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with me  作者: いろり
草薙 月乃
3/14

1.転生、そして…。

○1.転生、そして…。


 甘い匂いに誘われて目を覚ますとそこには、おっきな乳房があった。


「…。」


 何を言っているのか分からねぇと思うが、あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!目を開ければそこには銀髪の狐耳を生やした女のおっきな乳房が、そこには在ったんだ。

な…何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何をされているのか分からね…。


 差し出されたピンクの乳房に俺の口が吸い寄せられる。

頭がどうにかなりそうだが、生プリンには逆らえねえ。女体は小宇宙だというが、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。


 うまうま。

 背を軽く叩かれ、げっぷを誘発される。


 お、恐ろしい目にあった…。だが、判りたくもない事実が見えてきた気がした。巨大過ぎる女に、…乳房、ミルク。そして、理解不能状態にも関わらず、吸い寄せられるようにしゃぶりついてしまった。これは、幼児にしか出ない筈の吸啜反射!しかもさっきから目が動かねえ、頭の向いている方向しか見れない。

これらの事象から、導き出される答えは1つ、俺は幼児になっているということだ。もしかしたら、まだ生まれて1か月も経ってない可能性も高い。


 やべぇ、何がやばいって身体が動かないのがやべぇ。しかも眠た過ぎておかしくなりそうだぜえ。


「kdbknLkqmknjw。…Ðncjn。」


 何を言ってるのかも、判らねえ。本当に理解不能の状態になると、自分のキャラでもないのに…それでもポル○ル状態に陥るのか。


 瞼が重くて耐えられない。

女性は薄く微笑み、額にキスをする。


「NbbnSx、kihh…。」


 何かを呟いたのは聴こえた。しかし、それっきり瞼は重く閉じてしまい、意識は暗闇に吸い込まれていった。



xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx



 6か月ほどが経った。

正確な日数は分からない。最初は朝が来るたびに数えていたが、お昼寝やらなんやらで朝なのか夜なのか訳が分からなくなって、数えることを止めた。ただ、首がすわり頭の動きと眼球が分離して動かせるようになったことで、カレンダーらしき物を発見できた。カレンダーは横と縦で7×5…弱、1か月は30日程度の計算で良さそうだ。

赤ちゃんの首がすわるのが大体3か月程、そこからカレンダーを3回捲ったので、現在生後6か月程となる訳だ。


 それに、自分自身の進歩も凄まじい。なんと言葉がある程度分かるようになってきたのだ。前世での幼児の頃の記憶なんてないし、幼児プレイにも興味のなかった俺には、驚きの連続だ。人間において最も急激な成長をするのが赤ちゃんの時期だという話は知っていたが、直に体験すると、成長というより進化に近い感覚だ。昨日まで分からなかったことが今日になると、少し理解できていたり、昨日までまったく出来なかったことが、今日は出来るようになっていたり。


「ユーリィ。」


 母親らしき女性が、俺の名を呼ぶ。

この6か月の間で目撃した人間は、この女性と黒髪の男の2人だけ、おそらくこの2人が自分の両親なのだろう。因みに父には狐耳は付いていない。まあ、男がけも耳を付けていても気持ち悪いだけだが。

彼女の白銀の髪と狐耳それに尻尾がゆらゆらと揺れている。相変わらず気合の入ったコスプレだ。


 母は、自分を抱き上げて家を出る。毎日の習慣になっていることだ。朝の早い時間から昼までと夕方から夜まで、母に連れ出されて家の周囲に広がる森の中を散策する。昨日は、家の正面から右手に向かって真っすぐ進み、森を抜けて深い渓谷に出た。母と一緒に覗き込むと激しい川の流れが窺えた。


「さて、今日はどこに行こうかのぅ。」


 20台そこそこといった小悪魔的な美人の狐コスプレママは、その口調にまで拘りを持っている。

 母は、鼻歌交じりに森を抜け、丘のような場所に出る。朝日が湖に乱反射してきらきらと光っていた。


「おお、綺麗じゃな。」


 俺にも見えやすいように、母が半身になってくれる。

大きな湖だった。向こう岸が、かろうじて見える。この湖を囲うように森は続き広がっているらしかった。


「さて、この辺りで良いかな。」


 母が俺を芝生の上に転がす。てい、最近出来るようになった寝返りで仰向けになる。

 どや顔の俺に母は、くくっ、と笑い離れていく。

 十分に離れた所で母は、腰に差していた何かを引き抜いた。

大体1m半くらい…いや、もうちょっと長いか。60cm強くらいのキラキラと光る棒を片手で持ち、母は自然体で立つ。

 じりじりともぞわぞわとも、何とも言えない悪寒のようなものが、身体の芯から込み上げてくる。

生まれてからも生まれる前にも、味わったことのない焦燥感。息を飲むほどの戦慄が身体中を駆ける。

 その時点で俺は、ようやく気が付いた。あの光る棒は刀だ。それも小太刀と言われているタイプの物。自分も前世のゲームでよく使っていたから見知っている。


「ふっ…。」


 柔らかな動作。頭の位置はブレることなく、景色がスライドしたかのように刀が横薙ぎに一閃された。素人の自分でも分かる、凄まじい腕前だ。

その動きは決して速いものではないが、緩やかに連続して繰り出される太刀筋は、酷く鮮やかで、美しい。

 横薙ぎから斜め下へ、下から上、上からまた斜め下へ。刃は三角形を描いて、振り出しに戻る。


「…うん?」

ちょっと待て、今の太刀筋。なんだ?何かがおかしい。ひどく既視感がある。

 母は続いて、半身の状態から腕を真っ直ぐに伸ばして小太刀を構える。

 フェンシングに似たその構えを俺は、知っている。


「(おいおいおい。)」

 未だ話せない俺の口から、言葉にならない声が漏れた。


「(まさか…。)」


 ふわりと風が吹き、数枚の落ち葉が母の前を通過する。

その一瞬、右手の小太刀が柔らかく動いた。落ち葉の1枚1枚が撫でるように切られ、母を避けて落ちていく。気付けば、母の姿はそこにはなく、左の掌底を繰り出した姿勢で静止していた。


 間違いなかった。見間違える筈がない。今の動きは…いや今の型は、小太刀の技の中で俺が最も好んで使っていた技だったからだ。

【小姫流小太刀術】その【4の型:雛菊】そして、【2の型:朝顔】への連続技。【雛菊】は攻撃をいなす技、【朝顔】は防御から掌底や蹴りに移る技だ。

そもそも先の三角形の太刀筋が【3の型:薔薇】。俺は、三角が2つできる様な太刀筋で使っていたから直ぐに分からなかったが、【薔薇】は無限ループを基本構想に創られた技だ。その為、型の中にある程度の自由が利く。そして【雛菊】から【朝顔】への連続技で確信できた。母の今の動きは【小姫流小太刀術】、前世にゲーム【セフィロト】で俺が使っていた武技だ。


いや、でも…まさか。

あれは、ゲームの技であって、現実の武術ではない。事実、10の基本の型の中にはゲームでないと出来ないようなモノも含まれていた。更にいえば【奥義】や【秘奥義】なんてものは、ゲームであっても無茶振りだろと言いたくなる様なレベルのモノだ。あまりにも現実的じゃない。ゲームと現実の差は大きい。いくら頑張ってみても現実では、かめはめ波は撃てないのだ。


ゆっくりと演武を行っていた目の前の母の動きがだんだんと速くなり、…速くなり過ぎて残像しか見えなくなっていても。

そう、出来ないモノは出来ないのだ。蹴りの風圧が俺の髪を揺らしていたとしても、無理なモノは無理なのだ。それが現実。それが正義。幾ら気合を込めて叫んでも、かめはめ波は撃てない。近所迷惑だと尻を叩かれるだけだ。そう、尻が赤くなる前に現実を見なければいけない。現実を!


 目を開けて、母を見る。いつの間にか俺は、目を瞑っていたらしい。危ないところだった、現実から目を背けてはいけない。


 母は、湖に向いて大上段に構え静止している。


 【小姫流小太刀術】にそんな構えはない。うん、やっぱり。ゲームはゲーム。現実とは別物だ。ちょっとこう…、似た武術か何かなんだろう。同じ小太刀を使ってるんだし、似た技があってもおかしくはない。


「ふー…。6の型」

 母の声が小さく聴こえた。


「牡丹。」


 母の腕がブレ、小太刀が振り下ろされる。


爆音が轟いた。

湖が割れて、水柱が空高く聳え立っている。騒ぎ逃げ出す森の動物達の声と水柱からあぶれた水滴達が、雨となって俺の元に舞落ちる。


 湖を見つめていた母が呟く。

「向こう岸まで届かなんだか。やはり鈍っとるな。」


【小姫流小太刀術6の型:牡丹】魔力をイメージにより斬撃と化し、飛ばす技。

 くるりと振り向いて、笑いながら母は俺に言う。


「そろそろ帰るかのう。」


 俺は、湿ってしまった両袖で顔を拭う。先の雨で生じた水溜まりに自身の顔が映り込む。ああ、なるほど。ここは元の世界ではないのだと、思い知った。


 母は俺を拾い上げて、鼻歌交じりに森へと帰り道を歩き出す。

母の頭には狐耳が揺れている。水溜まりに映った俺の頭にも、同じ耳が生えていた。自分で頭を触れば、モフモフとした獣耳に当たり、こしょばゆい感覚がはっきりとある。


 現実を見ようぜ、マイ・ブラザー。かめはめ波は撃てないんだ。当然、振り下ろした刀から斬撃は飛ばせない。頭に付いた獣耳に感覚は通わない。

 現実を見ようぜ、マイ・ブラザー。前世のゲームの世界で何百回と繰り返した体技とくりそつな技で、湖を割ったママンはびしょ濡れだ。


「(は、はは…。)」

 乾いた笑いが零れる。現実を見せつけられた気分だ。

茫然自失となった俺の頭には、ただ1つの事実だけが残った。そう、はっきりと自覚した。ここは異世界なのだと。




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