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08. Get Your Wings - 翼を得たのなら、迷うことなく飛べ -

 朝起きるとバリバリに凍っているオフトンを引き剥がす音も、その辺の草をむしって入れたうっすいお味噌汁も、つづら折れにねじ曲がった上官の性根も。何もかもがウンザリでしたけど。私達は旅立ちます。


「今日から、最前線へ向かう部隊に復帰してもらぞー、子猫ちゃん共」


 タヌキ魔獣山賊がひゃっはー! した部隊の再構成が終わったそうです。ろくな説明もないまま、また異世界4WDで運搬されています。ピックアップトラックの荷台はフルオープンでガタガタ震えています。けつも痛い。


「おい、もっとくっつけ、死ぬぞ」

「死んでも蘇るけどにゃ」


 私は生き延びましたけど、謎の刑務作業みたいな事をやらされた施設に2ヶ月も軟禁されている間に、猫頭達は何度か朝目覚めませんでした。

 朝陽が枕元を照らし始めると、冷凍マグロを解凍するように、しゅわしゅわと湯気が立ち昇って復活しました。うん。確かに猫魔獣は何度死んでも蘇りますね。

 寝起きに死ぬと大変です。朝ご飯を抜かれてしまうので。更に弱体化します。デス・スパイラルです。


「戦場で死ぬと大変にゃ」


 猫魔獣の復活は、数秒から数時間。損傷具合で変化しますが、いずれにしてもその場で復活するのです。戦場で死んじゃうと、ドログチャのまま鹵獲されてしまう危険性が。敵と味方で半分づつ回収した場合どうなるのん?

 脳まで粉々になっても蘇るそうですけど。本当なんでしょうか? システムエンジニアたるもの一次ソースを確認するまでは事実として同定してはなりません。しかし、この場合の一次ソースとは? RFC規定でもあるんですかね? 死んでみるしか無いのでしょうねぇ。


 しかし、くっさい。

 もう2ヶ月もお風呂に入ってません。猫魔獣は猫ではありませんから、自前で毛づくろいってワケにはいかんのですがー?


「いってー! さすがに乳首はいてえ」

「わがままだにゃ。上げ底のお弁当にゃ」


 試しに猫頭にペロって貰いましたけど、舌がザラザラで痛かったです。乙女の粘膜がピンチでした。まあ、放っておけば治るんですけど。たとえ、乳首がもげちゃっても、鼻の穴がひとつになっちゃっても。


「治癒魔法いらずじゃない?」

「そんな事ないにゃ。治癒魔法が使えたら衛生兵にゃ」

「どのみち最前線行きは免れないのでは?」


 最前線まで移動するのに、一ヶ月もかかりました。途中でスコールがあったり、深さ3千メートルの谷があったり。ここ完全に国家間の緩衝地帯じゃないの? 敵国もこんなとこ越えて軍事侵攻しないでしょ。 なんでわざわざ、山を越え谷を越えて、敵国の領土までやって来たのか。


 軍の上層部がアンポンタンなんでしょうね。

 ネットワーク資格の上級であるCCIEを所持してるくせに、実務は何も出来ない連中と同じです。なんで、100メートル以上離れたラックにLANケーブルが届くと思うのか?

 もっとも、CCIEなんて解答集を闇で売ってますけどね。実技試験はどうやっておるのか? 謎ですね。某ベンダーは、新卒採用の新人が半年で、ほぼ全員CCIEホルダーです。うさんくせえ。


 はてー、そんなアンポンタウンから、はるばる敵対国の国境までやって来たわけですがー。


「魔法少女なら、マジックバリアで拠点を防衛してくれよ!」


 やっと、今ここですよ。


 異世界に居るもう一人の私も日記をWeb小説として公開してますけどね。あいつは「今回も3ヶ月だったね」の、たった一言しかここまでの顛末を記録していません。どんだけ脳が小さいんだアイツは。6歳幼女のニンゲンだから仕方無いかにゃー。

 そろそろ、アイツと私が分岐して別人になる頃ですかね。これは、過去の業務日報を小説風味にリライトしているので、私は既にこの先の展開を知っているわけですが、知らない体で進めます。


 マジックバリアが何なのか知らんけど、お前のヘルメット寄越せよ。私は、戦術核相当の最終兵器なんだぞ? もっと大事に運用しろ。あ、なんで樫の木で私を、やめんか! 死んだらどうする。戦地で死んだら敵に鹵獲されるかも知れないでしょ! 大将クラスになっても、こんだけバカだから、この戦場も圧されてるんですよ。むしろ上に行くほどバカしか居ない。どこでも同じ。


 いってー。頭骨が少し割れたぞ?


 だがしかし。

 阿鼻叫喚の地獄絵図の中に身を置いてさえ、私の魔法は覚醒する気配すらありません。魔法の使えない魔法少女って何? それこそネットワーク知識の無いCCIEホルダーと同じじゃないですかぁ。いやーん、はずかしー。

 新しいスキルは現場で追い立てられてから付け焼き刃で習得するのがIT奴隷派遣の宿命だというのに。その異能が、まだ発揮されません。


 とりあえずアレだ。さっき、頭が吹き飛んだ猫耳少女の魔道具らしきホウキを奪っておきましょう。私には、この手の備品がまだ支給されてないので、現地調達です。


 新しい派遣先で「PCはその辺の使え」と言われた事があります。その辺のって。ムカついたので、翌朝まだ誰も居ない時間に出社して、そいつのPCを奪ってやりました。備品管理をしていない雑な職場だったので、「それは俺のだ」と言い張る根拠も無く、諦めてましたね。因果応報じゃボケカス。


 そういう事です。このホウキも在庫管理なんかされてませんし。もう私のモノ。名前が彫ってありすけど、さっき死んだ猫耳のとは多分別です。元々、パクリ品じゃん。名前が彫ってる部分は、ボキッと折って炎魔法の嵐の中に放り込んでおきました。

 炭素結晶よりも硬い魔導素材らしいんですけど、猫耳魔獣は怪力ですからね。ポッキーよりも簡単に折れました。


 ふむん? もしかして私は今MP満タンですか? 今まで魔法が使えなかったのは、粗食が過ぎてMPが足りなかったのかも。今朝は戦闘開始だっていうので、お肉をモグーっと食べる事が出来ましたからね。お味噌汁だって、ちゃんとお豆腐とワカメとお揚げが入ってましたし、おかわりも自由でした。

 まあ、最後の餌だぞ、って事なんでしょうけど。


 ようし、おいどんは、おいどんのメタルハートの信じるもののために、空を翔けるぜ。


「私はトップニャン! 私が魔法だ!」


 初めて飛ばすドローンって、スグ墜落するじゃないですか? 飛行物体は飛ばすよりも、着陸がムズカシイんですよ。ゲームでもそうでしょ? 離陸するのは簡単なのにね。そういう事です。


 私は、戦死。屍を越えて逝くがいい。

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