06. Crazy Doctor - 呪われた監獄から今すぐに逃げ出せ -
前線へ向かう途中、タヌキ魔獣の山賊に襲われました。この国の治安は最低ですね。敵国の潜入工作員が、おいどん達猫魔獣を鹵獲するのなんか簡単なんじゃないですかね?
「ちょっと、魔法で応戦しないと! おいどん達もヤラれちゃうん」
「残念だにゃ。MPが0にゃ」
「またかー!?」
こいつら燃費悪過ぎませんか?
猫魔獣はご飯を食べるとMPが回復します。逆に言えば、空腹状態が続いているとMPはゼロです。魔法が使えません。これが、猫魔獣という兵器の安全装置になるのです。
なるほど、最初に私達を運んでいたニンゲンが無謀にも単独だったのは、こういう仕組みだったのですよ。スコップが眉間にお刺さる想定は無かったようですけど。
「心配するにゃ。私達だけは死んでも蘇る」
「お前にも魂が9つあるはずにゃ」
「少ないなあ」
魂が9つ? さすがにスナック感覚では死ねませんけど? ああ、でも使い切れば異世界転生して、次の派遣先に行けちゃうのか。それまでには、なんとしてでも魔法を習得したいですね。マジカルゴールドかプロフェッショナルくらいは習得したい。そんな資格があるのか知らんけど。
「9つじゃあ、迂闊に死ねんだろう?」
「9つ目の魂を使うと、次は16個に増えるにゃ」
「ポケットの中のビスケットですかね?」
「そうにゃ。その次は32個だにゃ」
6回消化仕切ったら256個なんですかね?もしかして最大で4,294,967,2964(約42億)とか?IPv4かよ。
「どこまで増えるの?」
「2進数で128桁、16進数で32桁までにゃ」
「v6かよ」
「何の話にゃ」
私は、猫頭達にIPアドレスについて説明した。
「ニンゲンの数はそんなに無いにゃ? 何に使うんにゃ」
「ニンゲンに付ける数字じゃないんよ。道具のひとつひとつに付けるんよ」
「なるほどにゃ? 魔法の構成管理に近いにゃ?」
「その話詳しく!」
詳しく聞いてる暇は、ありませんでした。ニンゲン共も、さすがは軍隊なので、山賊相手に善戦はしてましたけど。相手は魔獣です。ついに、後続のトラックは、運転手と護衛がヤラれちゃいました。
「おい! チャンスだ!」
「はいにゃ、隊長」
猫魔獣は知能が高いので、今この瞬間に私が再び隊長に昇格した事を即座に理解しました。
「ひゃっはー!タヌキ魔獣は消毒だー!」
ありがたい事に、トラックの操作系統は私が知っているものと左右反転しているだけでした。急停止のつもりが急加速して、トラックを取り囲んで制圧中のタヌキ魔獣を、ごっそり轢き潰しました。ニンゲンも、ちょっと混ざってましたね。
「しにゃー!」「ほんぎゃああ!」
猫頭達も、撃たれたニンゲンからサブマシンガンを奪い取って乱射しています。高い知能を活かして、敵の動きを予測し、サブマシンガンの連射モードにも関わらず、一体あたり2~3発の弾丸で次々とタヌキ魔獣を仕留めていきます。
まだ、こいつらが魔法を使ってるところ見たことないんですけど、十分過ぎる程強い。昨日砂漠に埋めた大佐なんて、素手でやっちゃってましたし。
「ここどこじゃろ。おいどん迷ったばい」
「そもそも起点が何処かも把握してないにゃ」
この世界のテクノロジーではカーナビゲーションシステムはまだ存在しないのでしょうか? 地図とコンパスだけでは現在地は割り出せません。なにしろ、荒野の只中、道なき道を走破して来たので。
トラックの走破性能は軍用だけあって、ラリーレイド専用車の如く、とても高いのですが。いつかはバッテリーが切れそうです。おいどん達が奪ったトラックは、ディーゼルではなくEVでした。三菱電機製かしら? 全輪駆動の優秀さは三菱自動車なのかも。そんなワケないね。ランサーもパジェロも乗った事無いので知らんし。ただ言ってみただけです。
「あんたらの魔法で充電出来ないの?」
「できるにゃ」
「MPもチャージ中にゃ」
私達はさっき轢き潰した時に、偶然荷台に載っかったタヌキ魔獣を丸焼きにして食べています。
「さすがにニンゲンは食わんか」
「あれはゴミクズだからにゃ。お腹壊すにゃ」
「食べた事あるのかー」
「ないにゃ」
私にもまだ、ギリギリの情緒は残っているようですね。倫理感は既に粉々になってますけど。世界が変われば、派遣先が変わる以上に、倫理感や常識が異なるのです。そんなものは真っ先に捨てないと、お腹は膨れません。
「したら、そろそろ移動開始しないとなあ。日が暮れても車中泊はいけそうだけど」
「この辺は、深夜になるとドラゴンが出るにゃ」
「まさか、車を襲ってナニでアレを!?」
「そのまさかにゃ」
おいどん達は、急いで進む。どこへ続くのか分からない道を。そして、やはり。
「原隊復帰ごくろう」
「ぶひぃ」
またしても、軍の施設に辿り着いてしまいました。