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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第3章 黒髪の侠女

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第10話 貧民窟

 街の東の外れまで来ると人通りはまばらになり、周囲の建物は窓が割れているものや外壁に亀裂が入っていたりなど、形成する空気感も中心部とは何か別物のように感じられた。

 

「どうやらこの辺りが移民溜まりで間違いなさそうだな。危険な香りがプンプンするぜ」

「気を付けろ。人の姿は見えないが、周りの家屋(かおく)の中から多数の人間がこちらの様子を窺っている」

 

 タスクの言葉にジャンは少し驚いた表情を向けた。

 

「アンタ、そんなことも分かんの?」

「ああ。集中すればもっと正確な人数と距離も分かる」

「ほへー、さすがサムライニンジャ————」

「————オイ、てめえら!」

 

 その声に二人が振り向くと、10人ほどの男たちが鉄パイプやら棒切れを片手にこちらを威嚇しているのが見えた。

 

 先頭に立っているリーダーらしき体格のいい男が鉄パイプを突き出して口を開く。

 

「ここは俺たちのシマだ。通りたきゃ、そのバイクと金目のモンを置いてきな!」

「ワリーけど、通行料なら衛兵に200も払っちまってアンタらに渡すモンはねーんだわ」

「なにぃ⁉︎」

 

 挑発するようなジャンの返しに男たちが怒気を露わにしたが、ジャンは構わず側車のタスクに顔を向けた。

 

「先生、先生! 出番ですぜ!」

「……誰が先生だ」

 

 カタナを持ったタスクが立ち上がると、ジャンはバイクにまたがったまま声を掛ける。

 

「アニキ。コイツら多分、移民じゃなくて街中に住めねえ貧民(ゴロツキ)どもだぜ」

「では、ここから先はこの者たちに案内をしてもらおう」

「やりすぎんなよ?」

「分かっている。峰打ちで済ませるつもりだ」

「ミネウチ?」

 

 言うなりタスクはカタナを抜いて刃を返した。

 

 

 

「————東洋系の移民どもなら北東のエリアに固まってる」

 

 ゴロツキのリーダーはタスクに打たれて腫れた左腕をさすりながら答えた。その背後では同じく峰打ちを食らったゴロツキたちが痛みに喘いでいた。

 

「そいつらは東洋人で間違いねえのか?」

「知るかよ。そっちのバカ強えヤツと似たような見た目で、ワケの分からねえ言葉をしゃべりやがるから、多分そうなんじゃねえか……⁉︎」

「ふーん。けど、おかしいな。ここらは元々アンタらのシマなんだろ? それなのに追い出すでもなく移民を住まわせてやってんのか?」

 

 ジャンの質問は痛いところを突いたのか、ゴロツキのリーダーは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「……もちろん、最初にショバ代を払うか出て行くかヤツらに迫った。だが————」

「————今みてえに返り討ちにあったってワケだ?」

「うるせえ! ヤツら、ガタイがショボいクセに妙な動きをしてメチャクチャ強えんだよ!」

「……だってさ。アニキ」

 

 ジャンに促され、黙って話を聞いていたタスクが口を開いた。

 

「よし。では、その移民たちの住むところに案内してもらおう」

「冗談じゃねえ! そんなことしたら、あの女に殺されちまう!」

「あの女?」

「移民どもの用心棒をやってて、ヤリみてえな武器を振り回すバケモンみてえな女だ!」

『…………!』

 

 どこかで聞いたような話にタスクとジャンは思わず顔を見合わせた。

 

「アニキ。これって……」

「ああ。食堂の店主が話していた『女晄石狩り(ハンター)』か」

 

 ゴロツキのリーダーはゆっくり立ち上がると、話し込んでいるタスクに指を突きつけた。

 

「……おめえも馬鹿みてえに強えが、きっとあの女には勝てねえぜ! ぶっ殺されるのが怖くねえなら、てめえの足で行って来やがれ!」

 

 捨て台詞のようにまくしたてゴロツキたちは一斉に散って行った。

 

「あ、オイ!」

「放っておけ、ジャン。北東と言っていたな。俺は行く」

「で、でもよ……」

 

 北東の方向に眼を向ければ、道は狭く入り組んでいるように見える。幅のあるサイドカーでは行き詰まってしまうかも知れない。かと言って、ここに置いて行けば「どうぞ持って行ってください」と言っているようなものである。

 

「お前はここで待っていてもいいぞ」

「いやー、でもよ……」

 

 タスクほどの腕が無い自分では愛車を守り切れるか怪しいし、何よりタスクの姉かも知れない『女晄石狩り(ハンター)』を見てみたい気持ちもある。

 

 ジャンが逡巡していると、前を進むタスクがため息をついて振り返った。

 

「……『ばいく』が心配なら安心しろ。近付く者はアイツが追い払ってくれるはずだ」

「アイツ?」

 

 タスクの視線を追って上空に眼を向けると、一羽のハヤブサが悠然と旋回しているのが見えた。

 

「シュウ! 頼んだぜ!」

「ピッ!」

 

 了解とばかりにシュウがさえずり、ジャンはタスクを追って行った。

 

 

          ◇

 

 

 ————10分ほど歩くと、周囲の建物がところどころ何やら珍しい模様の布や、黄色や赤といった派手な色の小物類で装飾されているのが目立ってきた。

 

「……なんかよぉ……、雰囲気がまた変わってきたなあ。まるで外国に来たみてえだ」

「…………」

 

 ジャンのつぶやきにタスクは何やら考え込んでいる様子で反応を見せなかったが、不意に足を止めた。

 

「————止まれ、ジャン」

「えっ?」

 

 タスクの制止の声にジャンが訊き返した時、周りの建物から多数の足音が響いてきた。

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