碧は生まれる
―俺とタイマンで罠の装置を停止させる。タクト、
おまえ”加速の力”持っていただろう?そいつを使って―。
列車を走らせろ。任務を中断させるな。バースの言葉が頭の中で木霊する。
バースさんのことを馬鹿だ、勝手だ、と言ってたアルマさんに同情する。
おまえは俺にくっついとけばいい。子供扱いする態度を示され、怒りを少し膨らませたこともあった。
あの時も、と、振り返る。
子供たちが向かう場所を訊き、目尻を吊り上げられた。
何があるのだろう?何故、僕は バースさんについてきたのだろう。
後悔ともいえる思考が駆け巡る。
「タクト、バースがおまえと話をしたいそうだ」
瞳を曇らせるアルマから、小型通信機を受け取り、装着すると
『おう、元気か』と緊張感がないバースに、返す言葉を考える。
「バースさんのあんぽんたん!」
『怒るなよ。俺の話しを聞いてくれ』
バースの珍しい催促に、通信機を握りしめ、耳を傾ける。
『子供たちが向かう場所だ。あいつらは俺達と同じく“力”を持っている。その育成をする目的で、ある団体主催で集められた』
「この状況と関係しているのですか?」
『大有りだ。理由は分からないが、その護送に邪魔が入ったのさ』
危険な任務?ふと、思い、バースを問う。
『話せば、怖じける。俺はおまえをそう、解釈してた。それ、撤回する』
「その代わり、アルマさんに手こずってましたね ?」
微笑混じりで 応答すると『バカチン!妙な突っ込みをするな』はにかみ、赤面するバースの形相を思い浮かべる。
列車が動き始めたら車両に“力”をぶっ放せ。バースとの通信は、そこで止まり「ありがとうございます」と、アルマに通信機を返す。
「馬鹿野郎!」
アルマの罵声に振り返る。
涙、目頭を押さえる仕草。それは、確信と、なる。
恋人、思い人。どちらを取ってもバースさんはアルマさんの大切な人。淡雪のような感覚がタクトの思考に降り注ぐ。
嗚咽。口を塞ぎ声を押し込めるアルマさんに今、言葉にしてもいいはずだ。お返しは、たぶん、硬い拳 。
息を吸い込み、胸の内に錠を掛ける。
「アルマさん。僕、ありったけの“力”を放します。危ないから、この車両から出てください」
任務を優先。感情をそれに変換して出す言葉がもどかしいと、タクトの心情を察するかのように、アルマはこう、言った。
おまえも私を女扱いするとはな。
柔らかい眼差し、華奢な容姿、春に咲き誇る花の色を思わせる腕の肌。
愛しい。その言葉を口にすることは二度とない。
扉が閉まる音と走り出す列車。その同時に、タクトは膝を曲げ腰を下ろすと、床に両手をかざし、蒼い光を解き放していった。