癒える無色
瞼を開き、室内を見渡す。
天井の蛍光灯、医療器具の陳列棚。そして、椅子に背もたれして、 うたた寝をする アルマ。
起き上がると同時に
「まだ、寝ているのだ」
眠いといわんばかりの形相のアルマ。ふわりと、タクトの肩にその手が乗る。
「 すみません。僕、アルマさんを起こしてしまいました」
「私は、寝てない」
「あ、口によだれのあとがある」
焦る、アルマ。手の甲で拭う。
「はは、嘘ですよ」
「この私を嵌めるとは!」
目尻がつり上がるものの、言葉に棘はない。
面白い。こんな一面を成り行きで見てしまった。
「調子に乗るのは、今日だけだ」
咳払いして、前髪を掻き分けるアルマ。
「はい」と、微笑しての返事。
「タクト、起きたんね?」
筒型の容器を2つ手に持ち、ハケンラットが入室する。
「あ、どうも」
「顔色も、よかごたんな。取り敢えず、一安心たい!」
「手間を、掛けさせな?」
受けとる容器を握りしめ、感触を確かめるアルマ。
「ニケメズロの“技工の力”ば、使ってもらった“俺、反動病になった。アルマさんに処置してもらわないといけない”なんて、おめきよった」
「不純な奴だな」
アルマの眉間に皺がよる。
「おどんもそう、思うた。だけん、カプセル作るだけではそぎゃんはならんと、相手にせんかった」
膝を組み、顔を伏せるタクトに「おまえの場合は不可抗力だ」のアルマ。
頭上に軽く拳。痛みがないのが一層に複雑と、胸の奥に刻まれる。
「アネさん、よかね?」
「今すぐ、移す」
蓋を開け、赤い突起物にアルマの指先が乗る。
何の事?とタクトは、ハケンラットに尋ねる。
「アネさんが、あたから吸いとった“力”ば、そん器に詰むっとよ」
「吸いとった?」
怪訝とすると、ハケンラットは更に言う。
「あた、おどんたちの説明、頭ん中に全然入っとらんかったごたんな?」
「よすのだ、ハケンラット」
時計のアラームに似た音が室内に響き渡る。
蓋を閉めると、更にロックして、タクトの右手の中に押し込まれていく。
「おまえの“力”を返す」
柔らかな面持ちでアルマは言う。
目視。この中に、自分の“力”が入っている?
「もうひとつの器はどきゃんすっとね?」
「もう少し、待て」
そして、再び手渡される容器。
「それは、託しとく。一度きりしか使えないから慎重に保管しとくのだ」
〈治癒〉と、浮かぶ赤色の文字。
しみじみと、見つめていると、室内の通信機からの着信音に、身体がすくむ。
「私が取る」と、アルマ。
通話が終わり「ロウスが報告したい事があると、申し出た。電算室に行ってくる」
扉の前で、直立不動の姿勢のアルマが振り向く。
「タクト、おまえもついてこい」
ベッドから降りて、靴を履く。
そして、三歩後ろでアルマの後を追いながら、通路に靴を鳴らしていった。