虹色の灯〈3〉
着信音、途切れず。
30のコールでも、誰もその手を伸ばすことがなかった。
「子供の悪戯か?」
アルマ、額に汗を滲ませ、更に眉を吊り上げる。
「いえ、外線になっております」
恐る恐る、通信機へ歩み寄るニケメズロ。
「本部からかもしれない。応答するのだ」
受話器を手にして通信を開始するニケメズロ。
驚愕の形相をアルマに向ける。
アルマさん!直ぐに出てください。
バース、バース隊長です!
ざわりと、騒然する室内。
アルマに一斉に注目する隊員。
アルマの形相、瞬時に呆然。
カタコトと手を乗せるテーブルに振動が起きる
。
アルマ席を立ち、途中で脚をもつれさせ、転倒寸前に、腕を掴まれる感触を覚える。
「慌てなくもいいですけど、急いで、出てください」
タクトの声、ふくよかにアルマの耳元に届く。
涙ぐみ頷くと、姿勢を正し、ニケメズロから受話器を受け取り、更に通信機の外部スピーカーのスイッチを押すと、音量のレバーを最大の位置に移動させる。
「バース!私だ」
『アルマか?久し振りだな』
明朗な口調。
緊迫感無しのバースの言葉に、アルマ、唇を噛みしめ更に息を頬に溜める。
「この、超馬鹿野郎め!今まで何処をほっつり歩いていたっ」
アルマ、声を轟かせ、溜める息を一気に吐く。
『はは、相変わらずだな?その様子だと、連中どもはかなり手こずっていただろうな』
「安心しろ!おまえの声は今、筒抜け状態だ」
『お、アルマ風邪でも、ひいたのか?さっきから鼻をずるずる、する音がしてるぞ』
おお馬鹿野郎!
「アルマさん、僕が代わりに応答します」
タクト、苦笑しながらアルマより、受話器を受けとる。
目頭赤く、涙声。アルマ、顔を両手で覆い被せ、近くの椅子に腰を下ろす。
「バースさん。お久しぶりです」
『おおっ!タクトか。背は伸びたか?』
たまの会話、なんて、騒々しい。
思惑抑え、タクト、間をおいて応答を始める。
「バースさん。もう少し、緊迫感と、いうものを持って頂けませんか?僕の後ろのアルマさんが怖いのです」
『持ってるさ!ギンギン、ビッカビカと、な』
呆気。
「隊員のみなさんも、痺れを切らせてます。宜しいですか?」
『判ってるわーい!俺が今、何処にいるかと、おまえ達うずうずしてるのだろう?』
お願いします――。
列車は今、どの辺りを走っている?
ヨツイ平原です。
ラッキーだ!俺達ひょっとしたらその近くにいる。
目印になりそうな、例えば、建築物は何だかありますか?
『大昔の炭鉱跡地にいる』
「ここからだと、センダ坑遺跡が近い!」
電子機器の端末を操作して、検索するロウス。
タクト頷き、再び、バースと通信する。
「処で、タイマンさんも同行されているのですか?」
『生きてるけど、足の骨を折っている』
判りました。其処まで、迎えに行きます!
待て!俺達のいる場所と、列車の路線位置を確認しろ。
「ロウスさん」と、タクトは訊く。
「遺跡と路線、停車して結ぶ距離は、およそ400㎞だ」
遠い。
「列車には、地上を移動する為の乗り物は積まれてない。救助するには、徒歩での移動になってしまう」
目頭を押さえるアルマ、肩を震わせ、そう言った。
『何か揉めているみたいだな?判った、俺達がいる場所まで無理して来なくていい!』
「え?だって、タイマンさん負傷されているのでしょう!」
――列車を直線距離で、停車させろ。其処まで俺達、移動する。
「ロウスさん、停車ポイントお願いします!」
バースの言葉に、確信を持つタクト。ロウスに促す。
「ナンデパッタ305と、でたぞ!」
――だ、そうです!
『十分だ。頼むぞ』
了解―――。
タクト、通信終了させ、嗚咽するアルマへと歩み寄る。
―――アルマさん。
タクトの両手、アルマの頬を挟む。
「もうすぐですよ。もうすぐ、バースさんに会えますよ?」
泣かないで、アルマさん。
タクト、ごめんなさい。
謝るなんて、よして下さい。あなたに必要な方は、バースさん。
――僕のことは、もう、気にしないで、あの人の処に、思い切り、飛び込んで、下さい――――。
タクトの蒼い光、思い出の灯。
虹色が照らされ、影、落とす――。