第10話「キスって、どんな感じなんだろう」
第10話「キスって、どんな感じなんだろう」
日曜の午後、いつものカフェ。
隣には亜紀。ストレートティーをひと口飲んだあと、
美里のつぶやきに固まった。
「……キス?」
「うん。キス。……いや、ごめん、変なこと言った」
「ううん、逆に……今それ、来たかって思ったわ」
亜紀のリアクション
「ていうか美里、まさかだけど」
「……うん。未経験」
「うそでしょ、初キスまだなの!?」
「なんで“初キス”って明るく言えるのよ。
もう30だよ? 初とか言っちゃって恥ずかしすぎるんだけど」
美里のモノローグ(目をそらしながら)
(だって、今まで“恋”って何かわからなかったし、
付き合うとか、手をつなぐとか、
それどころか“誰かに自分を委ねる”って感覚が、怖かった)
(だから、たぶん──キスのその先なんて、もう完全に“未開の世界”)
亜紀、あきれながらもやさしく笑う
「でもさ、知らないからこそ、
ちゃんと“この人なら大丈夫”って思える相手としたらいいよ」
「焦ってもしないし、焦らなくてもいい。
むしろその慎重さが、あんたのいいとこなんだよ」
夜・自室でひとり、天井を見上げながら考える
「キスって、どんな感じなんだろう」
恋愛映画のワンシーンとか、少女漫画とか、
頭のなかに浮かぶ“きれいなキス”。
でも──
“自分ごと”として想像したこと、ほとんどなかった。
「相手が息してる音とか、まつげが触れそうな距離とか、
そんなリアルなキス、私にも来るのかな……」
アップデート日誌
✅ 恋愛知識:ゼロからスタート
✅ 今日の疑問:「キスって、どんな感情になるの?」
✅ 見えない未来:その先の“未開の世界”は、
まだ怖い。でも、ちゃんと知りたいと思った。
第11話「……ねえ、なんでこんなに、キスのこと考えてるんだろう」
火曜日・会社の昼休み。
デスクでおにぎりをかじりながら、
パソコンの画面に映るはずの資料より、
美里の脳内にずっと浮かんでいるのは──
“キス”って、どんな感じなんだろう
心の中の独白(完全に一人会議モード)
(映画みたいに、鼻の先が触れそうなくらい近づいて、
ゆっくり目を閉じて──ああいうの、現実にあるのかな?)
(それとも、もっと不意打ちで、
“えっ、今の……キス?”みたいなやつ?)
(ていうか、どっちにしても……
私、ちゃんとできるのかな?)
(口、乾いてたらどうしよう。
息止めすぎて変な顔してたら?)
同僚・亜紀がいきなり声をかける
「……でさ、美里」
「ひゃっ!? なに!?」
「いや、おにぎり握りつぶしてたから気になって。
あんたまた妄想してたでしょ」
「ち、ちがう! 妄想じゃない! 考察!」
「なにその言い訳。さてはまだ“キス問題”引きずってんな」
美里、つぶやく
「……なんでこんなに、考えちゃうんだろう」
「まだ何も始まってないのに、
まだ誰のものでもないのに、
“キス”ってだけで、
なんでこんなに頭の中、いっぱいになっちゃうんだろう……」
亜紀、ちょっとだけ真顔になる
「それってさ、
“期待してる”ってことなんじゃない? 恋に」
「誰かとちゃんと、近づいて、
ちゃんと“好き”になって、
“この人となら”って思いたいって、
……どこかで、もう願ってるんだと思うよ」
夜、自室にて
美里は鏡に向かってみる。
そっと目を閉じて──ふっと想像してみる。
(誰かの手が頬に触れて、
距離が近づいて、
あ、来る──って思った瞬間、
私、どうするんだろう)
──そして、そっと目を開けて、照れ笑い。
「……ないない、そんなこと。いや、あったら困るけど。
でも、ちょっと……知ってみたいかも」
ノート
✅ 今日の思考:勤務中の約45%、キスの妄想(という名の考察)
✅ 結論:まだ知らないからこそ、知りたい。でも、焦りたくない
✅ 進捗:恋の入口に、ようやく片足をかけたかもしれない
第12話「せっかく忘れかけてたのに……あの布団の中、どうなってるの?」曜の夜。金曜の夜、コンビニで買ったワインとチーズを片手に、
サブスクの韓国ドラマを再生。
──それがすべての始まりだった。
「ねえ……帰すつもり、ないよ?」
(……うわ、出た……ベッドに座らせてからの、低音ボイス……)
「……もう、どうなってもいい」
(あ、キス。いや、キスじゃない。
このあと絶対、あの、あれが──)
──ふと、画面が暗くなる。
そして、ふたりの体が布団の中へ
「……いやいやいやいや、ちょっと待って」
「この後どうなったの!? ねえ、今どんな顔してるの!?
どこに手置いてるの!? ていうか服は!? 何枚脱いだの!?」
ソファに突っ伏して、悶絶する美里
「あの布団の中、どうなってんの!?」
「……いや、違う違う。
あんなのフィクションだから。演出だから。
現実はもっと、地味で、ぎこちなくて、リアルで……」
(でも……でもさ……)
「一回くらい、あの布団の中に“入ってみたい”って思っちゃう私は……
変かな?」
翌日・亜紀とのモーニング
「……だからさ、聞いてよ亜紀。
韓ドラのベッドシーンのせいで、また“未開の世界”が再発してさ」
「出た。“未開の世界”シリーズ。
てかあんた、たぶんそれ一生考えてるよ」
「だよね。もはや性教育やり直したほうが早いかも」
美里の深い独白
「私、別に“すぐにしたい”とか、
“そういうこと”に焦ってるわけじゃない」
「ただ──あの布団の中みたいに、
心がほどけて、肌の温度が伝わって、
“私、ここにいていいんだ”って思える瞬間を……
どこかでずっと、憧れてる」
ノート(また復活)
✅ 韓ドラトラップにより、恋愛意識再燃
✅ “布団の中”は未知すぎて謎すぎて、でもちょっと知りたい
✅ 次のステップ:性より“信頼”だ。
→「その人となら、ちゃんと目を見て笑える関係」じゃないと
私、きっと無理
第14話「悶々とした気持ちでジム行くの、ほんと危険」
火曜・夜20時、いつものジム。
(汗かいて、頭スッキリさせるだけ。
今日は“勝負下着”とか、韓ドラの布団の中とか、全部忘れるために来たの)
──そう誓って、更衣室でウェアに着替えながら。
……“勝負下着”が、ほんのり透けて見えてる。
(あれ? ちょっと……丈、短い?
……え、ていうかこれ、背筋とか伸ばしたら……)
(ヤバい。今夜の私、いろんな意味で危険物)
吉野トレーナー登場
「こんばんは! 今日も来てくれて嬉しいです!」
(やめて、今夜の私はいつもの私じゃない)
「今日は胸筋と下半身、しっかりいきましょうか」
(胸筋て……え、ちょっと待って、
その言葉が今、すごくえっちに聞こえたんですけど……)
フォーム指導中
吉野が後ろからそっと手を添える。
「はい、この角度ですね。
腰、もう少し引いて──いいですよ、すごくキレイです」
(言い方!! “すごくキレイ”とか、
今夜の私が言われたら絶対ダメなやつ!!)
(ていうか、こんな距離感で指導されたら、
こっちが崩れるっての!!)
美里の心の中(暴走状態)
「このウェアの下に勝負下着。
そしてこの距離感。
汗。息遣い。筋肉。香り。……すべてが危険」
「あの布団の中の妄想、
ここに再現しちゃだめだって……!!」
トレーニング終了後
「今日、すごく集中してましたね。
フォームがすごく自然でした」
「そ、そうですか? ありがとうございます……(あっぶな、完全に無意識だった)」
(あーもう、私、
“自分を律しに来た場所で、自分を持て余してる”ってどうなの)
帰り道・夜風に冷やされながら
(……キスどころじゃなかった)
(今日の私は、もう完全に“布団の入口”くらいまで行ってた)
(でも、最後まで何も起こらなかった)
(……なんか、それが救いでもあり、ちょっと寂しくもある)
ノート(もはや性と心の整理ノート)
✅ 今日の危険度:85%(精神的ギリギリ)
✅ 勝負下着、過信注意
✅ 気づき:本能だけで動いたら、関係は壊れる
→やっぱり、「安心して委ねられる人」じゃないとダメ