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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第3章 黒髪の侠女

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第8話 これからの方針

 野ウサギを食べ終えたタスクは糧となった生命(いのち)に手を合わせて感謝の意を示した。一方、ジャンは綺麗に身を削ぎ取られた骨をポイッと投げ捨てて腹をさする。

 

「はあー……。美味かったけど、もうちょい量が欲しかったなあ……」

「……ピ⁉︎」

 

 少し物足りない様子でジャンがつぶやくと、文句を聞きつけたシュウがギロリと睨みつけた。

 

「わっ! 睨むなよ! お前の眼、夜の闇の中で怖えんだよ!」

「気を付けろ。そいつ(シュウ)は言葉を完全に理解していなくとも、表情や仕草で察するぞ」

「……マジで賢いハヤブサちゃんだこと……」

 

 タスクの助言を受けたジャンはパンっと手を合わせて頭を下げた。

 

「ゴチになっといて文句言って悪かった、シュウ! ありがとな!」

「ピピ……」

 

 ジャンの謝罪を受け入れたシュウは眠るために近くの樹上へと飛んで行った。ジャンはその美しいフォルムを横目で追いながら安心したように一息ついた。

 

「……ふう。あの『牛晄石獣(ジェムート)』を食えりゃあ、当分メシには困らねえんだけどな」

「無理だな。一見、草食に見える個体でも肉が硬く臭いも強い。余程飢えていなければあまり食す気にはなれない」

「……だよなあ。なんなんだろな。アイツら揃いも揃って人間サマを襲いやがるから肉がマジいのかな?」

「さあな。奴らの生態には興味がない。それよりも————」

「分かってるよ。アンタの人捜しの件だろ?」

 

 タスクがうなずくと、ジャンは得意げに歯を見せた。

 

「俺に考えがある。闇雲にこの広い大陸を走り回るよりもずっと効率がいい考えがな」

「勿体ぶらずに早く言え」

「やれやれ、せっかちだねえ。余裕のねえ男はモテねえよ?」

「…………」

 

 首を振りながら両手を広げるジャンに、タスクは無言で鯉口を切った。

 

「……っと! ア、アンタの姉ちゃんと仇ってのは当然アンタと同じ東国の人間なんだよな?」

「続きを」

 

 カタナを収めたタスクに促され、ジャンは指を立てて口を開いた。

 

「アンタら東国の人間に限らず、この大陸に渡って来た移民ってのはどうしたってマトモな職にゃあ就けねえ。そこでどうするか? そういう奴らが同じ移民同士で寄り添って生活するって話を聞いたことがある」

「…………」

「いわゆる『共同体(コミュニティ)』ってヤツだな。『ニール』程度のシケた町じゃなく、もっとデケえ街に行きゃあ、きっと東国からの移民のコミュニティがあるはずだ。そこで情報収集した方が手っ取り早えと思うんだよね、俺は」

 

 ジャンの言葉にタスクは納得したようにうなずいた。

 

「いいだろう。お前の案に乗ろう」

「————決まりだな! それじゃ、アンタの姉ちゃんの特徴を教えてくれよ!」

「……何故だ」

「オイオイ、俺だって特徴くらい知っといた方が良いに決まってんだろ⁉︎ いーじゃねえか、減るモンじゃあるめえし!」

「…………」

 

 タスクはパチパチと爆ぜる焚き火に顔を向けて静かに語り出す。

 

「……髪は烏の濡れ羽色、瞳は黒真珠……」

「カ、カラスの濡れ……? 黒シンジュ? ええと……つまり、アンタと同じ黒眼黒髪ってことか?」

 

 うなずいたタスクは自らの左眼尻に指を当てた。

 

「あとは左の眼尻に二連の黒子(ほくろ)がある」

「へー、その二つのホクロは良い目印になるじゃんか! あとは、あとは⁉︎」

「身の丈などは一般的な成人女性と同程度だが、姉上は薙刀の達人でもある」

 

 初めて聞く単語にジャンはキョトンとした表情を浮かべた。

 

「ナギナタって?」

「長柄の得物だ。斬撃に特化した槍だと思えばいい」

「ほーん。アンタの姉ちゃんだからスゲえ強えんだろうな。あとは年か」

「俺の五つ上だから今年で三十だ」

「30歳かー……。良いね、良いね! 20代のオネエちゃんとは違う、まさに『お姉様』って感じだよなー……」

 

 ジャンが眼を細めて鼻の下を伸ばすと、タスクはゆっくりと立ち上がってカタナを抜き払った。

 

「おわっ! なんで抜くんだよ⁉︎」

「言ったはずだ。姉上で妙な妄想をしていると感じた時は斬る、と……‼︎」

 

 タスクの眼は『晄石獣(ジェムート)』を斬る時と全く同じである。

 

「してねえよ! してねえってば‼︎」

「逃げるな。動かなければ痛みを感じることなく逝ける」

「まだ逝きたくねえよッ‼︎」

「ピイイッ‼︎」

 

 二人のやり取りを樹上で聞いていたシュウが「うるさい」とばかりに鳴き声を上げた。

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