第4話 契約成立
5メートル級の『晄石獣』をいとも容易く一刀両断せしめたタスクにジャンは驚きを禁じ得ない。
「カ、カミオロシ……⁉︎ なんだ、そりゃ……⁉︎」
「言葉の通りだ。自らの身に神を宿し、その力の一部を行使する技法」
「…………! そ、それじゃ、さっき言ってたビシャ……ビシャなんとかってのは————」
「————『毘沙門天』。武神だ。平たく言えば、降ろしている間、戦闘能力が向上する」
逆立った赤毛姿のままのタスクが答えると、ジャンは立ち上がって眼を見開かせた。
「……よ、よく分かんねえけどスゲエよ、アンタ……! 『青角』をあんな簡単に始末しちまうなんて、熟練の『晄石狩り』でもそうはいねえぞ……‼︎」
興奮した様子のジャンは一角熊の死骸へと眼を向けて続ける。
「そうだ、早くコイツの『晄石』を切り出してくれよ! きっと俺のナイフじゃ刃が立たねえ!」
「…………」
タスクはジャンの言葉に素直に従い、カタナを振って一角熊の額から生えている青いツノを切り取った。ジャンは人間の腕ほどの大きさもある青いツノを自らの所有物のように手に取り眼を輝かせた。
「……初めて見たぜ、こんなデカい『青晄石』……! きっとこのサイズなら1万ウーロは下らねえはずだ……‼︎」
◆
————『晄石』。それは数十年前に発見され、瞬く間に世界中に普及したエネルギー資源である。
『晄石』はその純度と色によって7つのランク分けがなされている。
上から順に無色(透明)・緑・赤・青・紫・黄・黒(灰)。最も希少価値の高い無色(透明)のものは小指ほどの大きさでも凄まじいエネルギー量を保有しており、一般に『クズ晄石』と称される最下級ランクの『黒晄石』はバイクや鉄道などのエネルギー源、または料理や暖を取るための家庭用燃料として広く普及しているが、どれも決して人の手で生み出すことは出来ない。
その入手法はただ一つ————。
『晄石獣』と総称される生物の額から生えているものを切り出すことのみであり、その『晄石』を採取することを生業とする者たちは『晄石狩り』と呼ばれた。
『晄石獣』は狼や熊などの既存の獣と酷似した姿を持つものが多いが、様々な姿をしていながらも共通していることが二点あった。
必ず額に一本以上の『晄石』を持ち、そして、人喰いの生物という点である。
『晄石獣』もそのツノの色によってランク分けされており、最も希少な『無色角』を持つ個体は一流の『晄石狩り』でも歯が立たないほどの強さを誇るとされているが、一攫千金を求め高ランクの『晄石獣』に挑み命を散らす者も少なくなかった。
現在『晄石』の活用法や『晄石獣』の対処法などは盛んに研究が進んでいる一方、そもそも『晄石』とは一体なんなのかという点や『晄石獣』が何故人を襲うのかという点はいまだ答えが出ていない————。
◆
ウットリとした様子で『青晄石』を眺めているジャンにタスクが声を掛ける。
「……欲しいか? それが」
「あ、ああ! 欲しいさ、そりゃ! コイツを売っぱらやあ、当分食いモンや女遊びに困らねえし!」
勢いよくジャンが振り向けば、タスクの逆立っていた髪や瞳の色が漆黒に戻っていた。
「そうか。それじゃあ、それはお前にくれてやる」
「……なんかウラがありそうだな」
美味い話にはウラがあることをジャンは長い旅暮らしで知っていたのである。
「『晄石』を売ったカネでお前を雇ってやる」
「ハアア?」
タスクの突然の提案にジャンは思わず訊き返した。
「人捜しの旅をしていれば、どの道『晄石獣』どもが襲い掛かってくる。俺は食料や旅の路銀さえ稼げればそれでいい。残ったカネはお前にくれてやるから、お前の持つ知識と『ばいく』を俺に役立てろ」
「…………」
タスクの提案はジャンにとって魅力的ではあった。
(ゼフィール号で国中を駆けずり回って『晄石狩り』のおこぼれをかすめ取ってきた俺にとっちゃ、またとねえいい話かも知れねえ。現に今、こんなデケエ『青晄石』が労せず手に入ったんだ。この馬鹿強えニイちゃんの運転手をするだけで莫大な財産を築けるかも……⁉︎)
脳内会議を終えたジャンは『青晄石』を持っていたバッグにギュムッと押し込んでからタスクに向き直った。
「俺は運転することと、雑用をこなすだけでOK?」
「ああ」
「『晄石獣』と戦うのはアンタだけ?」
「ああ」
「アンタの食料や必需品以外は俺のポッケに入れても?」
「ああ」
「————契約成立! よろしくな、タスクのアニキ!」
「……ああ」
ジャンは強引にタスクの手を取って契約成立の証として握手を交わした。
「それじゃあ、早速手に入れた『青晄石』を近くの町で換金だ! そのカネで色々買い物しようぜ!」
その様子を上空から見ていたシュウが「大丈夫なのか、コイツで」という風に鳴き声を上げた。
———— 第2章に続く ————




