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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第5章 首都へ

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第25話 夢路 〜 其の二 〜

 上等の赤樫(あかがし)から削り出された二本の木剣(ぼっけん)が打ち合わされ、小気味よい音が古びた道場に響き渡る。

 

『はっ!』

 

 少し吊り眼がちな少年が裂帛(れっぱく)の気合いと共に木剣を振り下ろした。

 

『いい太刀筋だ!』

 

 対手である長身の若者は少年の放った渾身の一撃を受け止めながら賛辞の声を送る。

 

 (おのれ)の剣を軽く止められた少年はギッと歯噛みして、二の剣、三の剣を続け様に振るった。

 

『むっ……!』

 

 波のように押し寄せる少年の連撃に押されたのか、若者はジリジリと後退を余儀なくされた。

 

『はあっ‼︎』

 

 少年の横薙ぎの一閃に対し若者は木剣を立てて受けたが、見事に体重(おもみ)が乗ったその一撃によって重心を崩された————かに見えた。

 

『もらっ————⁉︎』

 

 勝利を意識した(つい)の剣は先ほどまでの鋭さが見られず、少年の手に残ったのは(くう)を切る淡い感触のみであった。

 

『……ここまでだね』

『…………ッ‼︎』

 

 首筋にぴたりと木剣を当てられた少年は悔しそうに眼線を落とした後、振り絞るように声を発する。

 

『……参りました……ッ‼︎』

『…………』

 

 無言でうなずいた若者は剣を腰に引いて一礼する。少年も同じ所作を行うと、すぐに剣を構え直した。

 

『————善磨(ぜんま)殿! もう一本、お願いします!』

『待ちたまえ、(たすく)殿。先ほどの攻防、なぜ敗れたのか分かるかね?』

 

 善磨と呼ばれた若者は右手を伸ばして、逸る少年————佑を制した。

 

『…………』

 

 佑は渋々といった様子で構えた剣を下ろした。

 

『……善磨殿の作った隙に誘い込まれ、最後の最後で雑になってしまいました……!』

『その通り。勝ちを確信した時が最も危険な瞬間にもなり得るということだね。真面目な君には難しいかも知れないが、こういう戦い方もある』

『…………はい』

 

 理解は出来るが納得は出来ないという表情で答えた後、

 

『善磨殿、ではもう一本————』

 

 再び剣を構えた佑に善磨は苦笑いを浮かべる。

 

『……佑殿。君と私は十も歳が離れている。君はまだ身体も出来上がっていないし、いま私に勝てずとも決して恥ではないよ』

『ですが……!』

『焦らなくていい。君は私が同じ歳の頃よりも数段強い。このまま鍛錬を続ければ、いずれ私に勝てる日も来るだろう』

 

 善磨の激励の言葉に佑は拳を強く握り締めてつぶやく。

 

『……いずれでは駄目なのです……!』

『ん?』

『いえ、なんでもありません……』

『では、少し休憩としないか。喉が乾いてしまってね』

 

 

         ◆

 

 

 神棚の下で茶をすすっていると、不意に善磨が口を開いた。

 

『————佑殿。君は鉄砲撃ちを相手にする時、どう立ち向かう?』

『鉄砲、ですか……』

 

 佑は少し考えてから答える。

 

『間合いの利は向こうにありますので、先に撃たせてから弾を籠めている間に詰めます』

『正解だ。ただし「火縄」相手だがね』

『火縄とは別に鉄砲があるのですか?』

 

 佑が尋ねると、善磨は湯呑みを置いて答える。

 

『見聞を広めるために海を渡ったことがあるが、見るもの全てが凄いものだったよ。馬よりも速く走る荷車に、取っ手をひねるだけで水が流れる装置。そして、火種の要らぬ六連式の鉄砲————』

『六連式……!』

 

 佑がわずかに眼を見開くと、善磨は腕を組んでうなずいた。

 

『異国の地の発想力は島国の扶桑(ふそう)とは全く比べものにならない。便利な世になることは喜ばしいのかも知れないが、私は同時にある懸念を(いだ)いている』

『懸念……?』

 

 善磨は佑の声には答えず別の質問を口にする。

 

『文明の発展を最も促す要因とは何か分かるかね?』

 

 今まで考えたこともない壮大な問い掛けに佑は先ほどよりも深く思考する。

 

『…………探究心、でしょうか』

『…………』

 

 佑の答えを聞いた善磨はうっすらと笑みを浮かべる。

 

『君らしい答えだが、私の考えは違う』

 

 ゆっくりと立ち上がった善磨は木剣を振りかぶった。

 

『……私の答えは「(いくさ)」だ』

『戦……』

『我が国でも大小様々な戦はあったが、大陸のそれは全く規模が違う。隣り合った国同士が領土を得るために大量の血を流す……!』

 

 ここで善磨の剣が振り下ろされ、その凄まじい風圧が佑の前髪を揺らした。

 

『研究者や学者は戦に勝利するために思考を凝らし、結果文明の発展が加速的になされる。先ほど私が挙げた武器もその一つだ』

『…………!』

 

 善磨はここまで話すと、剣を収めて佑を振り返った。

 

『————君は“ヒト”という(しゅ)をどう見ている……?』

『……人、ですか……?』

 

 質問の意味が分からず困惑する佑に善磨は続ける。

 

『……このまま文明の発展が進めば、人類は自らを————いや、この地球(ほし)すらも滅ぼすことの出来る兵器を生み出してしまうかも知れない』

『…………‼︎』

『母なる地球(ほし)すら滅ぼしてしまう生物に、果たして生きる価値はあるのか……⁉︎』

『善磨殿……⁉︎』

 

 その眼に宿る形容し難い何かに佑が眉をひそめると、善磨はフッと笑って手を振った。

 

『…………冗談さ。真に受けないでくれ。さあ、稽古の続きといこうか』

『……はい————……』

 

 

        ◆ ◆

 

 

「————うおっ!」

 

 眼を開けたタスクの視界に金髪の男の驚いた顔が入った。

 

「…………ジャン、か……」

「おう、ジャン様だけど? ってか、ビックリしたぜ。起こそうとしたら、パッと眼ぇ()けんだもんよ」

「……俺は……」

「あん?」

「うなされていなかったか……?」

「いんや? また怖え夢でも見てたの?」

「……いや」

「あっそ。じゃあ、見張り交代なー……」

 

 言うなりジャンは毛布をかぶってしまった。

 

「…………」

 

 タスクは焚き火のそばでスウスウと寝息を立てているミロワに視線を向け独りごちる。

 

「……何故、今頃あんな夢を————」

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