第42話「“こんど、カフェでも行きませんか?”って、まさか彼から」
図書館を出たとき、
ふたりは並んで歩いていた。春風がやさしく吹く夕方。
「あの……もしよければ」
「はい?」
「今度、コーヒーでも。外で、ちゃんと話せたらなって」
「……!」
(来た。まさか、彼の方から。え、これって……)
「いいです、行きたいです、ぜひっ」
(声、大きかった。やばい。わたしの“本気”、まる見え)
そして迎えた当日。
美里の部屋では、静かなる戦いが始まっていた。
「服、どうする?」
「カフェって何系!? 北欧? ナチュラル? まさかチェーン店とかじゃないよね?」
「パンツじゃダメ。スカート……? いや、今日の下着、見せるわけじゃないけど、勝負下着だし!!」
鏡の前、美里は一度深呼吸した。
(いい。大人の余裕で、さりげなく)
(でも、ちゃんと“特別な日”に見せるんだ)
カフェの入り口で、彼が言った。
「今日は……雰囲気、少し違いますね」
「え、そうかな?(バレた!?)」
「春っぽい感じ。似合ってます」
「……ありがと」
店内は静かで、木のぬくもりのある空間。
カフェラテと、ベリーのタルト。
「こうやって外で会うの、初めてですね」
「うん、なんか、ちょっと不思議。図書館じゃないと、あなたの顔がちゃんと見える気がする」
「……それ、僕も思ってました」
モノローグ(勝負下着の出番は、まだ来ないけど)
(この人の隣にいると、
“素の私”でもいいって思える)
(でも今日の私は、“素プラスちょっと努力”だから)
(それに気づいてくれたのが、うれしい)
ノート(初デートのチェックポイント)
✅ 服装:ナチュラル系スカート+ちょっとだけ気合いのブラウス
✅ 下着:本人しか知らない“勝負下着”。でも、それが自信になってる
✅ 会話:自然体。でも、ちゃんと相手のまなざしが優しい
✅ 結論:「これは、ちゃんと恋です」
そして別れ際、彼が言った。
「……また、行きましょうか。今度は、夜のカフェとか」
「うん。行きたい」
「じゃあ、そのときは僕が“勝負コーデ”で行きますね」
「え、それ私のがバレてた!?!?」
ふたり、声を出して笑った。
第43話「恋を着て、夜カフェへ──こんなんじゃ勝負下着、いくつあっても足りない」
夜カフェの約束は、金曜日の19時。
午後3時の美里の部屋は、まるでセレクトショップの戦場。
クローゼット全開。ベッドの上に服の山。
「あぁ……もうこれ何回目?
こんなんじゃ、何枚勝負下着あっても足りないよ……!」
鏡の前、ふっと立ち止まる。
(でも今日は、ちょっと違う私でいたい)
引き出しの奥から、久しぶりに取り出したミニスカート。
まだ寒くないし、タイツでごまかせる季節でもない。
だからこそ――“覚悟の素足”。
「恥ずかしいけど……いい。今日は、これで行く」
夜カフェ。
照明は落ち着いていて、キャンドルがゆれている。
彼は、もう来ていた。
白いシャツにネイビーのカーディガン。
さりげない、でもちゃんと“おしゃれしてきた”感じ。
「こんばんは、美里さん」
「……こんばんは。待ちました?」
「いえ、僕もさっき来たところです。……あの、今日の服、すごく似合ってます」
「……ほんと? 見慣れないかもだけど」
「見慣れてないぶん、ちゃんと“ドキッとしました”」
席に着くと、いつもより近くに感じる。
ミニスカートのせいか、視線が気になる。
でも、それがイヤじゃない。
“女として見られてる”感じが、うれしい。
「今日は……なんか雰囲気違いますね」
「私もそう思ってた。昼のカフェとは、また違う」
「なんか、大人の世界って感じがしますね」
「ふふっ、そうね。……22歳にはちょっと早いかも?」
「じゃあ……“30歳の女性”に、エスコートしてもらおうかな」
モノローグ(甘い空気の中で)
(ああもう、なにこの空気。
今日の私は“30歳の女性”じゃなくて、
“この恋にドキドキしてる美里”でしかない)
(でもそれでいい。今日の私、ちゃんと“恋を着てきた”から)
ノート(夜カフェの結果報告)
✅ 勝負服:黒のミニスカ+ベージュのブラウス、ほんの少しの香水
✅ 彼の反応:照れつつ、ちゃんと“見てくれてる”
✅ 美里の気持ち:恥ずかしさ+嬉しさ+もう少し甘えてもいいかも
✅ 小さな結論:「今日の私、ちょっと好きかも」
帰り道。駅までの歩道。
ふたりの間に流れる空気が、
すこしあたたかくなった気がした。
「……また、こうして会ってもらえますか?」
「うん、わたしもまた会いたい。
今日、ミニスカート履いてよかった」
「……正直、内心めっちゃ見てました」
「うわ、それ言う!?(でも、うれしい……)」
第44話「下着は捨てた。次の私は、もっと大胆」
日曜の午後、洗濯物をたたんでいて、ふと。
「……なにこのレース、ほつれてるじゃん」
「え、ゴムも伸びてる……」
「うわ、タグも擦れて文字読めない。ていうか、私これいつから履いてたの?」
鏡を見て、ため息。
「――これで恋しようとしてた自分、正気?」
クローゼット前、下着ボックスをひっくり返す。
「さよなら、10年モノのレジェンドパンツたち……」
「ありがとう、おばあちゃんにもらった花柄のやつ……」
「あと勝負パンツ、まさかの3枚とも色褪せてた……地獄」
美里、決意のショッピングへ。
下着売り場の前で、いつものように躊躇……はしない。
「今日の私は、ちょっと違うのよ」
「“誰かに見せるため”じゃなくて、“自分のテンション上げるため”に選ぶ!」
選んだのは、
大人っぽくて、ちょっと冒険した赤のレース。
ヒップラインが綺麗に見えるカッティング。
そして――
次に手に取ったのは、“ミニスカ専用ペチパン”と書かれた商品。
「……これで、もっと短くても怖くない」
モノローグ(帰り道、美里はちょっと笑ってた)
(パンツが変わるだけで、
こんなに気持ちが“戦闘モード”になるなんて)
(ミニスカートって、
“誰かに見せる”ためじゃなくて、
“私が私に自信を持つ”ための武器だったんだ)
ノート(パンツ革命の記録)
✅ 捨てたもの:ズタボロの“過去の私”
✅ 買ったもの:勝負レース+見え対策ペチパン
✅ 美里の気づき:
→“誰かのために”から、“私が心地よいから”に変わったとき、恋の自信が芽生える
✅ 小さな宣言:「次のデート、もっとミニでいく」
第45話
「短めスカートと、長めの夜道――つないでほしい手がある」
夜、待ち合わせ場所の駅前。
ふたりは約束通りに会った。
今日は、美術館のナイトイベントの帰り道。
人混みが少しずつ減り、
帰宅ラッシュのざわめきが落ち着いてきたころ。
美里のファッションは、
この日のために選んだちょいミニのフレアスカート。
風にふわっと広がる素材。
(よし、今日は自分史上いちばん“大人ガーリー”)
(……あれ、待って)
(ペチパン……履いてない!?)
(……いや無理。これ風でめくれたら、恋が死ぬやつ)
彼は気づかず、いつも通り優しく微笑んだ。
「今日の展示、どうでした?」
「うん、すごく……よかった」
(ごまかせ。冷静にごまかせ私)
彼の手元には、カフェで買ったホットココアの紙カップが2つ。
ひとつ、そっと渡される。
「冷えませんか? 風、ちょっと強くて」
「あ、ありがとう……ってうわああ!!」
突風――スカートが一瞬、フワッ。
美里、必死に押さえる。
「だ、大丈夫!?!」
「うん、大丈夫!だいじょうぶじゃないけど!!」
(これ絶対、今の一瞬めくれた。
いや、見えてない!はず。彼の視線は……きてない!たぶん!)
彼が、少しだけ黙ったあと。
「……美里さん、ちょっと足冷えてますか?」
「えっ!? な、なんで?」
「なんか、ずっと気にしてるようだったので……」
彼の手が、そっと、美里の手の甲に触れる。
「もしよかったら……手、つなぎませんか?」
モノローグ(びっくりと、うれしさと、あとちょっとの恥ずかしさ)
(ああ……ついにきた)
(つないでって言いたかった手が、
ちゃんと伝わったんだ)
(スカート短いのも、ペチパン忘れたのも、
この手が全部、吹っ飛ばしてくれた)
ノート(ペチパン忘れ事件と、手つなぎの奇跡)
✅ 忘れたもの:ペチパン、冷静さ
✅ 得たもの:彼の手、安心感
✅ 気づいたこと:
→“守られたい”より、“隣にいてくれる”のがうれしい
→恋って、“ちゃんと見ててくれる人”とするもんなんだなって思った