虹色の灯 〈1〉
食堂車、対面で席に着き、夕食に舌鼓の最中のタクトとアルマ。
アルマさん、それ、五杯目。
千手観音の如く、食事をむさぼるアルマの姿に、呆気にとられるタクト。
「ロウス、食後に〈岩かぼちゃプリン〉と〈ギリボッカ豆 〉のコーヒーを頼む」
〈しゃっきり魚のたたき〉を舌に乗せ、啜るように口に含ませ、そして、咀嚼。それは、アルマ。
久し振りの魚料理、満足。ロウスさん、相変わらず料理の腕前、凄い。
「今日の魚は、ニケメズロが地引き網漁で捕獲したものだ。新鮮な食材だから、俺も包丁握っていて楽しかった」
満面の笑みを湛えるロウスに、タクトもつられるように、微笑み返す。
テーブルにコーヒーと紅茶、アルマにスイーツと、トレイに乗せて運び、タクトの隣に着席するロウス。
「アルマさん、お食事もひととおり済まされた見たいですので、宜しいですか?」
「いいだろう。聞こう、ロウス」
深刻な形相のロウス。口元をナプキンで拭うアルマ、それらを目視するタクト。
「此のまま順調に列車が走れば、予定通りに明後日に任務は終了。その後の我々はどうすればいいのかと、いう件です」
アルマ、瞳を曇らせる。
「その先の指示は、無い。本来なら、バースが受けるであろうが、奴とは相変わらず音信不通状態だ。かといって、私が、本部に連絡を取る訳にもいかない」
バースさんの事、報告してない?
「バースは任務離脱した。理由に、例の事件を付け加えるとなれば、護衛隊そのものに連帯責任が負われる。其だけは、避けたい。バースも、望まない事だ」
アルマさん、大変そう。立場的にそうだからだろうけど、原因はバースさん。
本当は?と、タクトの思考にバースの姿を刷り込ませる。
バースさん、何処にいるの?アルマさん、可哀想だよ。強そうにみんなに振る舞っているけど、きっと、いつも、バースさんの事ばかり考えてると、思う。
僕も、そうだ。たぶん、みんなも同じ。
帰ってきてよ、バースさん――。
「子供たちにも思い出ができましたね?それから先も僕たちは付いていく事が出来ないのも、寂しいですよ」
「思い出、か」
ゆっくりと息を吐くアルマ。
「あの子達、列車を降りた後、何処に行くのでしょうか?」
「タクト、それは、私も気になっている」
「我々には極秘で、軍がこの任務を遂行させていると、しか思えません」
「そうだな、ロウス」
隊員のみなさんを集めて、この件に関して意見を出しあってみたらどうですか?
「その提案を待っていた。タクト」
通信室。隊員は、其処に集う。
「明後日に、我々の任務は現地時刻15時で終了する。それに伴い、最終的な会議を開きたい。意義ある者は挙手をして示せ」
アルマの澄みきる声、室内に響く。
沈黙。
「誰もいないな?それでは始めることにしよう」
アルマ、着席。隊員、一斉に注目する。
「本題の前に我々の任務内容を確認する。其においては、タクト、おまえが述べよ」
視線、タクトに向けられる。
困惑の形相で、アルマを見る。
「野次を飛ばす者が在れば、私が容赦なく手を出す」
咳払いして、起立。
「16名の子供を護衛して、現地に送る。アクシデントは、残念ながら発生しましたが、子供たちは守る事は出来ました。課題は在るものの、残りの任務期間、僕も護衛隊の一員として、気を引き締めて、遂行致します」
緊張する。滑舌も、上手くない。頭の中で、どう、言葉を伝えようなんて余裕も、与えてくれなかった。
アルマさん、キツいよ。
不満、感情が思わず顔に出る。
ふと、アルマの面持ちに視線を向ける。
――よく、頑張って言えた。
我が子を誉めるような眼差し、言葉は憶測。
勝手な解釈だ。此くらいで舞い上がってどうするのだ、僕。
「アクシデントと、タクトの発言に関して、議題に掛けたい。其においては、皆、くすぶっていたはずだ。腹一杯ぶちまけろ!」
そっち?僕、担ぎ出されただけ?
落胆。
「タクト。おまえ、今自分が言った言葉に波紋が広がったなんて、解釈しただろうが、むしろこちらにとっては好都合なのだ。罠を仕掛けたのはどんな意図があっての事だと、躊躇うなく、見解出来る」
アルマ、微笑。同じく、隊員一斉に頷く。
「子供そのもの、あるいはバース。どちらかが狙いだ」
そう言ったのは、タッカだった。
「“力”を持つ、子供。軍にその護衛を依頼する程の大がかりな何かがある。目的が掴めない中、ただ受け身での任務では、此れから先が目に見えてる。隊員の最年少のタクトにも、危険が迫ってしまった。我々だって、人だ。バースとタイマンも、巻き込まれた。任務を遂行するなか、これ以上自己犠牲になる必要性が何処に在るものか?守るものは何か、と、立ち上がって欲しい」
アルマさん、ずっと、それを考えてた?
「おい、おまえ達。タッカと私ばかりベラベラ喋らせてどうするのだ!其処の、マシュ、たまに顔見せてるくらい、何か言えっ!」
「はあ?僕、みんなと違って、何も役にたちませんよ」
憔悴の形相のマシュ、更に困惑な感情を口に含ませる。
「なんばいいよっとね?あたがおるけん、列車が走りよっとよ。だんなだって宛にならんもんは任命はせん。こぎゃんして列車に乗っつるあたたちば、頼りにしとっとばい」
だけん、任務をおどん達に任せた。で、なければ、あん時、列車は引き返してた。だんな決死の覚悟だったはず、ばいた――――。
静寂。
誰もが、ハケンラットの言葉に反論する事はなかった。