魔王、暇を持て余す の巻
今回はそこそこ甘い展開にしたつもりです
「暇だ…」
魔王は、ペットのシャムシール(猫)を撫でながらポツリと呟く。
外は晴天。部屋には一人の魔王と一匹の猫。雲一つない空を眺めながら、どこか寂しくも思えてくる感情を紛らわす。
「なぁシャム…魔王である我が何故、こんなにも暇をもて余しておるのだ?以前なら勇者が一日に5~6人は来ていたというのに…」
シャムは「にゃ~」と鳴き、膝から降りて部屋から出ていってしまった。
「…何言ってるかわからんが、とにかく暇なのだ」
そんな他愛ないと独り言を呟いていると、開きっぱの扉の奥から「にゃ~…」という鳴き声が聞こえてきた。
デスタは、まだシャムが扉の近くに居るのか?と思い、ドアから顔を出して覗いてみた。するとそこには……
「シャムちゃん♡怖くないですよ~?こっち来て下さいにゃ~♡ 私も猫だよぉ?怖くないよぉ?」
「にゃあ?」
…バアルが…シャムと戯れていた…
それは王であるデスタが久しく見ていない、なんの含みもない純粋な満面の笑みだった。
(…くそ可愛いな……)
「…ン“ッン“ン!」
「ハッ…!」
我が軽く咳払いをすると、それを聞いたバアルはギギギギッという感じのまるで機械のような固い動きで後ろを振り向いた。
「…バアルよ…そんなにシャムと遊んでいたいのか?語尾に"にゃあ"とつけるくらい」
「あぅ…いやっ、その~……ハイ、遊んでいたいです…」
「そうか…ならば、今日一日シャムをお前に預ける。戯れるなりじゃれるなり好きにしていろ。お前にも少しは休みを与えてやらなければと思っていたところだ…」
それを聞き入れたバアルはパアッとキラキラした顔で
耳をパタパタさせ、尻尾もブンブン振りながら
「良いのですか!?」と言うものだから…
「良いぞ…今日くらい自由にしておれ…」
「有り難き幸せ!!では私はこれで……あ!魔王様?」
「なんだ?」
「…この後、お暇ですか?良ければこれから遊びませんか?」
「…フム、丁度良い。我もすることがなくて退屈していたところだ……それで、何をする?」
「そうですね…久しぶりにボードゲームでも如何でしょう?」
「…良いだろう。だが最初に言っておく…我はかーなーり、強いぞ?」
「その決めゼリフ好きですねぇ…ですが、私も腕をあげましたよ!」
「では…始めるとするか。何からやる?」
「じゃあ…リバーシで!」
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10分後…
「ま、負けた…魔王様強すぎです……」
「そうだろうそうだろう…ボードゲームにおいて我の右に出るものは居ないからなあ!ところで、もう終わりか?」
「ま、まだまだ!次は将棋で勝負です!」
「よかろう…掛かってくるが良い!」
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20分後…
「また負けた…」
「まだまだだなぁバアルよ…終わりか?」
「まだです!今度はトランプです!ババ抜き!」
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5分後…
「うぅ…」
「…さすがに弱すぎないか?もうそろそろ…」
「ま・だ・で・す・!!」
「お、おう…」
「チェスで勝負です!」
「……ただやるだけではつまらんな。
…そうだ、このチェスで負けた方は勝った方の言うことを……」
「もうなんでも良いからやりましょう!!」
「おうぅ…」
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1時間後…
「そんなあ!!全戦全敗なんてぇ…魔王様、物理的にも頭脳的にも強いなんてチート過ぎますよ!
うぅ…シャムちゃん、君のご主人は酷いチートを持ってるよぉ…」
「にゃあ?」
「いやシャムに言ってもな…まあ、我がチェスで負けたことはないし、それこそ父上と実力は同等だった。……さて、バアル」
「…ハイ……」
「さっきの条件、聞いてなかったなんて通用しないからな?」
「…何なりと、お申し付けくださいぃ……」
「なら、ソファーに座ってくれ。そして我に膝枕をしてくれ」
「? それだけで良いんですか?…よっこいしょっと」
私は言われるがまま、椅子から立ち上がりソファーに座った。
「さ、どうぞ」
「では失礼して…よいしょ」
魔王様の髪がチクチクしてて少し痛い。
「魔王様…」
「なんだ?」
「何故、このようなことを?膝枕くらいならリリエルや他のメイドさんにでも頼めばよかったものを…」
「何故だろうな……でも━━━」
「でも?」
「お前がよかったんだと思う…」
「……ふぇ!?」
突拍子に言われて、顔が熱くなった。
「そ、それってどういう…」
「………zzz………zzz……」
「寝てる……はぁ、全くこの人は…子供みたいですね」
「にゃあ~」
ふと急に、この王宮に来た頃の思い出が脳内を過る。
確かまだ、私が執事見習いだったときのこと…
まだ幼かった私とデスタ様は庭園で迷子になってしまって…
━━━━デスタ様ぁ…ここどこですか?暗いし、怖いです……早くお城に戻らないと…ご両親が心配しますよぉ
足も痛いですぅ……
━━━━ああもう五月蝿いな!大丈夫だバアル!俺を信じろ!!絶対に父上の所に返してやるからな!
…それから1時間後、やっとの思いで王宮にたどり着いた私たちは、両親にこっぴどく叱られた。
でも、あのとき言われた”信じろ“という言葉は今でも鮮明に覚えている。
思えばあの頃からだっただろうか…私が今の王についていきたいと思ったのは…
「………すぅ………すぅ……ハッ!すみません魔王様!寝てしまいました……って、アレ?」
「おお、起きたかバアル。気付いたら我も寝てしまっていてな、お礼にといってはアレだが…膝枕してやってたんだが…お前、寝相悪すぎじゃないか?」
「はい?」
魔王様は目を逸らし、私の胸元を指差した。
その指の方向…自分の胸元を見ると━━━
「な…なななななな!?」
着ていた執事服の上着どころか、中のワイシャツのボタンが取れて、その大きな胸が露になっていた。
私は急いで落ちていた上着を拾い、それで胸元を隠した。
「み…見たんですね!?」
私が殺意を露にして問うと、魔王様は両手で目を隠してコクリと頷いた。
「ま、魔王様ぁぁぁ!!」
「い、いや待て!落ち着け!確かに見てしまったけど、見たくて見たんじゃなくて…そうだ!不可抗力だ!」
私は左手に魔力を収束させてサノスケ…ではなくもう一つの武器の黒羽を出した。
「待て!待て!黒羽はヤバイから!!そうだ!あとでケーキ作ってやるから!」
激昂している私でもその言葉を聞き逃さず、耳はピクリと反応した。
「……本当ですか…?」
「ああ本当だ!だから服着て!鎌しまって!な?」
「ムゥ…わかりました。今回だけは許してあげます。次はないですよ…」
「ああ。よし、それじゃあデミウルゴスに調理場借りよう。お前は先に食堂に行っておけ」
「わかりました、楽しみにしてます」
と、執事はニッと笑い部屋を後にした。
魔王)この後滅茶苦茶ケーキ作った
執事)この後滅茶苦茶ケーキ食わされた
デミ)この後滅茶苦茶片付けた