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シーン5

後から気づいたけど、主人公のセリフを『』にしていない。

まあいいか。後で直します。

 目を開けるとまだ空は黒かった。満天の星空、そう言っていいのだろうか。星は雲に邪魔されることなく輝いていて、月も綺麗な円を空に描いている。

 そんな星空に見とれていると、不意に頭上から息を飲んだような声が降り注いだ。

「……死んでるっ!」

「元から死んでるわ!」

 無駄にいい演技しやがって、本当に驚いているようだったぞ。

 っていうか、俺が目を開けてから言っただろう。とツッコもうとして気づく。

 後頭部のあたりにやわらかい感触があったと思ったら、月野に膝枕されていた。

 状況が理解できずに、俺はまず寝る前に何をしていたのか思い出そうとする。

 たしか、水の中で寝てしまったんだっけな。気づいたら川辺でこうしているってことは、わざわざ月野が引っ張ってきたのか……?

「水死体かと思って驚いたわ」

「あー」

 川の中心あたりで、岩に引っかかってぷかぷか浮かぶ体なんて、普通は俺の姿が見えないからいいけど、見える人間からしたらそりゃホラーだろうな。

 よく見ると、俺が寝ている間に泳いで回収したのだろう、着ている制服がびしょ濡れになっていた。

「悪かったな……」

「本当よ。心臓に悪いからもうしないで」

 ぷいと顔を逸らして見せる月野に、奴隷になれと言われていながらも罪悪感が込み上げてくる。

「一度帰ったらどうだ? そのままだと体が冷えるぞ」

「大丈夫よ。気になるなら巫女の力で水分を飛ばすから」

「巫女の力ってそんなことに使っていいのかよ!」

「洗濯物がすぐに乾いて便利よ」

 俺みたいな幽霊を消すだけの力かと思いきや、意外と生活に便利なものらしい。

 俺の頭を膝に乗せたまま、月野は手を複雑に動かすと、その体を一瞬光らせて、気づいた時には彼女の服は乾いていた。

「俺にはやってくれないのか?」

 幽霊だから、水に濡れたままでも体が冷えて体調を崩すなんてことは心配しなくていいのだが、濡れた服を着ているのは結構気持ちが悪い。

 乾かして貰えると助かるんだけどなぁ……。

「いいわよ。加減が難しいから、ついでに私の霊力に屈して奴隷になっちゃうかもしれないけど」

「遠慮しときます」

「しなくてもいいのよ?」

「拒否します」

「遠慮を?」

「乾かしてもらうのを!」

 どうしてこの女は俺をそうまでして奴隷にしたがるのだろうか。

 ふと、そんな疑問が頭をよぎって、俺は顔の前で手を握ったりほどいたりしてみた。

 特に力が強くなったとかないしなあ。月野は能力値が高そうとは言っていたが、俺に特別な力なんてなさそうなんだが。

 いや、漫画とかでよくある、霊同士の戦いは肉弾戦とかになるのか? しかし、俺の生前はただの水泳選手であって、体を鍛えていたとは言えるけど、格闘技の経験なんか全くないんだぞ。

「どうしたの?」

 そんなことを考え込んでいると、月野が聞いてきた。

 そうだな。こういうことは詳しくない俺があれこれ考え込むよりは、知識のある月野に直接聞いた方が早い。

「どうして俺を式神か何かか? そういう下僕にしたがるんだ?」

「え……」

「いやだって、今のところ浮いたりすり抜けたりするくらいしか俺はできないし、能力値が高そうだから奴隷にしたいって言ったろ? だったら期待外れなんじゃないのか?」

「奴隷になりたいの?」

「そうじゃねえよ?」

「なんだ、自分に価値がないから奴隷になれないのかもしれないって不安になたのかと思った」

「お前、結構ポジティブな考え方してるよな……」

 そんなことあるか。

 たしかに愛に来てくれないと暇だから、月野が俺に興味をなくして来なくなるっていうのは嫌だけど、それとこれとは別の話だろ。

 月野は不意に俺の頭に手を乗せてきた。

 そのまま撫でさすってくるものだから、恥ずかしくなって抜け出そうとしたが、もう片方の手が不自然に光った瞬間、力が抜けたように体が動かなくなる。

 やべ、ついに実力行使に出たか……?

「そのままでいて」

 月野の囁くような声が耳に入ってくる。

 それだけで、何故か俺は安心してしまった。

 これも月野の力だろうか、先ほどまで慌てていた思考が、落ち着きを取り戻してくる。

 そうして月野は、俺の頭を撫でていた手をそのまま目の上まで持ってきた。

 暗闇に覆われて、月野の顔が見えなくなる。

「私はね、ヒーローさんに救われたのよ」

 覚えがなかった。

 元々ヒーローさんってあだ名だって、こんな片田舎に現れた天才水泳選手。っていう意味での名づけだ。誰かを助けたり、励ましたりした結果じゃない。

 俺が明確な人助けをしたのは、後にも先にも……って、幽霊である今の俺には先なんてものは存在しないが、溺れていた女の子を助けた時だけだ。

 月野の体つきを思い出してみる。言い方は嫌らしいが、検証のためだ。邪な思いは少ししかない。

 そもそも俺が助けたのは小学生くらいの女の子だし、月野みたいなナイスバディじゃなかった。検証するまでもない。

 じゃあ、他に誰が……?

「やっぱりわからないわよね」

 月野がそう言った瞬間、後頭部に感じていた柔らかさが不意に消えた。

 頭が地面に落ちるが痛みはない。幽霊だから。ただ、なんとなくくやしい。

 それが魅惑的な太ももの感触を感じられなくなったからなのか、自分が月野の何を救ったのかわからなかったからなのか。

 立ち上がった月野は何も言わずに遠ざかって行く。

 まだ体に力が入らない。

 それでも俺は、精一杯首を動かして月野の後姿を視界に収めた。

「明日も来いよ!」

 こんな状況でも、不思議と口はちゃんと動いた。

「お前見てたら思い出すかもしんねえし」

「別に思い出さなくてもいいわよ」

 月野の足が止まる。

 背中を向けているから、どんな顔をしているのかはわからない。

「でも、また来るわ」

 そして今度こそ、月野は振り返らずにそのまま歩いて行った。

ようやく調子が乗ってきたかもしれないです。

この二人の姿が不意に絵となって目の前に現れたものだから、リアルに独り言で「見えた……っ」なんて、生まれて初めて言ってしまいました。

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