07. Keep Yourself Alive - 決して手離してはいけない何か -
狂ったソルジャーから何度逃げ出しても無駄なようです。奴隷の呪いにでもかかっているのでしょうか? 多重派遣かと思っていたら、おいどんは多重転売の奴隷でした。どれだけ戦果を挙げても、一円足りとも懐には入ってきません。
でも、将校になれば、将校メシが食えます! 仕方ない。逃げてもダメなら、突っ切ってしまおう。戦果を上げて少尉以上を目指します! できるなら少佐、ニャア少佐です。いずれは大佐も目指します。
「やっぱ、おいどんはなくない?」
「好きにするにゃ」
私は猫耳魔獣少女ですけど、語尾にニャを付ける言語機能がありませんので、ちゃんと区別つくでしょ。この業務日報で、「私」と「おいどん」が混在してまったので、やめます。たまに出るかも知れないけど。
この日報がレビュー対象だった場合、真っ先に鬼のクビでもとったかのように「この、おいどんと私は同一人物なんですかー? 統一してくださーい」とか言われちゃいます。暇だなあ。
そんなことより、1000台のスイッチングハブの16個ある全てのポートに、PC繋いでPing1000発打つって手順に誰か突っ込めよ! 8時間で終わるワケないじゃん。
Ping1000発が一発も欠けないはずもないでしょ? どんなミラクルマジカルなPCなんですかね? スイッチングハブ同士だって1000発も打ったら、1発は欠けるわ。安物ポンコッツなんだから。
「Pingってなんにゃ?」
「あー、それは」
「おい! そこの! 私語が多いぞ!」
うるせえなあ。Pingの原理で、魔法の極意が把握できるかも知れないのに。だったら、お前がちゃんと魔法を教えてくれよ。
「ああ? うるせえなあ。いちいち俺に聞くな」
「見ても分からんヤツは、言っても分からんだろ。雑魚が」
奴隷転売の次は、今度こそ二重派遣ですよ。謎道具の製作をしているのですが、指揮命令者が正規の軍人ではありません。こいつらは、どこかの業務委託です。正規の軍人、つまり正社員以外が派遣に指示を出すのは、二重派遣で違法です。派遣先とは別の会社で働いているのと同義ですからね。
「隊長、じゃないや。お前は、奴隷にゃ。派遣じゃないにゃ」
「そうじゃったわ。ぶひぃ」
猫頭達は、序列に厳しいようですね。猫ってそんなだっけな。昔、庭に10匹くらい猫が住み着いてたので観察してましたけど。みんな対等に見えたけどなあ。でも、一番高い所で寝ているのがボスだとか言いますね。
原隊復帰した事で、私は再び階級も無い下っ端です。猫頭達と同じ。私達は兵士ではなく兵器なので。兵器に雑務さすなよ。
「さっきから作らされてる、この道具なんなの?」
「さあ? ニンゲンのやることなんか分からんにゃ」
もしかしたら、これは仕事ではなく、拷問か洗脳なのかも知れない。コップのようなものを、箱から出して、ひっくり返して、折り曲げて、ほにゃほにゃとして、また箱に戻す。
こういう時は、心を無にして「アタイはロボ。血も涙もないクロガネの城」と思い込むしかありませんね。スクリプト使って自動化しろよって作業を延々やらされているのに近い。
この施設にいる間は、命を繋ぐのにギリギリのご飯は出てきます。水質不明な井戸水なら飲み放題。お風呂には入れません。いつまでも居るような所ではありませんねー。
「よーし、子猫ちゃん共。今日は魔法の新製品の講義だぞー」
新製品?
「特別に、軍の予算で受けさせてやる。兵器のパワーアップだ」
魔法って講義を受ければ習得できますのん!?
「うわー、ケモノくさー。なんすか、この教室」
「うるさい、銃殺すんぞ。さっさとやれ、研究者風情が人並みの口をきくな」
この国はもうダメかも分からん。軍によるパワハラが横行しています。1個中隊が、10頭程度のタヌキ魔獣の山賊に、あっさり負けよるし。タヌキ魔獣と猫魔獣で連合組んで反乱を起こしてやりましょうか? たぬぽん語が分からんけど。
「えー、ここでー、従来製品のクエリーですと、カラム指定に2進数を使っていたワケですがー、一時メモリに展開することによってー、エイリアスによる検索をー」
何言っているか分かるけど分からんちん。データベースの新製品ですか? 従来製品って何? 知らんがな。仕事した事になるからって受けに行った商品説明会を思い出しますね。レポート書けって言われなくて良かったよ。
「ここで仮想モジュールが、サブルーチンで、サブセットを定義するのです。ここは、術者の皆さんの自由です。勝手に作っとけ」
なんか、だんだんいい加減になってきた。この講師もタヌキ魔獣です。タヌキも知能が高いようです。なんでニンゲン如きに使役されているのか。このタヌポンはニンゲンと同じ言葉も喋りますね。
「以上です。質疑応答に入りますよ」
こういう時は、何か質問をしておくのが大事です。「あ、アイツやるな?」と思わせるためです。「アイツ分かってねえ」と思われるかも知れないけど。
「先生は魔法使えるんデスか?」
「開発者が使えるとは限りませんよ。 私、営業ですし」
「ちっ、使えねえ」
こいつが魔法タヌキなら、こいつを扇動して脱走してやろうかと思ったのに。
魔法の新製品とやらは習得できませんでした。猫頭達は習得出来たようですけど。