暴喰
魔導書っていいよね
「はぁ……こんな状況なのに、退屈……」
星の海を漂うミラは、支援位置に留まりながらため息を吐いた。
「ルクス達は……まだ戦ってるよね……」
遠く煌く戦域を見つめるその表情には、焦りもなく、ただ淡々とした静けさだけがある。
「えーと……確かルクスとイリスの戦いが激化してきたら“起動”って……はぁ……ま、まったり待つしか……ないか……」
その瞬間だった――
視界の果て、数km先の宇宙に巨大な爆炎が咲く。
紅蓮の花のように咲き誇り、空間すら歪ませるような衝撃が駆け抜けた。
「……また、イリスの仕業かな」
ミラはどこか呆れたように目を細める。だが、確実に“始まった”と感じていた。
「退屈はしなさそうね……展開、グリモア=ノクス」
黒き魔導書のページが風に舞うように開かれ、彼女の口元がゆっくり動く。
「――《エレメント・ブレッシング》。これで……頑張ってね、みんな……」
その声は誰に届くでもなく、真空の宇宙に優しく木霊した――
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一方その頃――前線
「よぉぉし!! 着いたぞ、ルクス!!」
イリスがダスターの群れを前に、興奮気味に叫ぶ。
「全員、燃やし尽くしてやるぅ!!」
拳が赤熱し、火花を撒き散らす。
「うん! ミラのバフも入ったみたい!」
ルクスが背後を見上げるようにして笑みを浮かべた。
「これなら、行ける……! 後ろは任せたよ、イリス!」
二人のステラが、四方を覆う黒い異形の影へ飛び込んでいく。
「この技でまとめて吹っ飛ばすぜ!!――《バースト・スマッシュ=イリュージョン・カスタム》!!」
拳から放たれた無数の熱波が、ダスターの群れを飲み込むように飛翔する。
しかし――その瞬間、
黒い影が“揺れた”。
いや、違う。喰ったのだ。
イリスの拳の熱を、まるで美食家のように“吸い込み”、静かに震える闇へと還元していった。
「はっ!? あ、あいつ……うちの力、食いやがっただと!?!?」
イリスの叫びが虚空に響く。拳は確かに当たった――だが、ダメージが“入ってない”。
「うそだろ……あんなの……今までのダスターと全然違うじゃねぇか……!」
次の瞬間、闇の一体がまるで生き物のように触手を伸ばし、イリスに襲いかかる!
「イリス、危ないっ!!――《ライトニング⇒フル・ストライク》!!」
「ぐっ……! な、なんて重い……っ!」
ルクスの腕が震える。 それほどまでに“重い圧力”が、ただの攻撃に宿っている。
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宇宙後方・ミラの視点
「……想定外、……」
ミラが目を細め、黒き魔導書に再び指を走らせる。
「吸収特性、予測不能な成長、そして……連動干渉型……」
ページが一枚、黒い炎に焼かれたように消失する。
「ごめんね、イリス……ちょっとだけ本気出させてもらうよ……」
その声が語るのは、もはや“後方支援”ではない。
ミラ・ノーチェ
彼女の“真の干渉”が、いま解き放たれようとしていた――