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◆卒業式

さて、一年越しの最終回だ

「卒業式に、第二ボタンの予備持って来ててん」

「へぇ。予備何個?」

「五個」

「余った第二ボタンは?」

「六個」






 卒業式。高校の卒業式。冬も盛りを過ぎ、もう少しで春になるのではないかという時期。しかしまだまだ寒いのは変わらず、相変わらず手袋、マフラー、耳当ては必須だ。俺は凍えるような冷たい風に、ぶるりと体を震わせた。


「貧弱やなぁ、自分。そんなんやったらモテへんで?」

「大きなお世話だ」


 俺たちは今日で卒業だ。結局、高校生らしいことを何もしなかったように思う。


「……卒業したなぁ」


 いつもと似合わず、しみじみとした剛が呟く。


「なんだ、寂しいのか?」

「……せやねん、女の子と写真撮られへんかった」

「黙れ」


 台無しだっての。


「黙れってひどない? これで高校の女の子と絡めるんも最後やねんで?」

「あー、まあ、確かに? でもこれからでも誘えばいいだろ」

「そんなこと恥ずかしくてできるわけ無いやろ」

「何でだよ」


 誘えよそれくらい。


「結局、今日のための完璧な計画もなぁ……」

「完璧な計画?」


 そんなものをたてていたのか。俺の言葉に、ポケットに手を突っ込んでいた剛が、手をグーにしたままポケットの外に出した。


「そう。名付けて、終わらない青春第二ボタン計画!」

「……は?」


 自信満々に言う剛に、思わず冷たい声が出る。


「なんだその計画」

「へへん、知りたい?」

「いや、いいわ」


 なんかうざいし。


「ごめん、聞いてや」

「始めからそう言え」


 ごめんごめんと剛が言う。


「つまりな、第二ボタンを女子が俺に貰いに来るやん?」

「うん。……うん?」

「んで、その第二ボタンを渡すときに、俺が好意を持っているようなことを匂わす」

「……うん」

「そうすると、脈ありと思った女子が、卒業後も俺に絡んでくれるっていう完璧な計画」

「……へぇ」


 初っ端から無理があるだろ。


「わざわざ計画を実行する為に、 第二ボタンの予備持って来ててん」

「へぇ。予備何個?」

「五個」

「余った第二ボタンは?」

「六個」

「計画破綻してるじゃねぇか」


 つまり、一つすら第二ボタンを渡せてない。全く計画が使えてないな。


「というかこの学校、卒業式に好きな男子の第二ボタンを貰う風習とかあったか?」

「無いな」

「のっけから駄目じゃねえか」


 完璧とはなんだったのか。全くの謎である。


「しゃーない。まあこれは俺に何のリスクも無いって意味で、完璧やってん」

「それは確かに」


 だが、そもそも第二ボタンを貰いに来てくれるような女子がいるなら、こいつはこんな計画を立てていなかったのではないだろうか。きっと、もっと有意義な青春を送っていたはずである。


「というわけで、次が本命や」

「次? もう一つあるのか」

「そう、こっちこそ完全無欠の完璧な作戦や」

「へぇ、どんな計画なんだ?」


 思わず、興味津々で聞いてしまう。良さそうなら俺も乗ろう。


「その名も、恋愛ロードローラー作戦!」

「ろーどろーらぁ? どういう意味だよ」

「ふふん、何もわからない君に説明して上げよう」


 思わず上げてしまった疑問の声に、剛が芝居がかった台詞で答える。


「恋愛ロードローラー作戦。またの名を、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる作戦。卒業した女子を手当たり次第順番に告白していくんや」

「え……」

「どんだけかかっても、さすがに五人目くらいにはオッケーしてくれるやろ」


 いやいやいや。


「お前、馬鹿か?」

「馬鹿って何やねん。せめてアホと言えアホと」

「んなもんどっちでもいい」


 とにかく、と俺は続ける。


「そんな馬鹿な作戦、うまく行くわけ無いだろ」


 俺が冷たい目で剛を見ると、剛は不適な笑みを浮かべた。


「それが、そうでもないねんなぁ」

「どういうことだよ」


 ふっふっふっ、と剛がわざとらしい笑い声を上げる。


「うちの学校はクラスが結構ある。しかも、そのクラスの中でも女子のグループが分かれる」

「うん」

「今まで俺らが迂闊に告白できひんかったんは、成功するにしろ失敗するにしろ一瞬で広まるからや。一回失敗したらインターバルをおかなあかん。俺らはそれにビビって溜めすぎて結局活かしきれんかった」

「まあ、その節はあるな」


 告白出来たとして、一年に一回。もし好きな人が出来たらと思うと、簡単に告白なんて出来なかった。


「でも、学校から解き放たれた今は違う」

「うん?」

「今まで一瞬で広まってたんは、全員が毎日のように顔を合わせてたからや。でも、これからは滅多に顔を合わせへん。そうなるとしめたもんや」


 つまり、と剛は言う。


「俺らが何回告白しても、グループが違う女子に告白したら絶対ばれへん!」

「なるほど」


 確かに、ここからの情報交換の手段は主にスマホなどに限られてくる。そうなると、わざわざ連絡を取り合わない中の女子同士では情報交換が行われず、告白したことがバレない可能性が高い。


「やから、仲のいいグループごとに、一人は告白できる。単純計算で一クラス三グループやとして、余裕で十グループは超える! よっしゃ、俺もこれからリア充や!」

「なるほど」


 剛にしてはワンチャンありそうな話だ。剛も今回の計画に可能性を感じているのか、いつもよりも声に力がこもってる。


「卒業式で高校が終わり? 何言うてんねん。俺らの高校生活はこれからや」

「おお……。なんとなく成功しそうな雰囲気をしてる……」

「せやろ。今の俺は覚醒モードやで。いける」


 剛は強くこの計画に対しての意気込みを見せた。

 なんて話しているところで、ついに最寄りの駅に着いた。


「あっ……もう着いたんか。早いなぁ」

「そうだな」


 剛も俺も一瞬しんみりとしたが、剛はすぐに頭を振り笑った。


「俺は今日の夜、最高で十人の女に突撃する。お前は連絡を待っていてくれ!」

「……わかった」


 ではな、と何時も以上に堅い台詞で去っていった剛の背中は、なんだか大きく見えた。俺はその背中を見送った後、ゆっくりと自分のホームへと降りた。






 結局剛が十連敗し、さらに同窓会で全てが暴露され赤っ恥をかくのは、この二年後の話である。

なんとか完結にこぎつけました。今では恥ずかしくて読めない話もありますが、私の作品として編集せずそのまま残しておこうと思います。読んでくださった方、ありがとうございました!

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