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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第2章 酒場にて

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第6話 ひとまずの乾杯

 お調子者だが、見事な交渉術を披露したジャンと改めて手を結んだ東国出身の剣士・タスク。そんな彼にジャンは二杯目のジョッキをテーブルに置いて問いかける。

 

「————さてと……、お互いの歳が分かったところで、そろそろアンタの『捜し人』について詳しい話を聞かせてもらおうか。なんつったっけ、ええと……」

「キョウカ・クサカベとゼンマ・ツキシロだ」

 

 タスクが答えると、ジャンは眉を寄せて口をモゴモゴとさせた。

 

「キョ、キョーカ……? ゼン、マ? 東国のヤツの名前は発音しにくいな。つーか、そもそも名前だけじゃ男か女かも分かんねえ」

「キョウカは女性でゼンマは男だ」

「ふーん……。それじゃあ、そのキョーカちゃんはずばりアンタのなんなんだい⁉︎ もしかして許嫁(いいなずけ)とか⁉︎」

 

 色っぽい話の匂いを嗅ぎつけたのか、ジャンは青い眼を輝かせて身を乗り出した。しかし、タスクは寂しげに眼を伏せてポツリとつぶやいた。

 

「……姉だ」

「なんだ、姉ちゃんかよ。そういや、アンタも『クサカベ』つってたか。……で、どうなんだよ?」

「……『どう』とは……?」

 

 質問の意味が分からないタスクが訊き返すと、ジャンは眼を細めて腕を広げた。

 

「そんなモン決まってんだろ。そのキョーカ姉ちゃんは美人なのかい⁉︎」

「……貴様、姉上を侮辱する気か……‼︎」

 

 ジャンの言葉を聞いたタスクは立ち上がってカタナに手を掛けた。

 

「わああっ! だからなんでそうなるんだよ⁉︎ 大体、顔が分かんなきゃあ捜しようもねえじゃねえか!」

「…………」

 

 冷静に考えればジャンの言い分にもやはり一理ある。タスクは「ふう」と一息ついて席に腰を下ろした。

 

「……姉上は里一番の器量よしだと評判だった」

「やっぱりな! アンタ、目つきはヤベえけどわりとイケてるツラしてっから、姉ちゃんもきっと美人だと思ってたんだよ!」

「姉上で妙な妄想をしていると感じた時は斬るぞ……!」

「そ、そんなことしねえって……。それで、どんな人なんだ? アンタの姉ちゃんは?」

「…………」

 

 再び殺気だったタスクを落ち着かせようとジャンが尋ねると、タスクの眼が幾分か丸みを帯びた。

 

「……姉上は確かに美しい顔だちをしていたが、それ以上に、気高く綺麗な心の持ち主だった。そんな姉上を俺は————」

「————『俺は』?」

 

 ジャンが言葉を引き取ると、タスクはハッとした表情を浮かべて首を振った。

 

「……姉上を俺は尊敬していた。いや、今でもだ……!」

「ふうん、尊敬ねえ……。一人っ子の俺にゃあ分かんねえ感情だな。そんじゃあ、野郎の方は————」

 

 その瞬間、「パリンッ」と音を立ててタスクの持っていたコップが粉々になった。

 

「わっ! な、何やってんだ、アンタ⁉︎ 手ぇ大丈夫かよ⁉︎」

「……ゼンマは俺の仇だ……! 奴だけは必ず見つけ出して、この手で必ず斬る……‼︎」

「ヒッ……‼︎」

 

 自らの手を赤く染めながら憎悪の炎を眼に宿したタスクの恐ろしい形相に、コップが割れた音を聞きつけて寄って来たウェイトレスが軽い悲鳴を上げた。

 

「なんでもねえ、ちょっと落として割っちまっただけだ。コップ代もつけといてくれていいから向こう行ってくれ!」

 

 ジャンは怯えたウェイトレスを追い払うと、ナプキンをタスクに投げて寄越した。

 

「ホラ、これで止血しとけよ。アンタの手が膿んじまったら、『晄石獣(ジェムート)』どもを狩れなくなっちまうじゃねえか」

「…………」

 

 ナプキンを受け取ったタスクは素直に傷ついた左手にそれを巻いた。その様子からタスクが少し落ち着いたと見たジャンが話を続ける。

 

「ええと……つまり、アンタは自分の姉ちゃんと仇を捜してると……こういうワケか?」

「そうだ。十年前、二人は俺の育った里から船でこちらの大陸に渡ったというところまでは確認が取れている。だが、その後の消息は掴めていない……!」

「……そのゼンマって奴がアンタの姉ちゃんを連れ去ったってことかよ……。でも、何で『ウラジーア大陸(こっち)』に……⁉︎」

「…………分からない。だが、俺は必ず二人を……‼︎」

 

 口惜しげに唇を噛むタスクの姿をジャンは改めて注視した。

 

 素肌が見える至るところに大小さまざまな傷痕が刻まれており、この十年間が彼にとっていかに濃密で過酷な時間だったのかを雄弁に語っていた。

 

 ジャンはわずかに鼻をすすって穏やかに語り掛ける。

 

「アンタも苦労したんだな。姉ちゃんと仇を追って、言葉も文化も違う外国にたった独りで……」

「独りじゃない」

「えっ?」

「シュウがついて来てくれた。元々、アイツは姉上の飼っていたハヤブサだったんだ。アイツのためにも俺は姉上を見つけ出さなければ……‼︎」

「そういうことか。あのトリ公————いや、シュウはアンタの大事な相棒だったんだな……」

「ああ……!」

 

 姉やシュウの話になるとタスクの表情がわずかに柔らかくなることをジャンは感じ取った。続いて、彼の仇だという『ゼンマ』という男についても色々聞き出したかったが、先程の鬼気迫る様子に急ぐことはないと思い直して口をつぐんだ。

 

「————とりあえず、アンタの人捜しがハンパな覚悟じゃねえってことは分かったぜ。アンタがしっかり『晄石(ジェム)』を稼いでくれるんなら、俺も本気でアンタの人捜し手伝うよ」

 

 手を組むという提案を聞いた当初はタスクの人捜しを適当にこなしつつ、彼を上手くあしらって『晄石(ジェム)』を荒稼ぎしようと考えていたジャンだったが、彼の話を聞いて利害関係を超えた感情がかすかに湧いてきている気がした。

 

「まあ、なんだ……改めてよろしくな、タスクのアニキ!」

 

 他人(ひと)のために少しでも何かをしてやろうという気持ちになったのはジャンにとって初めてのことである。

 

 少し照れ臭そうにジャンがジョッキを掲げると、

 

「ああ。こちらこそよろしく頼む、ジャン」

 

 ほんのわずかに口角を持ち上げたタスクが新しいコップをチンと打ち付けた。

 

 

  ———— 第3章に続く ————

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