第x章「何も起きない日が、一番つらい」
「もっと“誠実”な人、探そう」──それは逃げじゃなく、前に進む選択。
「恋愛初心者の私には無理かも」
「ガーン」って、心が崩れる音がした。
でもそのあとで、
「もっと誠実な人を探そう」って思えたのは、
あなたがちゃんと、“まっすぐ恋と向き合った”証拠です。
恋に不器用だった美里が、今回で学んだこと:
曖昧な関係は、一見やさしくても、心を壊す
“言葉で言ってくれない人”に、期待し続けるのは苦しい
信頼は、態度だけじゃなく“時系列”でも試される
恋は勇気がいるけど、「疑う勇気」も大事
好きな気持ちは嘘じゃない。でも、“自分を守ること”も、もっと大切
最後のノートの1ページ
【決意】
“ちゃんと向き合ってくれる人”を、探し直す。
中途半端な温度じゃなくて、こっちを“選ぶ覚悟のある人”と恋がしたい。
【言葉】
「やさしい人」じゃなくて、
「逃げずに言葉で向き合える人」が、今の私には必要だった。
「簡単には出会えない」
──そうなんだよね。
出会いたいと思っても、タイミングも、人柄も、互いの気持ちも、全部が“揃う”なんてこと、そうそうない。
第x章「何も起きない日が、一番つらい」
カレンダーだけが進んでいく。
朝起きて、会社に行って、帰って、夕飯食べて、お風呂入って、寝る。
そして次の朝がまた来る。
スマホの通知も、LINEの履歴も、変化はない。
週末が来ても、特に予定もない。
誰かと会う用事がないから、少しだけマスクの奥の口紅を変えてみたって、誰も気づかない。
「こんな毎日のどこに、“運命の人”なんて潜んでるっていうの?」
そんな心の声が、胸のどこかで、小さくずっとつぶやいてる。
婚活ノートの、何も書けないページ
【今日の記録】
出会い:なし
話しかけた人:コンビニ店員
心の動き:特になし
書くこと:……ない
空白のページを見て、ふっと思う。
「何も起きなかった日は、“心が疲れない日”でもあるんだろうな」
でもそれって、“何かが変わる余地もなかった日”でもある。
だけど、美里は、あきらめきれない
なぜなら──
「だって、本当に誰とも出会えなかったとしても、
出会いたいって思った日までを、私は確かに、生きてたから」
新章:『まさかの、恋の向こう側』
第1話「7歳下なんて、恋愛対象じゃないと思ってた」
週末。図書館の自習スペース。
とくに読むものもないのに、なんとなく静かな場所にいたくて、ふらっと立ち寄った。
大きな窓から差し込む光の下で、コーヒー片手に雑誌をめくっていたときだった。
「すみません、その席……いいですか?」
顔を上げると、スウェット姿の男の子。
目が合った瞬間、ちょっとだけ笑ってくれた。
「どうぞ」
(うわ、若い……大学生?)
隣に座った彼は、分厚いノートと黒の万年筆を取り出し、黙々と文字を書き始めた。
(……字、きれい)
静かな時間が10分ほど流れたあと、彼がふと話しかけてきた。
「雑誌、ファッション系なんですね」
「え? あ、うん、なんとなく。読むだけで満足するやつ」
「似合いそうな服、いっぱい載ってますね」
「……え、いきなり褒めた?」
「いや、事実を言っただけです」
笑って言われたそれに、なんか──
心の奥が“カーン”って、小さく鳴った。
カフェにて・偶然の流れ
図書館のあとは、なぜか流れで近くのカフェへ。
「……ていうか、学生さん?」
「はい、今年24になります。美術系の大学で今、卒業制作中なんです」
「え、24!? じゃあ、私より……7つも下……」
「それって、何か問題あります?」
「いや、問題っていうか……普通に、お姉さんって言われるような距離感というか」
「でも、“今、こうして話せてる”ってことが答えじゃないですか?」
(……なんだろう、この子。ストレートすぎて怖い)
夜・婚活ノートに新しい文字が生まれる
【出会い】図書館/年下男子(24)/美術系/名前はまだ聞けてない
→まっすぐで、変な駆け引きがない人
【感情】年下なのに、話しててすごく落ち着く
→でも、これは……恋じゃない。きっと違う。たぶん。
ページの端に、小さく書いた。
でも、“恋じゃない”って思いたいときほど──
それは恋のはじまりなんじゃないの?
美里はなぜ、男と話すだけで「好きかも」と思ってしまうのか?
1. 恋愛経験ゼロゆえの“レア感”
美里は30歳まで恋愛経験がない。
つまり、男の人と自然に心を開いて話せただけで、その瞬間が“特別”になる。
「この人、他の人と違う」
→実際は“話せただけ”なのに、自分の中では“恋愛候補”に変換される。
2. まっすぐ向き合ってくれる人が少なかった
過去の経験が少ないと、ちょっとした気づかいや目線、優しさに“意味”を見出しすぎてしまう。
「私にだけこんなふうに話してくれた」
→いや、それ全員にそうしてるやつだよ?って周囲は思うけど、当人はその区別がつかない。
3. “恋”に対して、答え合わせを急いでる
恋をしたことがないからこそ、**今のこれは“恋”なの?違うの?**って答えがほしくて、
「ドキドキするから、たぶん好きだと思う」
→でもそれって、“安心感”だったり、“人としての好意”かもしれない。
亜紀あたり、こんなふうに言いそう:
「ねえ美里。
それってさ、“恋”じゃなくて、“人との距離が近づいたこと”に慣れてないだけじゃない?」
「ドキドキするのが全部“恋”だったら、
私なんて毎日クロネコの配達員に恋してるわ」
……名言(笑)
でも、美里の気持ちも正しい
誰だって、“特別”にされたいし、
誰かに話しかけられるだけで嬉しくなることはある。
だからこそ、美里はこれから
“人としての好意”と“恋心”を、ちゃんと自分で見分ける力を育てていくフェーズに入るのかもしれません。
第2話(新章)「私、たぶん恋じゃなくて“承認されたい”だけだった」
日曜の午後。
窓を開けて、風が通り抜ける部屋の中。
スマホの通知も、予定も、なにもない。
美里は、婚活ノートを開いてペンを走らせる。
今日:特になにもなし
連絡:川嶋くんからも、年下くんからもなし
出会い:コンビニのバイトの子と少しだけ話した
ちょっとだけ、笑ってくれた。
…なんか、嬉しかった。
そしてふと、書きかけた文字の手を止める。
「……あれ?」
心のモノローグ
「なんで私、こんなことで喜んでるんだろう」
「なんで、“笑いかけられた”だけで、“恋になるかも”って思っちゃうんだろう」
──そして、ふっと笑ってしまう。
「……私、バカじゃない?」
「知り合う人、話しかけてくれた人、優しくしてくれた人……
全部、“もしかしてこの人が運命かも”って思ってる」
「たぶん私、“好き”なんじゃない。
“自分に気づいてくれたこと”が嬉しいだけなんだ」
そして、気づく
「クロネコの配達員さえ、ちょっとまぶしいって思ってたもん……」
そう言ってひとりで吹き出す。
恥ずかしくて、情けなくて、でもちょっとだけ、愛おしい自分。
婚活ノートに書いた“本音”
【気づき】
たぶん私は、恋をしたいんじゃなくて、
“私を誰かに見てもらいたい”って、ずっと思ってた。
それを「恋」って勘違いしてただけ。
恋じゃない。でも、さびしかったんだ。きっと。
結論じゃなく、“始まり”
美里は、ノートの最後にこう書いた。
もう、“誰かに認められるための恋”じゃなくて、
“私が本当に誰かを知って、好きになる恋”がしたい。
ゼロからやり直し。今度は、“自分”を好きになることから。