0,プロローグ②
○01.プロローグ②
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「サービス開始から5年経った現在でも、未だlevelをカンストさせたプレイヤーがいないとされるゲームMMORPG【セフィロト】が今回サービスの終了となり、スィナヴィクトをハードに【セフィロト2】として発売されることになりました。」
テレビの向こうでは、レポーターの女性が、はきはきとした声で告げる。
「そこでゼクス開発担当主任である柏木さんと副主任の宇佐さんに【セフィロト2】の内容およびその魅力について教えて頂きたいと思います。」
マイクを向けられた白衣の男の一人が、心底つまらなそうにレポーター向かう。
「どうも、ご紹介に預かりましたゼクス開発担当主任の柏木です。」
「副主任の宇佐です。えー、今回発売となる【セフィロト2】では、前作【セフィロト2】の世界から100年が経過した、という設定となっております。プレイヤーと区別がつかない程人間味あふれた人工AInpcと人工知能アリスによって管理された世界は、もう1つの現実といえる出来となっております。」
主任と名乗った男を押しのけて、副主任の男が話す。
「なるほど、前作に劣らぬ期待をしても良いということですね!」
「はい。100年後の世界というのも文明シュミレーションの側面もあり、プレイヤーが建国した国や生み出した技術、事件や出来事などが影響し合い経過した100年です。発展したモノ衰退したモノ、なかには古き記憶、文献としてしか残っておらず、語り継がれ次第に消えてしまったモノもあるでしょう。そんな時代背景も楽しんで頂ければと思っております。」
「つまり、前作をプレイしている方には、より楽しく。初めてプレイする方でも楽しく遊んで頂ける訳ですね。」
レポーターの女性が、話していない主任と名乗った男にもマイクを向ける。
「はぁ、まあ。」
「ちょっと、主任。」
副主任の男が諫めるが、主任の男に気にした様子はない。
「それよりも、記者さんに聞きたいんだけど、記者さんはプレイしたことはあるの?」
「え、あ、はい。まだ初心者の域ですが。すごい自由度に圧倒されました。」
主任と男の態度に呆気にとられながら、レポーターの女性は応える。
「自由度ね…。さっきカンストしたプレイヤーがいないって言ってたケド、【セフィロト】ではある一定のlevelを超えるとあまりlevelを上げる意味がなくなるんだよ。」
「え、それって…。」
「そもそも、ウチが創っているのはゲームであっても、仮想現実だから。なら現実 には優劣があって、しかるべきだし。平等なんてクソくらえだと思わない?」
「いや、あの。」
男の話には妙な魔力と迫力がある。妨げてはいけない何かがあるように感じてしまう。
「でもさ、その優劣がプレイ時間やlevelだけで決まるなんてつまらないと思わない?」
「それは。」
当然、レポーターの彼女も世の中には廃人と呼ばれる人種が存在していることを知っている。彼らは、より効率的に他の誰よりも強く、他の誰よりも早くゲームを攻略することを生きがいとしている。社会現象、社会問題となっている為、一般常識といっていい程だ。
また、ゲーム紹介番組であるこの取材の中で、彼らの観ている前で、彼らを否定すること憚られた。
「勿論、効率的なlevel上げが悪いとは言わない。それも一つのロールプレイだからだ。他の誰かよりも高いlevelでありたい、他の誰かよりも強くなりたい、貴重希少な物が欲しい、可愛いペットが欲しい、自分のデザインした物が認められたい…。友情、愛情、劣等感。7つの大罪に108の煩悩。人っていう生き物は欲でいっぱいだ。むしろまみれてこそ人らしくて素晴らしいとは思わないかい?」
男は言葉を区切って、笑みを浮かべる。
「好きにすればいい。」
「え?」
「そんな自分のやりたいように、やりたいことをやった人間ほど、強くなれる。自分の信じたモノを貫き通した人間だけが強くなれる。それが【セフィロト】というゲームだ。その為の自由度なんだよ。」
沈黙が流れる。レポーターの女性は圧倒され言葉を発することが出来ない。
「えー、つまりはですね。ゲームをより楽しんだ者が、最も強くなれるということですね。まー、今主任が言っていたように、ゲームの楽しみ方はその方次第です。戦闘系だけでなく、農作や建造、建国といったありとあらゆる生産系、商業系、経済なんていう様々な楽しみ方がありますので、どうぞご期待ください。」
副主任の男が話をまとめ、番組のエンディングロールが流れる。
「だから、主任と出るの嫌だったんですよ。」
「そう言うなよ。メリケン君。」
「誰がメリケンですか、USAですか!そのあだ名いい加減止めて下さいよ。だいたい主任が出たいって言うから…」
ぐちぐちと罵り合う2人の声は地上波に乗って響きプツンと突然途切れた。