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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第3章 黒髪の侠女

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第9話 タスクの決意

 翌日、二人は休憩がてら訪れた街道沿いの食堂で食事を取っていた。

 

「なあ、オッチャン。ここいらで一番デケえ街ってどこだい?」

 

 食後のコーヒーを飲みながらジャンが店主に尋ねた。

 

「一番大きな街? そりゃ『エティエンヌ』だね」

「エティエンヌ?」

「ああ。ここから南西にあるよ。アンタたちのバイクなら明日の昼ごろには着くだろうさ」

 

 店主の返事を聞いたジャンはうなずいてから次の質問に入る。

 

「その街に東洋人のコミュニティってのはあるかい?」

「東洋人の……?」

 

 店主はジャンの向かいに座っているタスクにチラリと視線を送った。

 

「さあねえ……? 詳しいことは知らないが、移民もたくさんいるみたいだからそういうのがあってもおかしくないんじゃないかな……」

「OK。分かった。ありがとな、オッチャン」

 

 ジャンは店主に礼を述べて、タスクに向き直った。

 

「どうする? アニキ」

「決まっている」

 

 即答したタスクにジャンは苦笑いを浮かべる。

 

「分かったよ。明日の昼ごろか。ま、しゃあねえな」

「————アンタたちも『晄石狩り(ハンター)』なんだよね?」

「……『も』?」

 

 店主に逆質問を受けたジャンが訊き返した。

 

「確かに俺たちゃ『晄石狩り(ハンター)』だけど、『も』ってどういうことだい?」

「いや、東洋人で思い出したんだが、近頃エティエンヌ辺りで東洋人らしき女の『晄石狩り(ハンター)』が大活躍してるって話をお客から聞いたんだよ」

「————その女はどんな風貌をしているんだ……⁉︎」

 

 ここまで聞き込みをジャンに任せていたタスクが突如、口を開いた。

 

「い、いや、私も聞いただけだから詳しいことは分からない。ただ、黒髪黒眼の東洋系の女で、ヤリみたいな長い武器を振り回していたらしい」

「…………‼︎」

 

 その言葉にタスクの眼が見開かれ、ジャンも自分のことのように喜色を浮かべた。

 

「アニキ……、もしかすると、こりゃあ……!」

「ああ。急いでくれ、ジャン……!」

 

 

 

         ◇

 

 

 

 ————さらに翌日、ジャンとタスクを乗せたサイドカーが高い石積み壁に囲まれた街へと到着した。壁から覗く街並みからして、以前訪れたニールの町とは確かに規模が違うようである。行き交う人の流れも全く別物であろう。

 

「着いたぜ、タスクのアニキ! 多分ここが『エティエンヌ』だ!」

「…………」

 

 ゼフィール号の側車からタスクが身を乗り出すと、ジャンはゴーグルを額に上げて笑みを見せる。

 

「向かう途中で例の『女晄石狩り(ハンター)』には会えなかったけど、アンタの姉ちゃんだったら良いな」

「……ああ」

 

 ジャンの励ましの言葉にタスクはわずかに声を弾ませた。

 

「さてと……、これからエティエンヌちゃんに突入するに際してだが————今更だけどアンタ、『晄石狩り(ハンター)』の『許可証(ライセンス)』って持ってんの?」

「……持っていない」

「だよなあ……。アンタ、正規ルートで『ウラジーア大陸(こっち)』に渡って来てねえもんな。身分証もねえのに『許可証(ライセンス)』が下りるワケねえか」

 

 腕を広げるジャンにタスクが尋ねる。

 

「何が言いたい」

「いや、こんだけデケえ街だと、ニールみてえに誰彼構わずお通り下さいってなワケにはいかねえのよ。アンタもそんくらい知ってんでしょ?」

「街の入口で検問が敷かれているんだな?」

「そういうこと」

 

 正解とばかりに指を差したジャンは軽やかに続ける。

 

「検問は俺に任せて、アンタは言葉が分からねえ移民のフリをしといてくれ。カタナも俺のモンだってことにしとこう」

「……分かった。上手くやれよ」

「まーかせとけって! このジャン様に!」

 

 得意げに胸を叩いてジャンはエンジンを噴かせた。

 

 

 

「————止まれ! 身分証を見せろ」

「ヘイヘイ。これでいいかい?」

 

 街の検問に当たっている衛兵にジャンはカードの(ふち)が黒い『許可証(ライセンス)』を提示した。

 

「……フン、『黒級(ノワール)』(最下級)か。落ちこぼれだな」

「そりゃどーも。通ってもいいかい?」

「待て、そっちの男もだ」

 

 衛兵は側車に座っているタスクにヒゲだらけのアゴをしゃくって見せた。

 

「あー……いや、コイツは……」

「身分証が無い者を街に入れる訳にはいかん」

「まーまー。そんな冷てえこと言わねえでくれよ、ダンナ」

「む……」

 

 ジャンは媚びるような笑みを浮かべて、衛兵の手に200ウーロ札(3万円くらい)を握らせた。

 

「コイツは異国で家族と離れ離れになっちまった可哀想なヤツなんだ。優しい俺は同じ東国のヤツらのところに連れてってやりてえんだよ」

「よく言うな。最近の『晄石狩り(ハンター)』は移民斡旋(あっせん)の真似事もしているのか」

「なんせ、落ちこぼれなモンでね」

 

 再びジャンが笑って見せると、仏頂面だった衛兵も釣られてガタガタの歯を見せた。

 

「あー……、確か街の東の外れに東洋系の移民どもが多く暮らしているエリアがあったような……」

「助かるよ、ダンナ」

「言っておくが、揉め事は起こすなよ」

「分かってるって」

 

 

 

 ————無事に検問を突破したタスクとジャンは街の東の外れへと進路を取っていた。

 

「どうよ、タスクのアニキ。さっきの俺の手並みは?」

「……あまり関心しないな。(まいない)を送ると言うのは」

「マイナイ? ああ、衛兵に握らせたカネのことか。けど、そのおかげで身分証のねえアンタは街に入れたし、東洋人のコミュニティの場所も知れたんじゃねえか」

「…………」

「大体、身分証も許可証(ライセンス)も持ってねえ時点でアンタも立派な犯罪者なんだ。今更ちっちぇえルールにこだわって仇討ちなんて出来んのかい?」

「…………‼︎」

 

 胸に鉄槌を受けたように黙り込むタスクにジャンはバイクを止めて振り返った。

 

「……なあ、タスクのアニキ。知り合ってまだ日も浅えけど、必死に悪ぶっててもアンタが本当は真面目で家族思いの優しいヤツってのは分かってんよ。辞めんなら今の内だぜ?」

「…………お前の言う通りだ。心に刻んでいたつもりだったが、わずかな規範にとらわれていては姉上を捜すことも、本懐を遂げることも叶わない。眼を開かれた思いだ。感謝する……!」

 

 そう言ってタスクは側車から降りてジャンに深々と一礼した。

 

 タスクの決意のほどを確認したジャンは額のゴーグルを掛けて前を向いた。

 

「……乗りなよ。もう少しで着くはずだ」

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