作戦
「さぁ――ここからが、本番だよ」
ルクスが静かに息を整える。
その横で、ソレルが軽く扇子を開きながら告げる。
「ルクス、きっとミラは次に私の武装に干渉してくるわ。
そうなれば、あなたの閃光も再び使えるはず……焦らず、機を伺いましょう」
「うん、分かったソレル! もう一回、相手の出方を探るところからだね!」
二人は再び構え直し、戦場に張り詰めた緊張を静かに受け止める。
対するイリス&ミラ側――
「……イリス、無茶はしないで。
無駄に体力を消耗するだけ……」
「へへっ、今回はちょっと暴れすぎたかもな〜。
ま、私が悪かった! だからさ、ミラ! 作戦を教えてくれ!!」
「……また投げやり……」
ミラは小さく息をつき、目を伏せる。
「……ソレルのスターリング=ブリーズは厄介。
でも、それを直接干渉するのは体力の無駄遣い……
ルクスの光にまた視界を塞がれるのも時間の問題……」
「ふむふむ。じゃあ打つ手なしってこと? それはそれで、つまんねぇなぁ?」
「……打つ手なしって言ってない。
イリスの周囲だけを限定して、干渉を展開すれば――最低限、動きは封じられる。
でも、干渉を動かすには時間がかかる。
だから、ルクス達が攻めてきた瞬間に発動するのがベスト……」
「……つまり?」
「イリス。ルクス達の攻撃に当たらず、なんとかこっちまで引き込んで――」
「んな無茶なぁぁ!!」
イリスが叫ぶ。けれど、笑っていた。
教官視点―観戦所にて――
(なるほど……両者、待ちの姿勢か)
観戦所のガラス越しに、静まり返ったフィールドを眺める。
激突は止み、互いの判断を測るような沈黙が続いていた。
――ルクスの閃光
――ソレルの風が吹き消す炎
――イリスの極炎の拳
――ミラの干渉術式
どれも強力な一撃必殺の手段だ。だが、それ故に判断を誤れば――命取りになる。
「……これは、想像の何十倍も戦況管理が難しいな……」
俺がかつてプレイしていたゲーム《ステラ・ライト》と、この世界の最大の違い。
それは、“ダメージの基準”がまるで違うこと。
ゲームでは数値で扱われた攻撃も、この現実では一撃で“終わる”。
つまり、かすっただけの攻撃でさえ――命に直結する可能性がある。
数値を減らすゲームではない。
一切の被弾を避け、確実な攻撃を一点集中で叩き込む。
それが――この世界での《闘い方》だ。
そして俺は気づいた。
観戦席の椅子に座るこの身が、わずかに震えていることに。
(……模擬戦とは思えない。熱量が、空気を灼いてる……)
これは、遊びじゃない。命のやりとりの、はじまりだ。
すいません模擬戦編もう少し続きそうです