22. Some Girls - 魔女たち -
真っ赤に染まる空。まるで、どっかの愚か者が火炎を吐いたかの様。
はい、その愚か者は私です。ぶひぃ。
空は、グルグルと渦巻き、やがて虹色に輝き出した。
「隊長の転移魔法は派手だにゃあ」
異世界へ通じるゲートを開いたはずですがー。なんて禍々しいゲートなんでしょう。
「これ、通っていいと思う?」
「ダメな気がするにゃ」
スクリプトに追加したガチャ機能に問題があったのか、「あずき」とか唱えたせいなのか。地獄へでも続いていそうなゲートが開いちゃいました。前回のバスクリンの渦なら、じゃぼんと入ったのだけど。
「転移魔法は難しいんだね」
「出来るのは隊長だけにゃ」
地球が爆ぜたのかな? っていう衝撃を感じた直後、禍々しい虹色の渦は、消えました。地球は爆ぜてはいませんし、周りのニンゲン共も異変を感じた様子が一切ありませんけど。
「あの猫ニンゲンすげえな。まるで本物だぞ」
「猫か? 青ダヌキじゃないの?」
ところで、今はいつなんでしょうか? ハロウィンの仮装したニンゲンがうじゃうじゃ居るので、10月のようですけど。私達も猫耳と猫頭をつけた仮装だと思われてます。
ここが川崎市のJR川崎駅周辺なのは確かですよ。チネチッタに居ますので。さいか屋がもう無くハロウィンイベントをまだやっている。2015年から2020年の間です。私が異世界へ転生した2018年と一致していますよ?
「この世界、もしかしたら過去の私が居るかも」
「だったら死んでるんじゃにゃいの?」
「今の魔法振動は、おいなりさんには衝撃のはずにゃ」
「そんな気がする」
さっきの禍々しい虹色の空には見覚えがあります。魔法振動とおいなりさんが何なのかは不明ですけど。私を異世界へ飛ばしちゃったのは私自身って事ですかね?
私があの空を見たのは、出社途中の都内だった記憶がありますが、家で飲んだくれて寝ているような気がします。だって、今日は休日なので。休みの日に、出社している夢にうなされる。当時は、よくあった事です。「ああ! 手順書に書いたコマンドが間違っている! 作業を全部止めなきゃ!」などと、深夜に起きた事もありましたっけ?
さてー、この世界の私がどうなっていたのかと言うとー。
「これは抜け殻だにゃあ」
「小豆の無い枕だにゃ」
死んじゃってますね? この私。安アパートの一室で孤独死です。誰が片付けるんでしょうか? この部屋。
「よし。一旦、無かった事にしよう」
合体魔法を行使します。本人同士なので、きっとうまく行くはず。
「う、うぉおおお、うぉえええええ」
拒否反応も無く私の死体と合体出来ました。とりあえず、コレで孤独死は回避しましたよ。いっそ殺せーな状態だった気もしますけど。
どんだけ飲んだんでしょうか、この私は。二日酔いどころか、まだ泥酔していますよ。我ながら、どうしようもないクズですね。魔法で肝臓をフル加速して血中のアルコールを高速分解します。
「こりゃ、いかん。ちょっとスーパー銭湯にでも行こうか」
温泉で魂の丸洗いをしないと。このカラダはボロボロです。さっきの魔法振動とやらがなくても、先は長く無かったでしょう。スーパー銭湯に行く前に、猫頭達も、この世界のニンゲンに変えてしまいましょう。いくらハロウィンとはいえ、そこら中で仮装しているワケではない。
「隊長、私達をニンゲンにするとは、どういう事にゃ?」
「にゃんで、肉体改変魔法まで使えるにゃ? こいつおかしいにゃ」
「さっきの合体といい、こんな禁断の魔法を使うと大変だにゃ?」
「この世界の魔力が枯れ果てるにゃ」
なんか物騒な事言ってますね? やってはイケナイ事を、思いつきでサラっとやっちゃったみたい。
「世界の魔力が枯れ果てると、どうなるの?」
「パカッと割れるにゃ」
何が? とは聞く気にもなりません。何であれ割れていいものでは無さそう。
「どうすればいいのかな?」
「スグに他の世界へ逃げるべきだにゃー」
それをやると、この世界の私は行方不明者という事に。日本の年間の行方不明者は10万人も居るそうですから、その10万分の1になるわけです。大した問題ではありませんよね? 孤独死と変わらんでしょ。でも、頃合いを見て戻って来ましょうか。
猫頭達は、ニンゲンの体になったのに、まだニャーニャー言ってますね。肉体ではなく魂の問題なのでしょうか? それは今どうでもいいですかね。
「多分、転移出来るのは1回きりだにゃ。それだけ魔力が足りなくなってるにゃ」
「なるほど。だったら魔力が濃い世界に行くべきなんだろうね」
という事は、もうひとりのニャアが居る世界ですね。あの世界では、魔力の事をマナとかカナとか呼んでいるようですけど。大気中に大量の魔力源があります。あれ? こんな事ならさっきあの世界からホッケとアジを呼ぶのではなく、私が行けば良かったのでは?
ううん? 私は、わざわざ地球の私を殺しに来たのでしょうか?
とにかく、あの世界へ転移しましょう。
すっとんころりん。
あっさり転移出来ました。行きやすい世界と、そうではない世界があるということかも知れませんね。
「じゃあ早速ですがー、働いてもらいますよ。ドラゴンを捕獲しに行きますよ。あ!そうだ。この前のコロコロコミック創刊号持って来た?」
「あー、あれニャー。中身は1979年6月号だったニャ」
「ほうー、それはそれで貴重ですねえ」
コロコロコミック創刊号って何? どうやら時系列に乱れが生じているようです。異世界間は時刻同期なんかしてませんからね。日本から異世界転生して30年くらいは経過していたはずなのに、さっき行った日本も私が異世界へ行く直前だったりしましたからね。
この世界に居るニャアに会ったら、私の知らない過去について話しています。でも、会話した瞬間に私にとっての未来の記憶が同期されました。ふむう、もう一人の自分が居る世界へ行くと、こういう事が起きるんですね?
猫頭達は、この世界に来た瞬間に元の猫頭に戻りました。さっきかけた魔法は、「ニンゲンになーれ」ではなく、「この世界に居て違和感のない姿になーれ」だったのです。さっきだって、ニンゲンではなく猫になる可能性がありました。かけ離れた姿にはならない様にスクリプトを組んだので、鳥や虫にはなりません。多分。
私自身は、猫頭になってしまいました。どうやらコロコロがどうとかの件で、こいつの召喚魔法が失敗したようですね。その影響で、この世界の私は猫頭になったようです。転移魔法は危険ですね。
なお、こいつには、懲役が57億年を越えたので亡命して来た、と説明してあります。地球がパカッと割れそうなのでー、なんて言うとショックでしょうからね。いずれバレるとは思いますけど。
ドラゴンの捕獲とか言っているけど、この世界の魔力を吸収するために、付き合ってやりましょうか。
ろくでもないことになる予感ですけど。