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第46話「反省会ナイト──鏡の前で思わず笑った夜」

夜遅く。

美里はコートを脱ぎ、全身鏡の前に立っていた。

「……はあ、やばかった……。あの風……完全に事故」

スカートの裾をちょっと持ち上げてみて、

思わずふっと笑ってしまう。

「……うそでしょ、これで歩いてた?

私、よく生きて帰ってきたな……」


鏡の中の自分。

メイクは少し落ちてる。髪も乱れてる。

でも、そこにいたのは――

ふだんよりちょっと笑ってる顔。

ちゃんと誰かに“女の子”として見られた、顔。

「なんか、今日の私……ちょっとかわいかったかもね」

第47話「可愛いって、たぶんこういう夜のこと」


帰宅後──

スカート事件から無事(?)帰ってきた美里は、部屋着に着替え、ホットミルクを片手にソファへ沈み込んでいた。

ぽつんとテレビはついているけど、映像は見ていない。

「……わたし、今日……手、つながれた」


そして、自分に向かって呟いた。

「ていうか、スカート短すぎだったよね?」

「ていうか、ペチパン忘れたって、何してんの?」

「ていうか、彼、見えてたらどうしよう……」

(でも)

「でも……見られてても、それでも手、つないでくれたんだよね」

その指の温度は、まだ残ってる気がした。


翌朝。

カフェで、亜紀と合流。

「ねえ、聞いて」

「何、その“やらかしました”のテンション」

「昨日、ついに手つながれた……」

「えっ、なにそれ!キュン!!で、で、で、それだけ?それだけ?」

「それだけ。でも、その前に……ペチパン忘れてミニスカで風に……」

「はい事故確定」


「一瞬、スカートめくれて……」

「うわぁあああ!」

「でも、彼の目線はセーフだった気がする……たぶん、いや……わかんない」

「大丈夫だって。“事故後に手つなぎ”なら、むしろ点数爆上げ」

「……そっか」

「そっかじゃない。“見られてても好き”って、けっこう真剣よそれ」


ノート(恋の振り返り)

✅ 夜のひとり反省会:羞恥6割・幸せ4割

✅ 翌朝の友人報告会:羞恥2割・照れ8割

✅ 結論:可愛いって、こういう夜のことだ


モノローグ(ひとりになって考える)

(恋って、ミスや恥ずかしさも含めて、

全部“ドラマの一部”になるんだ)

(昨日の私、ちょっと笑えたけど、でも、ちょっと可愛かった)


第48話「次に会う日まで、スカートは封印」


日曜日の午後。

今回は、美里の提案で「落ち着いた展示をやってる美術館」へ。

服装は、ロングスカートに白のハイネックニット。

露出ゼロ。上品で無難、どこから見ても“30歳らしい服”。

(前回はスカート短すぎて事故りかけたし……

 今日は“ちゃんとした大人の私”を見せる日)


館内での会話は、静かに続く。

「この作品、色がすごく独特ですね」

「うん、なんか……水彩と油彩の間みたいな感じ」

「……ですよね」

「……」

(あれ? 前より、会話に“間”が多い……?)


館内のカフェ。

ふたり並んで座るけど、なんとなく視線が合わない。

「今日は、雰囲気変わりましたね」

「え? そうかな」

「前より、ちょっと……落ち着いた感じというか」

「あー……うん。今日は、ちゃんとした格好しようって思って」

「……あ、いや、似合ってます。すごく」

(ん? それって“すごく”じゃないよね……?)


モノローグ(帰り道、ひとりになって)

(……テンション、下がってた?)

(なんか今日、ちょっと“よそよそしかった”ような)

(やっぱり……前回のあのスカートが、インパクト強すぎたのかな)

(……え、まさか私、“見せないと興味持たれない系”……?)


ノート(今日の気づき)

✅ 美術館:よかった

✅ 会話:やや少なめ

✅ 服装:清楚だけど、彼の反応は“無難寄り”

✅ モヤモヤ:前回との差が自分でも気になる

✅ 小さな不安:「私は、見た目だけで惹かれてたのかな」


翌日、亜紀とのLINE

美里:

昨日、ちょっと落ち着いた格好で行ったら、なんかテンション低めだったかも…

亜紀:

あるある。てか男ってさ、視覚生き物だから、前回が強すぎたのよ(笑)

美里:

やっぱそれか〜(泣)

亜紀:

でもさ、ここからが大事じゃない?

“見た目じゃなくて中身”って部分でつかまえるフェーズ突入でしょ

美里:

中身……中身ってなに!?(混乱)


モノローグ(夜、また一人になって)

(恋って、ドキドキと安心感のバランスなんだよね)

(次に会うときは――“私らしさ”を忘れずに行こう)

第49話「“好き”の正体は、目が追うこと」


夜、美里の部屋。

ベッドに寝転び、天井を見つめながら。

「なんか……昨日の彼、いつもより遠かったな」

「見た目? 服装? それとも私、つまんない話してた?」

「……ていうか、私さ。彼のこと、ずっと目で追ってたんだよね」


そして気づく。

「見てたのって……服でも、髪型でもなくて、

彼が笑ったときの目とか、飲み物飲むときの仕草とか」

「“好き”って、気づいたら視線が勝手にそっち向いてることなんだ」

その瞬間――

「ちゃんと彼を知りたい」って気持ちが、輪郭を持ちはじめる。


一方そのころ、彼の部屋。

本棚から、文庫本を1冊取り出してふと手が止まる。

ページの端に、美里が以前付けていた付箋が挟まっていた。

(……美里さん、今日ちょっと、遠かったな)

彼は考えていた。

前回のミニスカ美里のこと。笑顔と、風にあおられたあの瞬間。

そして、彼が気づかないふりをしたこと。


フラッシュバック

(※回想:あの日のスカート事件)

スカートがふわりとめくれた瞬間。

彼は一瞬、目に入った“太ももの肌”に動揺した。

でも――すぐに視線を外した。

気づかないフリをした。

なぜなら。

(もし動揺が伝わったら、彼女が恥ずかしくなるって思った)


現在に戻る。彼のモノローグ。

(でもそれ以来、意識しすぎて、

今日の彼女の“ちゃんとした格好”に……少し構えすぎたのかもしれない)

(服の問題じゃなくて、

きっと僕は、“気まずさ”を自分の中に抱えてただけだ)


ノート(ふたりのすれ違いの理由)

✅ 美里:前回と比べて、彼の反応が薄く感じた

✅ 彼:前回の“ドキッとした”自分に、動揺していた

✅ すれ違いの原因:互いに気遣ったことで、距離が生まれた

✅ 本当の気持ち:**「ちゃんと大切にしたい」**と思ってるのは、お互い


モノローグ(ふたりの夜、それぞれに)

美里

(見た目じゃない。私が惹かれてたのは、

あの人の“静かな優しさ”だった)

(また笑ってくれたらいいな。

ちゃんと、“目を見て話そう”って思える日が来たら)

第50話

「目を見て話すって、こんなに緊張するなんて」


土曜日の午後、

ふたりは約束していたカフェで待ち合わせた。

外は小雨。ガラス越しの街が、ぼんやりと霞んで見える。

「こんにちは」

「こんにちは、今日は……来てくれてありがとう」

席に着いてから、いつもよりも沈黙が多かった。

ふたりとも、言葉を選びすぎている。

(なに話せばいいんだろう)

(“久しぶり”って言うほど時間空いてないのに、

こんなに心がふわふわしてる)


彼が、ふっとコーヒーを置いて、顔を上げた。

「……あのとき、スカート……すごく似合ってました」

「……!?」

「ずっと言おうか迷ってて。でも、それ言ったら恥ずかしいかなって」

「……ううん、うれしい。私もあの日、すごく緊張してた」

「僕も、です」

ふたり、同時に笑った。

一瞬、視線が重なる。そして、すぐそらす。

(ちゃんと目を見たいのに、こわい)

(恋って、こんなに“目”が近いのか)


しばらくして、彼が小さな声で言った。

「僕、美里さんと話すとき、たぶん目が泳いでますよね」

「うん。私もそうかも。なんでだろうね」

「たぶん、ちゃんと好きになりかけてるから……かな」

「……え、それって」

「……まだ確信じゃないけど。だから、ちゃんと目を見て話そうって決めてきました」


モノローグ(心が跳ねる、その一言)

(ああ、やっぱり。

私たち、ちゃんと進んでる。怖いくらい、ちゃんと)


そのあとふたりは、

いつもより少しだけ長く視線を交わしながら話した。

趣味のこと、好きな映画のこと、

好きな匂い、苦手な食べ物。

どれも“恋バナ”じゃないけれど、

“あなたをもっと知りたい”って気持ちがこもっていた。


ノート(恋が動いた記録)

✅ 会話:少なめ→ゆっくり増えていく

✅ 視線:ぎこちない→でも、ちゃんと届いた

✅ 気づき:目が合うと、言葉よりも伝わるものがある

✅ 小さな確信:“私たち、今、始まりの途中にいる”


帰り道

駅までの歩道。

ふたりの手が、またそっと近づいて……

今度は、自然につながった。

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