表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

昊の間

作者: 岡田播磨

 火星と地球の間に浮かぶ、ガソリンスタンド。


 そこには、ずっと探しものをしている、一体のアンドロイドがいます。


 彼女の名前は、アンジェラ。


 彼女は、とても明るく、何事にも熱心です。


 ちょっと子供っぽく、考え方が単純なのが、たまに傷です。


 それでも彼女はいつも、すてきに輝いています。


 なぜなら彼女も、ひとつの大きなイノチだから。


 ある日。


 アンジェラは、宇宙でひとりの人間を拾います。


 彼の名は、パトス。


 なぜあんなところにいたのか、話してくれません。


 だけど、アンジェラはそんなこと、気にしません。


 彼を、自分のガソリンスタンドに招き入れました。


 昔――光のように速い宇宙船がなかった時代――休憩場所として利用されていた宇宙ステーションです。


 久々に来てくれた人に、彼女はたくさん自分のことを話します。


 彼女は、地球で生まれました。


 マスターに作られ、マスターのお世話をするために造られました。


 マスターは時々「わしはそろそろ空の上にある楽園に行くことに成りそうだ」と呟き、「お前も一緒に来るか?」とアンジェラに問い掛けてくることがありました。


 アンジェラの答えはいつも決まっています「もちろん! 一緒に行かせて、マスター!」。


 だけど、マスターは約束を破ってしまいました。


 ある日、アンジェラが買い物に出かけて帰ってみると、マスターの姿がありません。


 アンジェラは何日も待ちましたが、マスターが帰ってくることは、ありませんでした。


 嵐の日、アンジェラは唐突に思い当たりました。


――マスターは私を置いて楽園に行ってしまったんだ。


――でも、楽園ってどこにあるんだろう?


 初めにアンジェラは、火星に行きました。


 そこで、楽園の場所を聞いたのです。


 すると火星の人は、空の上にある、と教えてくれました。


 すぐにアンジェラは、おかしいな、と思いました。


 地球の空の上にも楽園があり、火星の空の上にも楽園がある。


――そっか! 楽園は、地球と火星の間にあるんだ。


 アンジェラは、すぐに地球に帰りました。


 宇宙へ繋がる大きなエレベータや、空に浮かんでいるきれいな月。


 どこで聞いても楽園は、空の上でした。


 彼女は確信しました。


 地球と火星の間にある古びた宇宙ステーションを買って、そこをガソリンスタンドにしました。


――ガソリンスタンドなら、立ち寄った人からいろいろなお話が聞けるかも。


――もしかしたら、楽園に行ったことのある人と出会えるかもしれない。


 アンジェラはそう思ったのです。


 その話を聞いて、パトスは馬鹿だなと思いましたが、馬鹿だなとは言いませんでした。


 彼自身もまた、彼の楽園を探していたからです。


 パトスは、アンジェラに宇宙船がないか尋ねました。


 アンジェラは、人の役に立てることに大喜びで、すぐ船の停めてある場所に向かいました。


 そこには、個人用の宇宙船がたくさん置いてあります。


 彼女が乗ってきたものもあれば、宇宙で拾ったもの、パトスのように漂流している人を助けて、そのお礼としてもらったものなど、様々にありました。


 船はどれも完璧に整備されており、燃料も満タンでした。


 パトスは船を借りて、すぐにでも立ち去ろうとしました。


 でも、アンジェラはそんな彼を引き止めます。


 時間も遅いですし、と言いながら、本当はもう少しお話しましょと、アンジェラはパトスを強引に引き止めます。


 料理をご馳走し、自慢の庭を見せ、たくさんのテレビ番組を見て、楽しみました。


 パトスのために普段はあまり見ないニュースなんかも見たりして、それなりに楽しい夜でした。


 TVの中で、どこかの国のエライ人が逃げ出したという話がありました。


 アンジェラには、詳しいことはわかりませんでした。


 ですが、パトスの顔が少し怖かったのを覚えています。


 夜も深まり、アンジェラはとても眠くなりました。


 まるで人間みたいだとパトスに茶化されながら、アンジェラは、おやすみなさいを言って寝室に向かいます。


 一人残された、パトス。


 彼は、アンジェラの箱庭に行き、そのうつくしさに涙しました。


 きれいな花、うつくしい川。

 

 宇宙の中にありながら、自分の居場所を忘れるほど、その庭はすてきでした。


「……楽園か」


 小さく呟き庭を出るとパトスはアンジェラに宛がわれた寝室に行き、そこでペンと紙を取りました。


 あくる朝、アンジェラは、パトスがいないことと、船がひとつなくなっていることに気付きました。


 何も言わずに出て行ったパトスに、プンプン怒りながら、アンジェラは庭に行きました。

 

 そこには、小さな封筒が置かれていました。


 拾い上げ、中を見ると、それはパトスからの手紙でした。


 ですがアンジェラは、その中に書かれていることがほとんどわかりませんでした。


 アンジェラの知らない言葉だったのです。


 必死に頭の使い、何とか最後の部分だけを読むことができました。


――らくえん きっと みつかる かんばれ。


 アンジェラは、手紙をぎゅっと抱きしめました。


 頬に熱いものを感じ、ぬぐってみると、手が水にぬれていました。


 それからしばらくの間、アンジェラはニュースを見るようになりました。


 ニュースはいつも、戦争のことばかりやっていました。


 パトスが、どこにいったのかすらもわからないのに、アンジェラはたくさんの番組を見てパトスを探していました。


 同じような国がたくさんあって、同じようなことがどこでも行われています。


 地球も火星も、どこでもみんな、同じでした。


 アンジェラはテレビの番組に飽きた頃、望遠鏡を覗きに行きます。


 どこかにある。そう信じてやまない楽園を探します。


 広い宇宙空間。


 いつも彼女が見つけるのは、うつくしい星々と、必死に生きる人々の光ばかりでした……。

個人的には、心を持ったロボットが大好きです。でも、童話にアンドロイドってどうなんでしょうね(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  私はアンドロイドの登場する童話、素敵だと思いました。人間とは別の立場。神様でも動物でもなくて、機械。それもまた夢があってイイですね。いつかそれぞれの思う楽園に気がつけますように。私自身も心…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ