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04. Crash and Burn - やってしまった。私はひどく傷つき損なわれてしまった -

「なあ、おい。魔法で塹壕掘れよお前ら」

「そんな無茶にゃ」

「爆裂魔法で吹き飛ばすとかさあ」

「それなら、出来るけどにゃあ」

「お腹が減って、MPが0にゃ」


 ほほん? この世界にもMPって概念があるの? それとも冗句かな? いずれにしても、カラダの何処かに残量メーターがあったり、ステータス画面が開いたりはしません。魔法を習得すれば開けるのだろうか?


「さっきからエラそうにしてんのが居るだろ?」

「軍の将校にゃ」


 さすがに、猫頭魔獣の不思議な会話を、全部翻訳して記録するのは諦めました。今も「裏返しに焼いたウナギ」とか言ってました。どういう意味なんよ?


 IT現場に入ったら、まずやる事は序列の躾です。特に、炎上案件をいきなり巻き取れとか言われちゃった場合。設計書とか読む前にまず、ステークスホルダーを、シメる。これです。私に逆らったら、このプロジェクトは炎上したまま黒焦げになんぞ、と。でも、分かるな? 私に任せれば、な? と。納品して終わらせるとは一言も言ってない。ソレは、顧客の態度次第カナ?


「アイツだけはメシ食ってんだろ? それにアイツはニンゲンだ」

「そうだにゃ?」

「な? 後は分かるな?」

「え?」

「いいから、バックアップしろ」

「あ、はい」


 さすがに、ITの現場は、ここまで暴力的ではありませんよ? ただし、まず実力を見せつけて「こいつについて行こかな」と思わせる事が肝要です。それは、動かない他部署を正論で論破して泣かせるとか、べらべらと小理屈こねてうるさい顧客を、高度な技術論で叩き伏せるとか。やりようは様々です。概ね「正論」は火に油ですけどね。


 ずんずんっと、無造作にヤクザヅラの将校に近づいて行きます。


「あ、なんだ? メシなら日が暮れたらやるから、早く … あ な…」

「ヤれー! とどめさしちまえー!」

「うにゃあああ!」「ほにゃあああ!」


「ニンゲンは蘇らないよね?」

「当然にゃ。ニンゲンはゴミカスだからにゃ。神聖なる復活の権利は猫魔獣族にしかないにゃ」

「それを兵器としていいように使われててどうすんだ?」

「まったくだにゃ。隊長の言う通りにゃ」


 前線で指揮官が戦死したらどうするか? おかわりが指揮官を務めるだけです。今この部隊では、私が隊長です。部隊と言っても、猫耳少女の私と、猫頭が2頭だけですけど。


「ねえ? このヌッコ部隊おかしくない?」

「そんなことないにゃ?」

「猫魔獣は、1頭でも戦術核に匹敵するにゃ。3頭も居たら過剰戦力だにゃ」


 戦術核という単語は使ってませんでしたが、猫魔獣はリーサルウェポンだって事です。最終兵器ヌッコなのです。

 ニンゲンの将校から奪ったメシを、もっしゃもっしゃと食べつつ、オープンカーな馬車で砂漠を爆走中です。日が暮れるまでに、今朝まで居た基地には戻りたい。出来れば、民間の施設を制圧してヌッコ拠点にしたい。言われた通りに自分の墓穴掘ってる場合じゃないんですよ。


「その過剰戦力をニンゲン一匹で従えられると思ってんのか? この国の軍は」

「あほだにゃ。所詮はニンゲンにゃ。戦争にも、きっと負けるんだにゃ」

「ニンゲンは匹じゃないと思うにゃ? だって尻尾ないにゃ」

「みたいなもんはあるでしょ? 後ろじゃなくて前に」

「ああ、隊長はおいなりさんだにゃあ」

「まったくもって、ホッケの開きにゃ」


 また何か意味不明な慣用句を言ってる。文脈からして「どすけべいさん」って意味なんでしょうね?


「ああ、日が暮れたのに、迷った」

「やっぱり、アジの天日干しかにゃ?」


 アジでもホッケでもいいから、お腹いっぱい食べたいですよ。お風呂にも入りたい。


「仕方ないなあ。あそこの建物、軍の施設っぽいけど」


 相手の戦力次第で、帰投するか制圧するか考えよう。


「いいかな? 私が、あざます! って言ったら帰投する」

「にゃ」

「ひゃっはー! って言ったらキレイドコロ以外は皆殺しだ。いいね?」

「あのー、隊長は、おちんちんはあるのとないのはどっちがー?」

「無い方を食べる。そして、私も無い」

「私達、食べ物じゃないにゃー」

「大丈夫、そういう慣用句だ。飼い殺しにしてやるから、この国を脱出するまでついてこい」

「分かったにゃ。毒も皿もうんこにするにゃ」

「抱合せのガンプラもちゃんと組むにゃ」


 うん。今の慣用句は何となく理解できたよ。ほいじゃー、行くよ!


「まいど!」

「なんだおまえら? 新しい配属か? 情報と違うな?」

「いつものことでしょ? 正しい情報が降りて来た事があって?」

「確かに無いですね。ご飯とお風呂、どっち先にします?」

「あざます! まず風呂だ! あとお前、背中流せや」

「え? あ、はい。僻地の最前線は風紀が乱れてますねえ」


 制圧するまでも無かったよ。砂漠に埋めて来た将校の階級章を奪って来たんですけど。ソレが私のモノだと信じ込んじゃってます。目の間のニンゲン女将校は、少尉ですかね? こっちは、なんちゃってだけど、大佐なんで、階級章に気付いたら、ぎょっとして、急に態度が変わりましたんよ。ははっ、ワロす。


「はあ、うっぼわああ。いいお湯だねえ、風呂は魂の丸洗いだよ」

「隊長はスゴイですにゃ」

「じゃって、猫魔獣は優秀なんでしょ? 戦地で功績上げれば佐官なんてスグでしょ」

「スグではにゃいが。それを夢見て田舎から出て来たにゃ」

「そうにゃ。夢はでっかく、ビールの海で溺死にゃ」

「そんなビールあるなら、入りたいなあ」


 ニンゲン少尉は、今食事の支度をしています。なので、風呂には連れ込んでません。だいたい、猫耳少女が、メスのニンゲン相手に何をするって、何もないわ。こっちのモフモフ魔獣をモフった方がいいよ。


 新しい派遣先が、大炎上中だった場合。さっさと撤退するか、一気に突き進むか。選択肢は、後者しか実はありません。最低でも3ヶ月は逃げられませんし、その間に延焼に巻き込まれて死にます。様子を見るのが3ヶ月か半年まで、その先は勝負するしかありません。一気にアタマをとるのです。プロジェクトのリーダーになるという、もっとも修羅の道を行くのが正解。

 どうせいつか討ち死にするのならば、せめて敵のクビを道連れにしないとね。短期間で逃走しても、次はもっとヒドイ現場かも知れないし、圧迫面接で「ここには3ヶ月しか在籍されてませんけどー、なんでこんなに短いんですかー」って詰められます。派遣の面接するのは違法だっつってるだろ!

 そこで「は? クソ現場だったんで逃げたんですけど?」なんて事実言ってもマイナスにしかなりませんけどね。一度だけ「どんな職場がイヤですか?」って聞かれた時に、「上司がバカな職場でーす!」って言ったら、すっげえ顔しかめられた。面接始まる前から「やべえ職場だ」って悟ってたんで、どうでも良かった。派遣元も普段使ってないとこだったしね。


 さあ、この業火の果にあるのは、栄光か絶望か? 私の運命やいかに。

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