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◇下校路で、古今東西

「古今東西! どこの小学校にも絶対に一人はおったけど、中学に行くにつれてなぜか見あたらんくなった小学生あるある!」

「なげぇよ」




 高校から最寄り駅までの下校路。友達がいれば一瞬で歩き終わる天国、友達がいなければ体力と精神力を削る地獄である。リア充か否かが命運をわける路上。そこを、とある高校生男子達はいつも二人で帰っていた。


 と言っても、二人は別に変な関係であるわけではない。友達同士である彼らが常に二人で帰るのは、同じ駅へ向かう同じクラスの男子が、他にいないからである。


 彼らはそこそこ友達も多く人当たりも割と良い。頭は可もなく不可もなくといったところで、クラスでは別段頭が悪い位置付けにはなっていない。しかしこの瞬間、そう、高校から最寄り駅までの下校路15分だけは、ほんの少し馬鹿になるのだ。




 高校二年の夏。下校時間でも未だ日は高く、蝉がうるさく鳴いている。鼠色のアスファルトに立つ陽炎を踏みしめながら、彼らは今日も馬鹿な会話をしていた。


「暑すぎやろ、夏考えたやつ頭おかしいわ」

「……そうだな」


 さて、ここで自己紹介、いや他己紹介をしておこう。

 先に声を上げた、頭のおかしい関西弁の高校生男子が「西原にしはら たける」、暑さに茹だった様子でおざなりに相槌を打ったのが「あずま 健介けんすけ」だ。


「返し雑ない?」

「……話す元気がないんだよ」

「しゃべってると暑さ忘れるで! ほらしゃべろう!」

「……何か俺の横も暑い」




 下校路の中途にある日陰に何とか潜り込み、落ち着いたところで今度は健介から声をかけた。


「それで何を話すんだよ」

「うーん、まあそう言われると思いつかへんな。何かある?」

「……そうだな。そう聞かれると、あんまり思いつかないな」

「やろ? 暇やし古今東西でもやる?」

「二人で!?」




 特に他にやることもないので、結局は古今東西をすることになった二人。音頭は健介からである。



「古今東西! 夏の風物詩!」


 ぱん、ぱん。


「そうめん!」


 ぱん、ぱん。


「花火!」


 ぱん、ぱん。


「アイス!」


 ぱん、ぱん。


「浴衣!」


 ぱん、ぱん。


「冷やし中華!」


 ぱん、ぱん。


「うちわ!」


 ぱん、ぱん。


「スイカ!」


 ぱん、ぱん。


「風鈴!」


 ぱん、ぱん。


「かき氷!」

「いい加減食い物から離れろ」

「よっしゃ、俺の勝ちや」

「ちょっとまて、かき氷はアイスの内だろ!」



 ちなみに、この後全力の討論の結果、スーパーに置いてあるアイスとかき氷はどちらも氷菓に分類されるという事で、健介の勝ちとなった。




 さて、負けて悔しかったらしい剛が、満を持して第二勝負を仕掛けた。そこで、冒頭に続いていく。


「別に長くてもええやん、いけるやろ?」

「おーけー、やってやる。ちなみに、六年生まで全部だよな?」

「小学生ならええで。よっしゃ、じゃあかけ声からやり直すで。せーのっ」



「古今東西! どこの小学校にも以下略!」


 やり直すなら全部言えよ。そう口から出掛かった健介だが、全力で耐えて古今東西を続ける。


 ぱん、ぱん。


「プロフィール帳の中身をクラス全員に配る女子!」


 ぱん、ぱん。


「下校中に小石蹴りながら帰る男子!」


 ぱん、ぱん。


「掃除中に箒で戦い出す男子!」


 ぱん、ぱん。


「休み時間にボール遊びしたあと『ボール最後にさわった奴なおせよー』とか言う男子!」


 ぱん、ぱん。


「缶で出来た筆箱を落として、クラス中から白い目で見られる男子!」


 ぱん、ぱん。


「水筒にポケ○ンシール貼りまくってる男子!」


 ぱん、ぱん。


「コップ付きのマジででかい水筒持ってくる男子!」


 ぱん、ぱん。


「女子のスカート捲る男子!」


 ぱん、ぱん。


「異常なまでに腕っ節が強い女子!」


 ぱん、ぱん。


「机の中から熟成されたパンが出てくる男子!」


 パン、パン。


「昼休みに常に図書室に行ってる女子!」


 ぱん、ぱん。


「鉛筆みたいな見た目のシャーペン使ってる女子!」


 ぱん、ぱん。


「保健室に行く回数が異様に多い小学生!」


 ぱん、ぱん。


「掃除道具箱に隠れる男子!」

「ダウト!」

「なんでやねん! 小学校のクラスに一人はおるやろ!」

「いやでもこれ、中学入ったら見なくなるってお題だろ? お前二週間くらい前に掃除道具箱の中に隠れてなかったか?」

「……あっ」

「いよっしゃあ! 二連勝!」

「くそおおぉぉ!」



 大盛り上がりしているが、ご存じの通り下校途中である。同じく下校中の高校生達から、白い目で見られたのは言うまでもない。


 そんなこんなで、15分近くが経ち彼らが別れる駅が近づいてきた。二人は逆方面であるため、ここからはお互い一人なのである。


「また今度リベンジするわ。バイバイ」

「おう、いつでも来い。じゃあなー」


 そう言い残して、健介は右へ、剛は左のホームへと消えていった。




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