◆下校路で、もし○○なら
「俺が鳥になったら? せやなー、数年前に引っ越した、仲良かった女子の所に飛んでいくわ」
「ロマンチックだな。好きだったのか?」
「金返してもらってへんねん」
「ロマンの欠片も無えな」
秋になると、心なしか感傷的な気分になる。「愁う」という言葉にもその様は表れている。昔から、秋になるとなんだか懐古的な、また悲劇的な気分になるのだろう。
いつもの下校路。俺たちは二人いつも通りに下校をしていた。
しんみりした季節に引っ張られて、俺たちもなんだかしみじみとしている。
「なんか、こんな気候やとロマンチストになりそうやな」
「わかる。授業中に窓の外の空を眺めて、息をつく感じ?」
「無意味に、鳥って何を思って空を飛んでるんやろ、とか考えてな」
「あるある」
夏が過ぎて過ごしやすくなったのもあるだろう、なんとなくぼんやりとしてしまう。
「にしても、鳥が何を考えてるか、なあ」
「気になるやろ? それだけで一日過ぎた」
「馬鹿だろ」
何時間考えてたんだよ。
「んで、結論は?」
「鳥にならなわからへん」
「普通だな」
何でその結論が出るまで一日かかったんだ。鳥のことは鳥にしかわからない。ある意味当たり前の答えだ。
でももし自分が鳥だったら、何を思って空を飛ぶだろうか。
「なあ、剛。もし自分が鳥だったらどこに何をしに飛ぶんだ?」
以下、冒頭に続く。
「しゃーないやん、たとえ相手が好きな女やったとしても、そこはきっちりしとかなあかんで」
「そりゃあ、そうだけど」
鳥になってまですることか。
「鳥だけに取り立てってな!」
「…………」
「鳥だけに取り立てってな!」
「……………………」
………………。
「と、 鳥になって取り立「もうやめろ」……ごめん」
「反省しろ」
いや、マジで。もう冬が来たかと思った。
「ホンマごめんて、さすがにこれは俺が悪かったわ。それよりも、自分やったらどうなん?」
「ん? 俺が鳥だったら?」
「そうそう」
うーん、考えたこと無かった。俺が鳥になったら、か。
「そうだな、三年くらい世界中を旅するか」
「へぇ、観光好きやったっけ?」
「……いや、勉強したくない」
「それただの現実逃避やん」
勉強が……したくない……!
「ろくな答えちゃうやん、自分」
「お互い様だろ」
取り立てか、現実逃避か。多分幾分か俺の方がマシだ。
「そもそも例えが悪いんだろ」
「……じゃあもし魚になったら?」
「いろんな所に行って海遊をするかな」
「なんで?」
「勉強したくない」
「一緒やん」
「……例えが悪い」
「アホか」
「自分えらいワガママやな」
「そもそも、その○○自体になる方法を、考える方が生産的だと思う。なれないと考える意味がないしな」
俺らが鳥や魚になることなんて万に一つもない。そんなことが起こるのはフィクションの中だけだ。
「まあそれはそやな」
「だろ? 例えば何かあるか?」
モテるようになる方法とか、格好良くなる方法とか、そういう感じの。
「せやなー、例えば犬になる方法とか」
だからそれだと現実逃避を……うん?
「……お前それソフトバ○クのお父さんだろ!」
「好きな子の犬が死んだから、代わりになるために犬になったらしいで」
なんの話だよ。
「いっそ狂気を感じるな」
「ちなみに、その時の好きな子が今の妻です!」
「……あ、いい話系?」
「ええと、なんの話やったっけ?」
「俺が、例えにうるさいとかそんな話」
しかし、そこまで声を大きくして言うほどではないだろう。俺はちょっとおちゃめなだけである。
「そんなに例えに文句あるんやったら、自分が例え出してや」
なるほど、そうきたか。
「わかった。じゃあ、もし女になったら?」
「せやな、まあ男との違いを確認するわ。ちゃんと理解しとかんとどうなるか分からんし」
あれ? 下ネタ大好きの剛がいつもと別人のようだ。
「ちなみにどう確認するんだ?」
「え? そらとりあえず下半身を「それ以上言うのはやめろ」えー、ケチやな」
「この小説にケチ付けられるわ」
完全に本人だ。
「結局エロ禁止なんか」
「当たり前だ」
「……ムッツリめ」
「あ!?」
「なんでもないでー」
なんだか雑音が。
「じゃあ、次。もし幽霊になったら?」
「そんなん簡単や、お風呂「覗きは無しな」……なんでやねん」
当然釘を差すのを忘れない。幽霊といった時点で、この返答は予想している。
「それで、幽霊になったらどうするんだ?」
さあ剛、どうする?
「せやなー、なら美少女の守護霊になるわ」
「三十年経ったらクソババアになるぞ」
「そん時は祟るわ」
「悪霊じゃねぇか」
守護するどころか、後ろからがっつり刺してるだろ。
「「はぁ……」」
「なんかこう、疲れたな」
「せやな、夏が過ぎて体力が落ちたかもしれへん」
「かもな」
いつも通りのノリで話していると、なんだか疲れた。
「次ラストや、ラスト」
そう言われてみれば、もうすぐで最寄り駅である。
「せやなー、ここは趣向を変えてもしも関数やったら、とか?」
「おお、いいじゃん」
「せやろ? 関数やったらどうする?」
「微分して二次元に行く」
「結局現実逃避やんけ!」
俺は勉強をしないために、勉強をして二次元に行く!
「どうせいつも二次元に入り浸ってるやん」
「やかましい!」
とかなんだかんだいいつつ、いつもの場所。
「なあ、結局なんの話やったん?」
「わからん」
俺が現実逃避して、剛が下ネタ大好き。そのくらいしか印象に残ってない。
「まあええわ、言うても暇つぶしやし」
「そうだな」
俺達の下校路は、暇つぶしだけで構成されている。
「なあ健介、いつも俺がオチ付けてるんやし、なんか面白いこと言うてや」
「んな無茶な」
面白いこと言って、ほどえげつないフリはない。
「そうだなー……」
「うんうん」
「……取り立てて言うことはないかな。鳥だけに」
「………………」
何もいわずホームへと去った剛の背中は、どこか哀愁を漂わせていた。
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