休息、
ステラ・シップ――《レグルス》
食堂区画
模擬戦が終わり、ほどよい疲労と安堵を抱えたステラたちは、各自思い思いのメニューを手にして席につこうとしていた。
「くっそーーー!!負けたぁぁぁ!!!」
イリスが、山のように積まれたトレイを両手に抱えながら、大声で食堂に鳴き声のような叫びを響かせる。
「ちょっと……うるさい……」
ミラは小さな声でそう言いながら、イリスの半分以下の量しかない慎ましいトレイを静かに運んでいた。
「そんだけ食べる余裕あるなら、もう一戦やれたんじゃないかしら?」
ソレルが紅茶を片手に優雅に笑う。
「ぐっ……うぅ〜…悔しいけどそれも一理あるのがムカつくぅ……」
イリスは席にドカッと座り、次々と食材を口に放り込んでいく。
「でも!!負けても美味しいもんは美味しいな!ほらミラも食べようぜ!」
「……それ、何味?」
「知らんけど……うまいぞ!」
「……絶対いらない」
ミラは器用にトレイを自分の前に並べ、静かにサラダを口に運んでいく。
そんな中、一拍遅れてルクスがやってきた。
「遅れてごめんなさい!……ふぅ〜、でも今日の模擬戦、すっごく楽しかったですね!」
「楽しむ余裕があるのは、勝者の特権ね」
ソレルがからかうように言うと、
「ぐぅ…あんな技今まで見たこともなかったのによぉ…いつの間にそんなの手に入れたんだよ…」
イリスがぐでぇっとトレイに突っ伏した。
「あらあら、勝負とは情報戦…どれほどまでに相手の情報を仕入れ対処できるか…イリス、あなたもまだまだね…」
ソレルが扇子を仰ぎながらイリスへ目を向ける
「そんなことないですよぉ!イリスもすっごく強かったし、ミラとの連携、すごく怖かったですもん……!」
「うんうん。そうやって素直に褒められるとちょっとは救われる気がするぜ……ルクス、今度なんか奢るな!」
「えっ!? いえいえ、そんなっ……じゃあ、アイスで!あとで本部に申請出しときます!」
「うおっ!? いきなり具体的!? まぁ……いいけどよぉ!」
俺は少し離れた席から、そのやりとりを眺めていた。
どこにでもありそうな、平和で、ちょっと騒がしい日常の一幕。
さっきまで命をかけるような戦いをしていたとは、とても思えない。
けれど、こうして笑い合える時間こそが、
きっと彼女たちを強くする“本当の力”なのかもしれない。
「さて…、教官、少し話が」
ソレルがトレイを片手に、俺の隣へ静かに座った。
「ん?どうかしたか?」
「“動いてる”わ――あの《ダスター》が。
模擬戦のデータを分析中に、特殊反応が観測されたの。
おそらく……この《レグルス》に“近づいている”」
一瞬、全身に寒気が走った。
「……報告は?」
「司令部には既に送信済み。でも、あなたにも伝えておくべきだと思って。
これは……あの時の少しめんどくさいことになりそうね」
「――了解。ありがとう、ソレル」
空気が少しずつ変わる。
日常の裏に、確実に忍び寄る影。
嵐の前の静けさ。
俺たちに残された猶予は、そう長くはないのかもしれない――
やっとダスター出てきます…お待たせしました