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第64話 「なんかもう、ぶつかり稽古みたいだったんだけど……」

日曜の午後、カフェ。

美里はホットカフェラテを前に、眉間にしわを寄せていた。

対面には、ノートパソコンを閉じたばかりの亜紀。

仕事モードを抜けた表情で、じっと美里を見つめてくる。

亜紀「で? 昨日ついに……」

美里「……うん」

亜紀「うわっ、ついに来た! 黒レース出陣の日でしょ!?」

美里「もう、やめてそれ。思い出すと胃がキリキリする」


モノローグ(美里の心の声)

(だってさ……ロマンチックな展開になると思ってたんだよ)

(優しく抱きしめられて、照明はほどよく落ちてて……)

(……なのに、バタバタ音するし、足つるし、私の髪ゴムは顔にパチンだし)

(もうこれ、愛じゃなくてスポーツじゃん!!)


美里「なんかね、うまくいかなかった……」

「最初から最後まで、全部がぎこちなくて……」

「……あれ、ぶつかり稽古だった。裸の柔道よ」

亜紀「わっははははは!!!」

美里「笑うなああああ!」

亜紀「いや無理、最高すぎる、裸の柔道って何!?」


亜紀「で、彼はなんか言ってた?」

美里「“緊張してた”って……」

亜紀「うんうん、それ、ちゃんと向き合ってた証拠じゃん」

美里「でもさ、動画で見たやつと全然違ってて」

亜紀「動画と違ってて当たり前よ!あんなの演出!照明!プロの所作!」

美里「そっか……私、何か間違ってたのかなって」

亜紀「間違ってたのは、“完成された恋愛”を想定したことよ」

「恋はね、未完成のまま続いてくのが正解なの」


モノローグ(帰り道、美里)

(恋は練習じゃない。試験でもない)

(ぶつかって、笑って、ちょっと傷ついて、でも一緒にいられるなら、それでいいんだ)


ノート(“ぶつかり稽古”を越えて)

✅ 美里:経験と理想のズレに悩む

✅ 亜紀:笑いつつも核心を突く名アドバイザー

✅ テーマ:うまくいかなくても、それが本物の関係

✅ 教訓:AVは演出、恋は“実在の人”と作るプロセス


次回予告

第65話「恥ずかしい夜も、ちゃんと“思い出”になってく」

次に会ったとき、彼がぽつりと呟いた。

「昨日の美里、可愛かったよ」

──不器用でも、本物の恋がちゃんと進んでいく。


次回は、彼との再会で「笑って振り返る」シーン、

そして美里がほんの少し“恋に自信”を持ち始める姿を描いていきます。

続けて進めようか?

第65話

「研究会、ふたりで。──でも、モザイクがすべてを奪ってく」


金曜の夜、美里の部屋。

いつものように紅茶とお菓子を用意していたけど、

今夜のテーマは──“共同研究”。

美里「……ねえ、今日ちょっと見てみない?」

彼「え、何を?」

美里「その……女性向けの、動画……」

彼「……って、アレですか?」

美里「うん。アレ」


モノローグ(美里の心の声)

(正直、ひとりで見るより恥ずかしい)

(でも、一緒に見たら“研究”になるって亜紀が言ってたし)

(……ほんとに、なるんだろうか)


ふたりでベッドに腰かけて、ノートパソコンを開く。

気まずい沈黙が流れる中、動画がスタート。

彼「おお……」

美里「しっ、声大きい」

彼「ごめん……」

映像の中では、俳優の男性が優しく女性の髪を撫でる。

いい感じの照明、いい感じの音楽……が、

モザイクで全部台無し。


美里「……ちょっと待って、何してるのこれ」

彼「たぶん……キスのあと、手が……」

美里「わからん。全然わからん」

彼「モザイクの圧が強すぎる」

美里「てか、このモザイク“壁”じゃない?」

彼「職人の執念を感じる」

美里「……研究、失敗かもしれない」


笑いながらも、

ふたりの距離は、動画以上に近づいていた。


少しして、画面を閉じて。

彼「……でも、ちょっとドキドキした」

美里「うん、私も」

彼「ていうか、美里さんがそういうの提案してくれて、ちょっと嬉しかった」

美里「……恥ずかしかったけど、“一緒に勉強”って思えば、なんとか」

彼「じゃあさ、動画の真似はできなくても……今は、ぎゅっとしてもいい?」

美里「……それなら、“モザイクいらない”から」


モノローグ(その夜、眠る前)

(見えなかった映像より、彼の手の温もりのほうがずっとリアルだった)

(恋って、モザイクじゃない)

(ちょっとずつでも、“ちゃんと触れて知っていく”こと)


ノート(ふたりで見る、という関係性)

✅ 「恋愛研究」は共有すると距離が縮まる

✅ モザイク=笑いの導線、緊張をほぐすツールにも

✅ キーポイント:映像より“体温”、模倣より“ふたりのテンポ”

✅ 美里の変化:「自分が提案する」=恋に能動的になってきた


第66話

「映像より、手のひらの温度で」


土曜の夜。

彼はいつものように、美里の部屋のソファに腰かけている。

でも、今夜は、なぜか言葉が少なかった。

美里「……ねえ、緊張してる?」

彼「うん。ちょっとだけ」

美里「……私も、実は」

ふたりの間に、ぽつんと沈黙が落ちた。

でも、それは気まずさじゃない。

**“大切にしたい空気”**という名前の沈黙。


美里「動画見て研究してみたけど、なんかね……」

「あれって、“正解”っぽく見えて、全然自分に合わなかった」

「モザイクも強すぎたし」

彼「ほんとにね、あれ“壁”だった」

美里「……笑」


彼が、そっと手を伸ばす。

美里の手に触れたその瞬間、

美里の中にあった不安や焦りが、じんわりと溶けていく。


モノローグ(美里の心の声)

(この手のひらの温度が、すべてだった)

(キスの仕方も、触れ方も、話し方も──)

(動画や雑誌じゃなくて、この“あったかさ”が教えてくれる)


彼「……美里さん、手、あったかい」

美里「それ、言おうと思ってたのに……先こされた」

彼「じゃあ次、俺が“好き”って言ったら、美里さんが“それも言おうと思ってた”って言って」

美里「……じゃあ今、練習してみる?」

彼「うん」

美里「好き」

彼「……それ、俺が先に言うってルールじゃなかった?」

美里「だって、もう言いたかったから」


部屋の照明はやさしく灯っている。

見せようとした肌よりも、

伝えようとした言葉よりも、

触れた手から伝わる感情の方が、ずっと深くて、ちゃんとしていた。


翌朝。

まだ眠たげな彼の横で、

美里はふと自分の手のひらを見つめる。

美里「……これでよかったんだね」

「ちゃんと触れる、ってこういうことだったんだ」


ノート(体温で進む恋)

✅ “理想の映像”より、“今ここ”にある手の温度

✅ 美里の変化:比較から解放、自分たちのテンポを信じ始める

✅ 二人の恋:形ではなく、感触と呼吸で深まっていく

✅ キーワード:「あったかさ」は、愛の始まりの証拠


モノローグ(ベッドの中、美里)

(たぶん、恋って“熱”なんだと思う)

(頭じゃなくて、肌でもなくて──

触れた手があったかいって、そういうことが一番大事なんだ)

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