表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

白線緊迫

「駄目です。隊長の通信機の故障か、電波圏が外れている為、通信不能です」

通信室がある二両目、技工士のニケメズロは通信機の調整でアルマにそう、報告をした。

「故障なら、修理。おまえの“技工の力”で出来るだろう!」

こめかみに青筋を浮かべるアルマ。

「無理です。隊長の現在位置も確認出来ないうえに、例え使うとしても半径一キロが限界です。それ以上の距離は、3日ぐらい寝込んでしまいます」

「使って、寝ろ!」

「アルマさん、いけません!」今にもニケメズロに拳を振りかざしかけてるアルマに、驚愕するタクトが阻止をするように、双方の間に入り込む。

「お気持ちは判りますが、暴力では何一つも解決しませんよ!」

沈黙のアルマ。そして、響く衝撃音。

「この距離なら使えるだろう?」

壁に窪む拳の跡形、激しく閉まる車両の扉。残るタクトはニケメズロの顔色を伺う。


今にも号泣しそうだ。そして、僕にすがってる。


「タクト、何とかしてくれよ」

涙声の ニケメズロに掛ける言葉を考える。

「アルマさんのあの態度では、僕では無理です」

「速答、だったな」

同時にお互い、ため息。

「この列車、もともと民間運営の鉄道会社の旅客用 だったんだ。外壁もそんなに頑丈に造られてない。

装甲補強を交渉したが、却下された」

ニケメズロは窪む跡形に手をかざし、黄土色の光を放つ。

「ニケメズロさんの“力”があるから大丈夫と、みなされたのでは?」

「隊長なら、その事情を知っているだろうな。まあ、訊いても応えは返ってこない。あの人は、そんな性分というのは、此処にいる連中では暗黙の了解だ」


心当たりがある。

バースが 列車を降りてまで、自分たちに任務を優先させた理由も判らない。更に時を巻き戻せば、こうである。


―俺についてこい。


一方的な言葉と強引な行動。鬱陶しいと、思う時期もあった。


―俺の話を聞いてくれ。


感情とも捉えられるあの時のバース。

混乱、動揺、無念。

深くバースを知るチャンスを逃してしまったと、自責の念。


「タクト、顔がやたらと青いぞ。アルマさんに許可貰って休め!」

壁の窪みはふさがり、黒い手袋を外しながら、ニケメズロが言う。

「そうですか?でも、そうするわけにもいきません」

「軍の規則でも義務づけられてる。おまえは特に未成年者だから、適度な休息をさせないと、逆に俺たちが監督不行き届きで言われてしまう」

「アルマさん、隊長代行ですからね。むしろ、そっちが怖いのでは?」

「真面目に言ってるのだ!もう少し、自分を大切にしろっ」

そばかす、癖毛、細目。そして、意外な言葉。

「アルマさん、今日は9両目の警護でしたよね?お話しつけても大丈夫かな」

「休憩時間を待ってたら間に合わない。急げ!」

そんなに、具合悪そうな様子に見られてるのだろうか?ここで、更に反論する訳にはいかない。

仕方ない、言う通りにしよう。

渋渋と、アルマに話をつける為、9両目に向かう。


「任務中だ。雑談なら休憩中か、交替の合間にするのだ」

予想通りの反応。

「そうですよね!ああ、本当に大変失礼しました。それでは、僕は―」

「待て、タクト」

呼び止められて、更に腕を掴まれる。

「おまえ、私に何か言うつもりだったのだろう?少しだけ時間を与えるから、手短に述べるのだ」

困惑。どうしよう、とても休ませてください何て言える雰囲気ではない。

「アルマさん、直ちに休憩してください」

言い方を誤ってしまった。でも、満更でたらめでもない。そう、この人だって、消息不明のバースさんに気を揉まされて、ヘトヘトのはず。

嘘も方便。自身に対する都合がいい、解釈をしていると、アルマは小型通信機を耳に装着する。

「ザンル。おまえ、今暇だろう?今から私の警護車両を代行しろ。さっさと、来い!」

ぶっきらぼうな指示に唖然と、なる。

「タクト。車両を出て、通路で待機しろ」

今度は、僕に?言われるがまま、扉を開く。そして、待機。

前方より、猛烈な駆け足でひとりの隊員がタクトの肩をかすめ、車両に飛び込んでいく。

「遅い!」と、アルマの罵声。

怖い。と、身がすくむ。

振り向くと、アルマはため息をつく。

「休憩が必要なのは、私じゃない」

アルマが右手の指先で胸元を押し込む。足元が揺れる感覚 と同時に身体が更に前方に傾く。

膝と手を床につけて、支えると

「タクト、おまえだ!」

言葉に反応するように、タクトは、脱力感に襲われ、そのまま倒れ込んでいった。



「ハケンラット、私だ。緊急だが、9両目の通路で隊員が一名、倒れてる。症状はかなり重い。直ちに処置を施す必要ありだ」

通信を終え、アルマは抱えるタクトの頬に手を添える。

「いつからその症状が表れていたのだ!」

タクトは朦朧とする意識の中、アルマの顔色と声を探るように目を開き、耳を澄ませる。

「ゆ、夕べぐらいから、何となく身体が重い感覚がしてました」

「倒れこむまで何故、我慢していたのだ?」

「だって、アルマさん僕より大変そうじゃないですか?僕が体調不良を訴えても―」

「なんね?急病人てタクトだったとね。そぎゃんなら、アネさんがぴらぁと、診ればよかとに!」

国なまりの言葉に濃い眉毛。小柄の隊員が担架を抱えながら、そう、言った。

「誤診防止の為、二人で診断するのが規則だ」

「頭、かたかな」

「つべこべ言わずにさっさとタクトを救護室に運べ!」


ハケンラットの白い光が、ベッドに横たわるタクトのつま先まで照らされていく。

「急性反動病。急激に“力”ば、つこうたのが原因ばいた」

「やはり、な」

ため息とともに、アルマの瞳が曇る。

「あの、僕にはなんのことかさっぱりですけど?」

「タクト。あた“力”を 勘なしに放出したろ?そんときは自覚症状はなかけど、あとからじわっと、身体に来るとが多かとよ。そっでな―」

「タクト、おまえの身体に自身の“力”が跳ね返って傷つけている。それが、反動病の症状だ。空になった“力”を蓄える機能が過剰反応を起こし、一気に膨れしまう。例えれば、風船だ。更に分かりやすく言えば、空腹の余り、一度に多くの食事をとると、どんな状態に堕ちる?」

「苦しくて、吐く。ですか?」

「それも出来ない状態が、今のおまえだ。とにかく安静にして様子を診るしか方法がない」

「少し横になったから、大丈夫です。僕、任務に戻―」

起き上がろうとするタクトにアルマが押さえ付ける。

「ア、アネさん!なんも、ベッドの柵に頭ばうちつくっほどタクトば寝かせんでもよかろ?」

「こうでもしなければこいつが動き出す!」

「よさんか!アネさん。タクト、ほんなこつ、動かんごつ、なっばいた」

胸元に膝。苦しい、と、タクトは息が詰まるような形相をする。

「ニケメズロさんも、さっき“力”を使ってましたけど、大丈夫なのですか?」

「人の心配はいいっ!」

「アルマさんこそ、僕ばかりに気を取られたら―」


タクト、私を困らせるな。


声を震わせ、更に目に涙。

アルマさん、本気で僕を心配してる。


「ごめんなさい。でも、僕のせいで隊員のみんなに迷惑もかけたくない。だから、せめて、お薬だけでも処方してください」

「薬だけでは処置が間に合わない」


不安。自分の身体が其処まで大変と、言う自覚は全くない。だが、どうなるのか?と、焦りを覚える。


「アネさん、こぎゃんしてタクトば寝かせとくのもいかんとじゃなかとね?」

「焦るな、ハケンラット。私も“治癒の力”を持っている。タクトに合った処置方を検討中だ」

「お二人とも、そんな、か、ん、じょう、て…きにな、な、なら、ずに―」


苦しい。全身が、紐で巻き付けている感覚がする。

どうしよう、ドウシヨウ、声が出せない。


「しまった!タクト、しっかりしろ」


アルマさん、何処?真っ暗で見えない。


「アネさん、しかたんなか!あの方法でタクトの中にうったまっとる“力”ば、抜き取るしかなかばいた」


ハケンラットさん、それって―。


―麻痺させろ。


シーツを握りしめる手の感覚がなくなる。


助けて。


うっすらと開く瞼から、アルマの顔が近づき、そして、耳元で震える唇の感触が伝わっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ