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05. Road To Nowhere - この道は、どこへも辿り着かない -

 私が、なんちゃって大佐であることは、翌朝にはバレました。

 正規の配属兵が到着したからです。


「お刺さっただけです。私は何もしてません」


 そう言い切って、なんとか逃れました。「お刺さった」とは「妖精さんの仕業デス」という北海道弁固有の言い訳です。どうやら、この世界には妖精さんが実在するらしく、納得してくれました。

 正しくは「押ささった」ですけどね。将校の眉間にスコップの尖ったとこが刺さったので。

 

 この様に、口先で乗り切る折衝術こそが、システムエンジニアに求められるコミュニケーション能力です。ほぼ異能。今の私は、軍人ですけどね。いや、猫耳魔法少女という兵器でしたかね。


「3ヶ月以内に、聖国の前線基地まで進軍し、それを落とすぞ」


 またしても朝ご飯抜きで、朝礼開始です。猫耳魔法少女は一撃必殺のリーサル・ウェポンなのでは? もっと大事に運用して頂きたいのだが。今回は、上官を埋めるのは難しそうです。魔法少女は、猫耳の私と、猫頭の2頭だけ。対して、階級を持ったニンゲン共は16人くらい居ます。3頭でピンボールのハイスコアを競い合うように、スコップで頭骨を割って回っている間に、射殺されちゃいます。ああ、この支配からの卒業。


「敵は聖国だったにゃ」

「知っているのか? ホッケちゃん」

「私達の祖国にゃ」


 なんと、祖国相手に異国で派遣軍人です。彼女達は立身出世の物語を夢見て「サバの骨すら一本も無い」という極貧の村から貨物列車に乗って出て来たそうですが、その物語は修羅の道ですね。貨物列車の時点で修羅です。自らを家畜だと申請して積んで貰ったのだとか。

 夜行列車に乗って「映画館くらいはある」地方都市から上京した私なんて、彼女達に比べれば貴族ですね。もっともそれは、遠い異世界日本での過去ですけど。


「ところで。しつこいようだけど、どっちか目印つけてくんない?」

「頭骨を割るのはダメにゃ。オマケのラムネにも魂はあるにゃ」

「アジの方は、一人称を僕に変更するのはどうだろうか?」

「分かったにゃ。今日から私は僕にゃ」

「私はそのままかにゃ? おまえと被るにゃ。おいどんでいいかにゃ?」

「おいどん? せっかくのミラクルラブリーが勿体ない」

「貴族の一人称にゃんだが? だったら、おまえが変えるといいにゃ」

「分かった、私は今からおいどんだ」


 おいどんとか書いてますけど、あくまでも異世界の言語です。この業務日報の誤訳かも知れませんね。

 今日は昨日と違って、薄曇りでちょっと肌寒いくらいです。フルオープンですが、馬車でもありません。トラックです。内燃機関で駆動する鋼鉄の塊。こんなもんあったんか。


「この荷台って鉄? もしかしてアルミかステンレスって事は」

「このオートモービルはアダマンタイト製にゃ」

「そうにゃ、サスペンションはオリハルコンにゃ」

「まさか、点火プラグはミスリル?」

「ディーゼルだから、点火プラグは無いにゃ」


 なんと。この世界では魔導素材が潤沢に存在するようです。他の世界だと希少なので高価ですよ。こいつは、異世界間貿易で大儲けですよ。異世界に自由自在に出張可能なスキルが存在しませんけど。

 何製でもいいですけど、硬いのでけつが痛いですね。目的地はまだなんですかね? 移動時間の目安とか説明して欲しい。上官が無能な証拠ですよ。朝礼で小咄を持ち回りでやっている暇があったら、今日の予定くらい説明しろよなー。並び順からいって、明日は私の番なんですけど。


「そもそも何処へ行ってんだかなー、何すんのかも聞いてねえ」

「私語が多いと射殺されるにゃ。打鍵音がうるさいタナカにゃ」

「おいどん達猫魔獣は死んでも蘇るからと言って、スナック感覚で撃たないで欲しいわね」


 猫達は日々新しい慣用句を生成するようです。打鍵音の話は、昨夜私が話して聞かせたSEタコ部屋の小咄が出展ですね。もしかして魔法の呪文を生成する訓練を兼ねているんでしょうか。ちょっと真似してみましょう。


「おしりのあなが2つある感じだよねー」

「お前は一体何を言ってるんにゃ」

「ぶひぃ」


 失敗です。周囲の口調を、いい加減に模倣してしまうと、新しい派遣先で孤立します。やってはイケマセン。メールのお作法もそうです。宛名をカッコで囲うとか、何にでも殿をつけるとか。宛先各位殿って何やねん。ツッコミ待ちか? あ、明日の朝礼の小咄は、「メールの宛先の順番を間違うと怒られる」にしようか。くっそ、下らねえ。それよりもBCCとCCの区別をちゃんと付けろよ老害。


 こういったシステムエンジニア小咄が、剣と魔法と奴隷の世界で、役立つワケもなし。私は、翌朝の朝礼には参加出来ませんでした。

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