緑の空、灰薫る
「タッカ、こいつを見ろ」
前髪、目を被るバンドが、言う。
「《探り虫》ではないか!何故、こんなものがいるのだ」
「何ですか?それ」
タクトは、列車から運び込んできた料理が詰まるケースを簡易テーブルの上に置き、タッカがつまむ、其を、凝視する。
「見た目は、虫だが―」
タッカが、両手を挟むと、中から黒色を帯びる潰れた塊が、現れる。
「刺した相手の情報を転送。〈戦〉で使用されていた道具だ」
驚愕。そして、凍りつくような感覚。
タクトの思考に、恐怖と、いう感情が刷り込まれる。
「一匹だけか?」
「今の処は、な」
タッカとバンドは お互いに目を合わせ険相する。
「俺は、テントに放つ。バンド、おまえは引き続き、そいつを感知して、発見したら潰しまくれ!」
「昼飯抜きでかよ?」
「もたついてる間に取り返しがつかない事態が発生したらどうする!」
「例の事件もまだ、記憶にあるからな。判った、言われた通りにする」
バント、足元を灰色に輝かせ、飛翔する。
「あれが、バンドさんの“力”?」
「ん?初めて見るのか」
タッカ、両手をテントにかざし、緑の光、解き放つ。
「タッカさんは“防御の力”の使い手、か」
「見とれてくれるのはありがたいが、この一部始終は、アルマには伏せとくのだ」
何故?と、タクトは訊く。
「あの、事件と結びつけられたら、動揺なんて隠すことが出来ない。そうなれば、止めることなんて俺達では無理なのだ」
疑問。アルマさんの性格 にかなり、慎重な発言だ。
―止められるのは、バースだけだ。
その一言。僕にはキツいよ、タッカさん。
子供たちの昼食の世話の最中、タクトの頭の中はもっぱら、タッカの言葉だった。
「そういえば、ザンルはどうした?」
茶を啜るタッカ、昼食の後片付けをするロウスに尋ねる。
「ずっと、おまえの側にいたぞ」
ロウスが指差す方向に、背中を丸め、膝曲げるザンル。
「具合、悪いのですか?」
恐る恐る、タクトは歩み寄り、ザンルに声を掛ける。
「アタシ、絶対にアルマちゃんにぶっ飛ばされる」
困惑。今日一番活躍したのに、アルマさんがそんなことするわけない。と、タクトは宥める。
「あの、女のコ。ワタシの“力”習得してるみたい」
ふと、砂浜に視線を向ける。
膝の位置迄、隆起しては、元にもどる砂に手をかざす、女児。
「まずは、アルマさんに診てもらいましょう」
動揺するザンルを残し、女児へと、駆けていった。