第70話 「朝焼け、同じ布団の中で」 ──そして、亜紀の“あんた達御盛んね”砲、炸裂。
日曜の朝。
美里は、ふわふわの布団の中で、目を覚ます。
横には、まだ眠っている彼の寝顔。
美里(……なんか、ほんとに一緒に寝てる)
(夢じゃなかったんだ)
そっと体を起こして、スマホを見ると──
メッセージ通知:亜紀(3件)
亜紀:「おはよー。で、昨日どうだったんですか美里さん」
亜紀:「っていうか、さすがにもう、したんでしょ?」
亜紀:「あんた達、御盛んのようだけど……ちゃんとつけてるの?」
美里「……は?」(小声)
美里(ちょ、ちょっと待って、なにその直球。
朝から“つけてるの?”って……コンドームのこと?)
モノローグ(美里)
(まさか親友からこんな健康保健指導が来るとは)
(……でも、確かに、ちゃんと話しておくべきだったのかも)
美里の返信
美里:「なにそれ(笑)そんなこと急に聞く?」
美里:「……ちゃんとしてるよ、たぶん。っていうか、した」
美里:「ていうか私たち、そんな御盛んに見える……?」
数秒後、亜紀から即レス。
亜紀:「見えるっていうか、昨日のテンションがすでにムラムラ美里だったよ」
亜紀:「大事なことだから言うけど、マジでちゃんとね。
年下はノリと勢いで突っ走るからね。理性を守るのは美里の役目よ」
美里:「え、説教モード?」
亜紀:「これが“愛のある忠告”ってやつです。てか、愛されてんでしょ? なら、もっと話せるはず」
その後、ベッドで目を覚ました彼に──
彼「……おはよう」
美里「ねえ、ちょっと話していい?」
彼「ん?」
美里「……今後のこととか、ちゃんと話したいの。
そういうのも含めて、ちゃんとしたいから」
彼「うん、ありがとう。俺も……話したかった」
モノローグ(美里)
(好きって気持ちだけじゃ足りない。
だからこそ、“ちゃんと話す”ってことが、
次の恋のステージなんだって、今なら分かる)
(教えてくれてありがとう、亜紀)
ノート(恋と性、友情と信頼)
✅ 親友・亜紀:ズバリ聞くことで“恋の現実面”に踏み込む
✅ 美里:驚きつつも、自分たちの関係に責任を持ち始める
✅ 彼:“ちゃんと話す”姿勢に同調、恋が深化する予感
✅ テーマ:「心だけじゃない恋」=現実と信頼の交差点
モノローグ(夜、美里の独り言)
(“好き”の次に必要なのは、
“守る”ってことかもしれない)
(自分のことも、相手のことも、
そして、ふたりの未来も)
第71話
「“大人の恋”って、こういうことかもしれない」
日曜の夕方。
カフェの窓際、並んで座るふたり。
コーヒーの香りと、外から射し込む西日。
だけど、空気はどこか、少しだけ重たかった。
彼「……さっきの話、だけど」
美里「うん」
彼「たとえばこのまま付き合っていったら──
親に紹介するとか、そういうこともあるのかなって」
美里「……あるよ」
彼「でも、俺の親……ちょっと古いというか、
“年下の男が年上の女性と付き合うなんて”って言うタイプで」
美里「……そっか」
モノローグ(美里の心の声)
(現実だ。
恋してるだけじゃ越えられない壁が、あるんだ)
美里「……私の親はね、逆に“結婚できるなら誰でもいいから早く”って言いそう(笑)」
彼「それはちょっと安心」
美里「でも、そう言われると、ちょっとプレッシャーにもなるんだよ?」
ふたりは笑ったけれど、
胸の奥には、まだ残っていた。
**「どうする? 私たち」**という問い。
夜、別れ際の駅前。
ふたりは静かに歩きながら、並んでいる。
手はつないでいるけれど、その握力はどこか慎重だった。
美里「……私ね、“結婚したいから付き合う”わけじゃない」
「でも、誰かとちゃんと向き合って、
一緒に未来を考えていける相手じゃないと、
もう時間使えないって思ってる」
「それって、重い?」
彼「……全然」
「俺も、そう思ってる。
でも、考えたことなかった。自分が“誰かの人生の現実”になること」
モノローグ(美里)
(恋って、“ときめき”じゃなくて、
たぶん“決意”なんだと思う)
(誰かの生活に入り込むこと。
好きって気持ちだけじゃ足りないこともある)
(それでも、私たちは──)
彼「……ちゃんと向き合っていきたいよ、美里さんと」
美里「うん。……私も」
ふたりは、そっと唇を重ねた。
そのキスは、軽くてあたたかくて、
“好き”のあとにある、**「誓いの入口」**のようだった。
ノート(“大人の恋”というテーマ)
✅ 親への紹介、将来像という“現実”と向き合い始める
✅ 美里:恋の“続き”としての人生設計を意識
✅ 彼:はじめて“自分が誰かを守る側”として考える
✅ テーマ:「ときめき」+「責任感」=大人の恋
モノローグ(帰宅後の美里)
(たぶん私は、“恋がしたい”んじゃない)
(“ちゃんとした愛が欲しい”んだ)
(そして今、そのスタートラインに立ってる気がする)
第72話
「名前で呼ばれると、ちょっと照れる」
火曜日の夜。
ふたりはビデオ通話中。
彼はTシャツ姿で、ソファに寝転びながら、美里はベッドの上であぐらをかいて。
美里「この間の会議、ほんっと疲れた」
彼「お疲れさまでした、佐倉さん」
美里「……ん?」
彼「ん?」
美里「ちょっとさ、ひとつ聞いてもいい?」
彼「どうぞ」
美里「……そろそろ“佐倉さん”やめない?」
モノローグ(美里)
(付き合ってもうすぐ1か月。
毎週会って、手もつないで、キスもして──)
(なのにまだ“名字呼び”って、
なんか、距離あるよね……?)
彼「あ、やっぱりそう思った?」
美里「うん、けっこう前から」
彼「俺、なんて呼べばいいかな……“美里ちゃん”?
“美里さん”? それとも、“みさりん”?」
美里「……それ最後のやつは絶対ナシで」
彼「はは、ごめんごめん。じゃあ、美里さん、かな」
美里「“さん”いる?」
彼「……いらない?」
美里「“美里”でいいよ。下の名前、呼ばれたい」
「……ちょっと照れるけど」
彼「……美里」
美里「……ん、はい」
彼「わ、ほんとに返事した(笑)」
美里「自分の名前に返事するのって、なんか恥ずかしいんだから」
モノローグ(彼の視点)
(“美里”って名前、呼んだら
ほんとに彼女の声が返ってきて、
それがなんだか、たまらなく幸せだった)
翌朝、美里の部屋。
歯を磨きながらスマホを見ると、彼からメッセージ。
「おはよう、美里。今日もがんばってね」
思わず、鏡越しに自分が笑ってるのが見えた。
美里「……うん、今日もがんばる」
ノート(ふたりの関係性の微細な進化)
✅ 呼び方が変わる=“親密さの証”
✅ 美里:素直に「名前で呼ばれたい」と伝える勇気
✅ 彼:照れながらも応える → 関係が一歩深まる
✅ テーマ:「名前」は“心の距離を縮める鍵”
モノローグ(通勤電車の中、美里)
(“美里”って、こんなにやさしく響く名前だったっけ)
(好きな人の声で呼ばれると、名前まで恋するみたい)