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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第3章 黒髪の侠女

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第13話 恐るべき一撃

 自信満々な表情を浮かべ、身体からオーラを立ち昇らせるリンファにジャンは驚きを隠せない。

 

「いったい何者なんだよ、あのネエちゃん……⁉︎ あのパワーとスピード、マジで人間か————あっ、そうか! あのネエちゃんもアンタと同じ『カミオロシ』のチカラを……!」

「いや、『神降ろし』は我が一族に伝わる秘伝。神州(シンシュウ)の者が使えるはずがない」

 

 タスクによって即座に否定されたジャンはリンファを指差し声を荒げる。

 

「じゃあ、なんなんだよ! あのネエちゃんのとんでもねえチカラは⁉︎ あのシュウが軽々捕まえられてんだぞ⁉︎」

「……亡き父上から聞いたことがある。神州では特別な呼吸法を行い人体の持つ潜在能力を解放する術があると。恐らくあの女子(おなご)が用いているのがそれだろう」

「……いったいどうなってんだ。東洋人ってのはビックリ人間の集まりかよ……!」

「…………」

 

 ジャンのつぶやきには答えず、タスクは鞘から刀身を露わにした。しかし、やはり刃は自らへと向けている。

 

「誠に不本意だが、逃げられないということならば昏倒させてもらう」

【ようやくやる気になってくれたようだね。……でも、『峰打ち(手加減)』は気に入らないねえ……‼︎】

 

 言うなりリンファは手中の『青龍戟(せいりゅうげき)』を大きく振りかぶった。この構えにタスクは眉をひそめる。

 

(本気か、この女子(おなご)……。あの構え(大上段)では『打ち下ろし』が来ると言っているようなものだ)

 

 軽い失望を覚えた後、タスクの脳裏に相手の打ち下ろしを外してから間合いを詰めて一撃を加えるという算段がついた。フウッと息を吐いて足先に力を込める。

 

【……先に言っとくけど、一撃で死なないでね————ッ!】

「————っ‼︎」

 

 先の予想に(あやま)たず、隙の大きな大上段からの打ち下ろしが繰り出されたが、予測していたものとは桁違いの『振り』の鋭さにタスクは面食らった。

 

 

 ————ガキィィィィンッ‼︎

 

 

 刃と刃がぶつかる強烈な金属音が貧民窟の路地に響き渡った。

 

 リンファの放った打ち下ろしを躱せないと悟ったタスクは瞬時に『受け』に回ることを選択したのである。

 

 だが————、

 

(————なんという膂力(りょりょく)だ……! まるで、百貫の重石(おもし)がのしかかっているかのようだ……ッ‼︎) ※百貫=375kg

 

 瞬時の判断で受け止めたはいいが、リンファの打ち下ろしの強烈すぎる衝撃を受け流すことが出来ず、タスクの身体は後方へと猛スピードで吹っ飛ばされた。

 

 人間が人間の一撃で吹っ飛ぶ————このにわかには信じられない光景を目撃したジャンが叫び声を上げる。

 

「アニキッ‼︎」

 

 豪快に弾き飛ばされたタスクはこれまた凄まじい轟音と振動を立てて十数メートル後方の建物に突っ込んだ。瞬く間に眼を覆うほどの土煙が登り、建物の残骸がパラパラと地面へと落ちる。

 

「…………‼︎」

 

 リンファの放った恐るべき一撃にジャンが言葉を失っていると、今の衝撃を聞きつけた貧民たちがワラワラと飛び出してきた。

 

「いったいなんだ、今の音は⁉︎」

「地震か⁉︎」

「俺たちを追い出すために爆弾でもブチ込みやがったか⁉︎」

 

 先ほどタスクに打ちのめされた顔も数人見え、その中にはゴロツキのリーダーも混じっていた。リーダーは青龍戟を担ぎ直したリンファの姿を視界に捉えて太い指を突きつけた。

 

「あっ! 東洋人の馬鹿強え女! 今の音はてめえの仕業か⁉︎」

 

 しかし、リンファはゴロツキたちには一瞥もくれず、つまらなさそうな表情を浮かべた。

 

【……なんだ……。今ので終わり? 少しは期待できると思ったのに、ガッカリだね……】

 

 青龍戟を担いだままクルリと背を向けたリンファに土煙の中から男の声が掛かる。

 

「……詫びよう。貴女(あなた)をか弱い女子(おなご)などと侮っていた非礼を」

「あ……!」

 

 その静かながら決意に満ちた声音にジャンの顔が明るくなった。

 

 その時、一陣の風が吹いて土煙をさらっていき、現れたのは逆立った赤髪に金色(こんじき)の瞳を携えた一人の男————。

 

「貴女を一人の素晴らしい武人とお見受けしてこのタスク・クサカベ、全身全霊を(もっ)てお相手(つかまつ)る……!」

 

 『毘沙門天(ビシャモンテン)』の力を宿したタスクがカタナを正眼に構えると、背を向けていたリンファがゆっくりと振り返った。

 

【……へえ。さっきまでとは威圧感が段違いだ。これならあたしも本気を出せそうだね……!】

 

 ニヤリと笑ったリンファは眼前の相手を認めたように戟を中段に構えて見せた。

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