歪んだ矛と盾
「……何故だ……?」
俺――白椛縁は、静寂の艦内でモニター越しに戦場を見つめながら、心の中に溢れる疑問をなんとか押し殺そうとしていた。
だが、無理だった。
明らかにおかしい。
「何故イリスの《バースト・スマッシュ》は飲まれて、ミラの《ダーク・オーダー》は通った……?」
画面に映る彼女たちは、確かにゲームの中で育てていた“ステラたち”だった。
だが――何かが違う。
この世界は、元々俺がプレイしていた“ステラ・ライト”と同じ世界のはずだ。
そう、あのゲームはキャラを育て、技を覚え、あとはオートで戦闘が進む周回ゲーだった。
放っておいても育つ。
見てなくても勝てる。
だからこそ人気があった。
手に入らないアイテムも、フルオート周回していれば少しずつ集まる。
やがて強化し、さらに楽になる――そんなゲームだったはずだ。
それなのに。
「なのに……なんで“ルール”が通用しない……?」
本来、あの世界では“同じ属性の攻撃は、敵に効かない”という『絶対の法則』が存在していた。
あの黒い異形、《ダスター》たちは明らかに“闇属性”。
それに対してミラが使った《ダーク・オーダー》も“闇属性”の技である。
だったら――効くはずがない。
けれど現実は違った。
イリスの“炎属性”の技、《バースト・スマッシュ》は、黒い闇に呑まれて無力化されて。
一方でミラの《ダーク・オーダー》は、あろうことかその闇を上書きするように支配し、呑み込んだ。
「……あの技は、レベル1……」
そう。それに…どちらの技も、元々のゲームでは初期から覚えているはずの、なんの変哲もない低レベル技だった。
――だというのに、
あの破壊力。
あの演出。
あの……異質さ。
「……この世界は、本当に“ゲーム”と同じものなのか?」
冷たい汗が額を伝った。
この世界は、ただのゲームの写しではない。
誰かが改変した。
歪められた。
もっと残酷に、もっと美しく、もっと……絶望的に。
この先、俺は“知っていたはずの世界”のルールに、何度裏切られるんだろうか――。
最近手持ち無沙汰の主人公君を無理矢理入れたかったんです…