第61話 「恋の“実践”って、雑誌と違いすぎる」
平日の夜、自宅。
部屋に広げられたのは──
女性誌3冊
恋愛指南本
そして、先日ネットでダウンロードした「女性向けAV」
美里「……勉強です。これは、研究なんです」
目は真剣。
だが、眉間にはしわ。
そして、顔は真っ赤。
美里「なるほど……キスのときは目を閉じて3秒がベスト……」
「あっち系の動画は、意外と優しく触れてる……そっか、勢いだけじゃダメなのね」
「下着は黒レース率高いな……いや、わたし似合うかなこれ」
モノローグ(美里の心の声)
(……っていうか、みんなこんなに自然にできてるの?)
(恋愛スキルって、どこで学ぶの? 学校じゃ教えてくれなかったよ!?)
(そもそもAVって“演技”じゃん! なのに、なんで私は本気でメモ取ってるの!?)
翌朝、会社のランチタイム。
亜紀「ねぇ、最近なんか勉強してるでしょ?」
美里「……ばれた?」
亜紀「てか、女子向けAVを“2倍速で再生”してるのは美里くらいだと思うよ」
美里「だって時間がもったいないと思って……」
亜紀「恋って、**2倍速で進めるもんじゃないからね?」
美里「うっ……」
その夜、美里は自分のノートを見返す。
・キスの間隔は最初は週2
・触れ方は“ささやくように”
・ベッドの照明は間接光
・香水はつけすぎNG(※耳裏が正解)
……。
美里「……なんか、私、戦おうとしてない?」
「これ、“恋”じゃなくて、“試験”だよね」
「もっと自然に……ちゃんと彼と話そう。ちゃんと目、見て……」
ノート(恋の“予習”と“現実”)
✅ 美里:雑誌・動画・本=“恋の正解”を探そうとする
✅ 結果:むしろ不安と混乱が増す
✅ 気づき:恋は「戦い」じゃなくて「会話」
✅ 小さな成長:恋の教科書より、彼の声を聞く勇気
モノローグ(夜、電気を消す前に)
(勉強するのも大事だけど、
本当に知りたいのは、彼の気持ち。彼のタイミング)
(わたしができることは、“向き合うこと”)
第62話
「ちゃんと触れ合いたい、ちゃんと話したい──でも、悶々と研究中です」
月曜。
朝からスーツに着替えて鏡の前。
美里「……よし、今日は“できる女”モードで行こう」
けど、心の中では──
(昨日見た動画、まだ引きずってる……)
(“見つめあったあと、そっと触れて……”って、あれ再現できる自信ない)
(ていうか、あれプロでしょ。プロの演技でしょ!?)
昼休み、オフィスの給湯室。
コーヒーを入れながら、ひとりごと。
「はぁ……触れられたい……触れたい……」
「ていうか、なんでこっちから仕掛けなきゃいけないの?」
「あれ、恋ってこんなに“準備”するもんだったっけ?」
同僚が後ろから入ってきて、美里、無言でコーヒーをこぼす。
夜、帰宅後。
またしても、ノートと動画の“研究タイム”。
「ふむふむ……“ゆっくりと抱きしめて、相手の呼吸に合わせる”……なるほど」
「それから“ささやきながら髪にキス”って、**いや無理!**そんなスキルどこで習得すんの!?」
「てか、AVで使われてたこのBGM、なんか頭から離れないんだけど」
スマホのメモアプリには
“ナイトルーティンBGM候補”が5曲保存されていた。
モノローグ(悶々としすぎて逆に病んでくる)
(そもそも、“触れ合う”って、
相手があってこそのことじゃないの……?)
(今の私は、“美里ソロ公演の予行練習”じゃん)
(もういっそ、全部彼に正直に言っちゃおうか──)
翌日、彼と夜の散歩。
川沿いのベンチで並んで座る。
夜風は少し肌寒い。
美里「……ねえ」
彼「ん?」
美里「……ほんとは、ちゃんと話したいの」
「あなたのことも、私のことも。……ちゃんと、触れ合いたい」
「でも、わたし最近……“予習”ばっかしててさ……」
「動画とか雑誌とか、本とか……」
「……逆に、何が正解かわかんなくなっちゃって」
「ほんとは、ただ、あなたと……ぎゅってしたいだけなのに」
彼は少しだけ黙って、
そして、そっと美里の肩を抱いた。
「予習、真面目すぎ(笑)」
「……でも、ありがとう。話してくれて」
「俺も、ちゃんと触れ合いたいって思ってた。
でも、“どうしたらいいか”考えすぎて動けなかった」
「だから、今はこれでいい? こうして隣に座って、
あったかくなるまで、黙ってるの」
美里「うん……これ、すごくいい」
ノート(研究より、ふたりの空気)
✅ 美里:真面目に研究→悶々→空回り
✅ 気づき:恋は「実技」じゃなく「呼吸」
✅ 彼との共有:「どう進めるか」より「いっしょにいる」こと
✅ テーマ:“触れ合い”は、タイミングじゃなく、気持ち
モノローグ(帰り道、美里の胸のなか)
(好きって、言葉よりも先に伝わる)
(触れたいって気持ちは、何よりもあたたかい)
(研究してたのは、
“恋”じゃなくて、“不安”だったのかもしれない)
第63話
「黒レース、満を持して──でも、これは“ぶつかり稽古”?」
土曜の夜、美里の部屋。
今日は、ついに――黒レースデビューの日。
ベッドの上には、控えめだけどセクシーなランジェリー。
心臓の音がうるさすぎて、鏡の前に立つのが怖い。
美里「やるしかない。今日の私は、ひと皮むけるんだ」
(いや、むけるって表現やめなさい……)
ピンポーン、と鳴って彼がやってくる。
彼「こんばんは」
美里「い、いらっしゃい……」
(だめだ、目が泳ぐ……)
しばらく映画を観ながら、ぎこちなく並んで座るふたり。
でも、その手はそっと重なる。
目が合う。
空気が少し、変わる。
彼「……美里さん、今日なんか違いますね」
美里「そ、そうかな」
彼「いや、なんか……綺麗」
美里「……ありがとう」
照明を落として、ベッドへ。
ついに、緊張の瞬間。
美里「わたし……今日は、準備してきたの」
彼「……うん」
美里「……黒レース、どう?」
彼「……すごく、似合ってる」
美里「ほんとに? 変じゃない?」
彼「全然。……でも、こっちが緊張してきた」
美里「私のほうが100倍緊張してるし!!」
──そして、初めての“お互いを確かめる”夜が始まる。
が。
モノローグ(翌朝、美里の心の声)
(いや……なんか……思ってたのと違う)
(お互いぎこちないし、タイミング噛み合わないし、照明も気になるし、寒いし、笑うし、
まさかの足つるし)
(これ、恋愛の最終奥義じゃなくて……ぶつかり稽古じゃん……)
朝、布団の中。
彼と顔を見合わせて──
美里「……ごめん、なんか、うまくできなかったね」
彼「いや、俺のほうこそ。緊張で呼吸止まりそうだった」
美里「思ったより……地味だったよね?」
彼「たしかに。でも、ちゃんと美里さんに触れられて嬉しかった」
美里「……また、練習しよ?」
彼「うん、“本番”じゃなくて、“共演”みたいな感じで」
美里「いやそれも変な表現!!」
ノート(大人の恋のリアル)
✅ 美里:満を持しての黒レース → 心の準備はしてた、身体はまだついてこなかった
✅ 彼:同じく緊張、慌て、誠実
✅ 関係の深化:「うまくできないこと」を一緒に笑える=本当の親密さ
✅ テーマ:恋の“成功”は、気持ちが通じ合うこと
モノローグ(朝日が差し込むベッドで)
(理想の夜じゃなかったけど、
ちゃんと一歩、進んだと思う)
(完璧な恋より、ちょっと不器用なほうが、
たぶん、愛おしい)