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薄紅蛍〈後編〉

涙味、苦し。


アルマさんの言葉はいつも、竹を割ったように、容赦無し。


己れに厳しい。その、表れ。


判っていたはずたが、受け止められない。


母親のことを、ふと、思い出す。


アルマさんと、比べる訳ではないけど、母さん、繊細な人だった。


父さんと、激しい喧嘩はなかったけど、時々見せる寂しそうな顔が 、何故か哀しかった。


そして、生まれて間もない弟、アルトと一緒に置いてきぼり。


蘇る、記憶にバースの姿。



バースさん、バースさん、バースさん。


母さんの事思い出す暇がないほど、僕はあの人にくっつくきまくった。


本当は、嬉しかった。


バースさんと同じ道にいること。


でも、あんまりだ。


ふらりとまでではないけど、置いていかれた。


ふんばってたけど、なんだか、ぱっと、明かりが消えたように、目の前が真っ暗になった。


僕、これからどうすればいいのだろう。


バースさんは、いない。アルマさんには愛想を尽かされた。


明日なんて、もう、来てほしくない。



「はがいかとね?」


ハケンラットの声に、タクト、それまでの思考を止める。


「いえ、そんなこと、ありません」

「なら、何で、あた、泣いてるとね?」


頬に手を押しあてる。


無意識にこんなことをしていた?

見られていたのがハケンラットさん。焦るけど、少し、安心。


「僕にも、判りません」

「あの、娘っ子、むぞらしか(愛くるしい)な」

「そうですね」

目頭右手で、こすり、大きく息を吐く。


ハケンラットさん、シーサの“習得の力”今、此処で取り除くと、いうのは出来ないのですか?


訊くタクトに、ハケンラット、傍にある椅子に腰掛ける。


「おどんも、ちと、おもうた。でも、そっはできん。アネさんも、たぶん、同じことを考えてたはずばいた」

「アルマさんが?」

「備われてる“力”ば、抜くっとは、命ば、取ってしまうと同じくらい、罪が重いと、ばい!」

「その“力”で人を傷つけてしまう恐れがあってもですか?」


「そぎゃんたい」

耳穴に小指を挿し、ぐるりとかき回す。それは、ハケンラット。


“力”て、何の為にあるのでしょうね?


その言葉と、ともにお辞儀して、退室する。


任務。


頬をぱちんと、両手で挟み、叩く。


結局、それを優先。


前を見る為の理由。そう、思考に刷り込ませていった。




「おい、タクト。アルマの姿が無いが、何かあったのか?」



おまえ、例のこと、喋ったな?そう、とも受け取れる顔してるよ。タッカさん。


即、首を横に振り、小型通信機を作動させる。


アルマの応答無し。


「僕、直接、呼びに行きます」

「俺が、行く」

「タッカさん。アルマさん、個室で休まれているのです。あなたが行くと、変な事に成りかねてしまいそう」

「おい、おい。俺が下心丸出しみたいな言い方するな!」


タッカさん。珍しく、焦ってる?


「剥きになるようなことは言ってませんけど?」


冷やかしか!


さあ、どうでしょうね?


ニヤリと歯を見せ、ひるがえすタクト。


残るタッカ

「やれやれだ、ぞ」呟き、髪を握りしめた。




16両編成の列車。倉庫車両を挟み、個室の車両は合わせて二両あった。


その、後方の車両の一番端にアルマの個室。


「アルマさん、アルマさーん。もうすぐ出発の時間ですよぉ」


扉にノック三回。


やはり、返事無し。


扉の隙間から、漂う光の粒に目視。


瞬いてる。


ぽろぽろと、野原に咲く黄色い花の後の白い綿帽子と、違う色と、飛びかた。


昔はたくさん夜空を翔んでたのよ――。


ベッドの中の僕に 、絵本を読み聞かせる母さんの言葉、懐かしい 。


頬をかすめると、瞬きは消る、光の粒。


「其処にいるのは誰だ!」

扉の向こうで叫ぶ声。それは、アルマ。


硬直。


瞬時に応答。


「僕、です。小型通信機で呼びましたけど、応答無いから、こうして直接伺いました」



入ってこい。


扉のロックが解除される音に紛れて、アルマの声。


焦る、タクト。


何べんも言わせるな!いいから、はいってこい。


咽、思わず鳴る。


恐る恐る、扉のノブに手を掛ける。


開く扉の向こうから、室内を埋め尽くす光の粒。


ふわり、ふわり。


ぷか、ぷか。


今一度、扉に掛かるプレートの隊員の名前を、確認。


変な空間が現れた?それとも《虫》?


タクトの思考、混乱。


「私の“力”が、粒子化して、身体から、放出しているのだ」


か細い声。まるで、誰かに助けを求めているような、声色。


アルマさんが、落ち込んでる。


見せたくないはずだ。でも、どうして、僕なの?


「タクト――」


涙声。光の粒をかき分け、アルマの腕を掴む。


背中にその手を伸ばす前、アルマ、タクトを両腕に包み込み、更に引き寄せる。


綿毛の感触。


今度は自発的。躊躇うとはなく、そのまま、アルマにその身体を委ねる。


女の人、僕は初めてそれを意識した。


心地よい――。


幻想、薄紅色。


「アルマさんの光、綺麗です」

タクトの言葉、アルマの身体が震える。


受け止めた?


その振動、タクトに伝わり、深く身を押して行く。


「感情が高ぶると、こうして、放出されてしまう。いつもなら、すぐに止まるのだが、今回ばかりは、焦っていた」


おまえが来てくれたことに、感謝する。


後頭部に柔らかく乗る手の感触。安堵混じりの吐息。


今だけ、だ。


アルマさん、お願いだから、それっきりにしてよ。


僕、欲張ってしまうよ?


「あ、もう、いいのでは?」


室内のアルマの光、溶けて消える。


アルマの腕、ほぐされ、タクト、ため息。


「私は、おまえに謝らなくてはならない」

「どんなことに、ですか?」


判らないなら、いい。


その言い方、まるで子供みたい。


微笑のタクトに

「おまえに、言われたくない」

はにかむ、アルマ。


安堵、いつものアルマさん。


「列車が動いてからでいい。夕食に、付き合って貰えるか?」


喜んで、楽しみにしときます。


扉が閉まり、室内のアルマ。


――バース。


その囁き、タクトの耳元に届く。


空耳、それに一応しとこう。


瞼を閉じれば、無数の薄紅蛍。


思い出にはまだ、したくない。


自身で振り切る日がいつか来る。


それまで、どうか、消えないで―――。





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