表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

時は朱色

蜂の巣の物体は、綿飴が溶けるように消える。

列車はタクトの“力”で更に加速を増し、レールの上で駆け抜ける。

キンキンと、耳鳴りに加え、身体に衝撃を受けるタクトは、額から床に転倒すると、抱腹前進して車窓の枠を掴む。そして、 窓を開き、流れる景色の中にバースの姿を見つけると、その方向へと右手を差し伸べる。


微笑して、敬礼。それは、バース。


駿足の列車は光速になり、その姿を置いていく。

タクトもまた、掴むように、遠くなるバースに指先を張る反物の如く、まっすぐとさせる。


触れる。それすらなく、蜂の巣が再び塞がった。


虚しさが、タクトを押し潰していった。




「ご苦労だった。ひとまず、息をつくのだ」

車両の扉が開く音に混じり、アルマが靴を鳴らして声を掛ける。

「タクト」

肩に手が乗る感触を覚えると同時に、身体が左回りをする。

正面にアルマの顔。目を合わせることもなくうつむくと、更に顎に指先が押さえ付けた。

「しゃんとしろ。その様な顔だと、子供たちが不安を覚える」

「バースさんのこと、心配しなくていいのですか?」

「目先の感情に囚われるな!」

アルマの罵声に我に返る。

「僕、喉がからからです。水分補給していいですか?」

「その程度で私に同意を求めるな」

安堵の面持ちのアルマ。その手に引かれ、最後尾の車両を後にした。


「飲むのだ」

車両の席に座り、アルマから氷が浮かぶ器を受けとる。

凝視。やたらと濃いコーヒーだ、入れたのはたぶん、アルマさん。文句は言えないと、思考をかき回し、口をつける。


とてつもなく甘い。


吹き出しそうになり、頬を膨らませると

「どうした?“力”を使った反動が出たのか」

疑問。初めて聞くその言葉に理解が示されず、とっさにこういった。

「冷たくて、美味し過ぎるから口の中でゆっくり味わいたかったのです」


舌に痺れを覚えた。


そんな本音を、胸の内に苦味と甘味が強調されるコーヒーとともに押し込んでいった。


車窓へと視線を向け、淡い紅色の雲とその隙間から覗かせる陽を 見つめる。

「いつの間にか、陽が沈む時になっていたな。今日の任務は終了して、自由に過ごすのだ」

「そんな、みなさんに迷惑を掛けるだけです」

「命令だ。指示通りにしろ」

額にこつりと軽く拳が押し込む。

微笑。綺麗だと、タクトは思う。

タッカが呼んだ。そう、言ってアルマは去る。


夕陽。バースさんも同じく見つめているのだろうか?


頬に朱色の光が注ぎ込まれる。

暖かい。

飲み掛けのコーヒーを窓枠に置き、瞼を閉じる。

穏やかに走行する、列車のレールの響きに心地よさを覚え、笛の音色に似た寝息を、吹かせていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ