健気に支え、ふたりは幸せに暮らすのだ。
「オウジサマ……」
私は小さくその言葉を呟いた。
……そうすると、何故か胸の奥がほんのりと熱くなるのだ。
それは苦しくもあるけれど、どこか心地よくもある不思議な感覚だった。
「おやおや、化物風情が王子様に憧れを抱いているのかい?」
魔女は真っ赤な唇を歪めて笑った。
そして「お前のようなものが、王子様に憧れたって、どうにもならないさ」と言って、また人間の愚かさについて語りだした。
魔女はどうやら人間が嫌いらしい。魔女は険しい顔をして、時折、人間への憎しみを私へと語った。
……私の知る人間は、魔女の語る愚かな人間。そして、あの夏の日に食べた、恐怖に彩られ半狂乱になっている人間。……修道院で見た人間の姿から察するに、魔女の語る言葉には説得力を感じることが出来た。
けれども、物語の中の王子様はどうだろう。王子様は命がけで姫君を助け出し、悪い魔女を殺すこともせずに逃したうえ、善政を敷くのだ。そんな王子様は、魔女が語るような愚かな人間とは違うように思える。
(人間というのは、本当はどういうものなのだろう)
私のその疑問は、日に日に募っていった。
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この世界に生きる全てのものは魔力を持っている。
それはこの世界では誰もが知る常識。
魔力、それを多く持つことはステータスだ。
強く、力を持つものは例外なく強大な魔力を持っていた。
魔力は、生きている者の体の内を、血潮に乗って常に循環している。
それ以外にも、空気に含まれて大気中を漂う魔力や、大地に元々存在し、そこで育った植物に宿る魔力もある。
それらや、他者のうちにある魔力を、食物連鎖の中で経口摂取することで、生き物は健やかに、そして強く成長する。
事実、魔力が豊富とされる土地に住まう人々は、生まれながらにして魔力の潜在量、扱いに長け、そういった土地を多く持つ国は、優秀な魔術師、戦士を抱えていた。
――それに目をつけたのが、とある国の王族だ。
嘗ての戦乱の時代。隣国同士で戦に戦を重ね、領地を奪い合い、命を奪い合った。
戦に勝つには何よりも優れた人材が必要だ。優れた人材には限りがある。国土の魔力の含有量が少なくも多くもないこの国では、優れた人材を得ることは中々難しかった。
他国から、自国を守るために。……どうすれば、より良い人材を得ることが出来るのかと、王族が頭を悩ませていたとき、だれかが彼らの耳元でこう囁いたのだ。
――人工的に魔力を多く含む土地へと、国土を変えることができたならば。
――優秀な人材を得ることが容易になるのではないか。
もちろん、そうすることで直ぐに効果が現れるはずはない。けれども、長期的に将来を見据えたとき。
それが成功すれば、我が国の未来は明るい。……そう、考えた。
王族は早速、各地から魔術師を掻き集め、国土のなかに含まれる魔力を強化することを試みた。
やがて幾年もの歳月が流れ、沢山の実験が重ねられ、禁術と言われる忌まわしい術にまで手を出した。けれども結果は出ずに、研究は行き詰まり、頓挫するかと思われた時、一人の天才魔術師が現れた。その天才は画期的な方法を生み出し、研究は一足飛びに進み――それでも数十年ほどかかって、ようやくそれは成果を見せた。
その魔法が完成してから数年。国土全体に張り巡らせられた魔法陣は、大量の魔力を土地へと与え、その恩恵を受けて育った、幼い子どもたちは素晴らしい才能を見せ始めた。
そして、その子どもたちが大人になり、戦の前線に立ち、采配を振るうようになると、その国の勢いは凄まじく、あっという間に周囲の国を征服し、呑み込んで――その国は、誰もが羨む強国と成ったのだ。
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最近、魔女は忙しいらしく、出かけてしまって居ないことが多い。
私は魔女が居ないときは、特にすることも無いので、あの物語の本を読んで過ごすことが多い。
私は自分に与えられた藁のベットに体を横たえて、嘴で本を傷つけないように慎重にページをめくった。
そして、挿絵にある王子の絵を眺めてはため息を吐く。
きらきら、金色の髪。澄み渡った空のような綺麗な碧眼。仕立ての良さそうな服に、豪奢なマント。頭の上には小さな王冠が乗っている。
(王子というのは、本当に居るものなのだろうか)
最近はそのことについて、考えることが多い。
目を瞑って、今までに出会った人間を思い出してみる。時折、不用意に魔女の棲家に近づく人間を追い払うことはあるけれども、金髪で、碧眼の王子様らしき人物は見たことがなかった。
もしかしたら、王子様というのは、空想の産物であり、現実には居ないのかもしれない。
……でも。
そこまで考えたとき、私の頭の中にある光景が思い出された。
ある日、魔女の棲家の近くにある大樹に登った時のことだ。
とてもとても小さくではあるが、深い森の遥か向こうに、城の屋根らしきものが見えたような気がしたのだ。
魔女に、森の向こうに王族が住まう城があるのかと、一度聞いたことがあるけれども、魔女ははぐらかすばかりで答えてはくれなかった。
そもそも、最近の魔女はとても忙しそうで、しつこく聞くのも気が引けてしまって、確認することができなかったのだ。
……ちょっとだけ。ちょっとだけ、見に行ってみようか。
暇を持て余していたせいもあるのだろう。私の中から、そんな欲がむくむくと涌いてきた。
見るだけ。それも、魔女が帰ってくる前に、戻ってくれば問題ない。
……自我が目覚めてから、欲望を抑えることが下手になっていた私は、突然涌いてきた素晴らしい考えに抗うことが出来ずに、藁のベッドから体を起こした。
全12話で、完結まで書き上げてあります。
どうぞ宜しくお願いします。