16. Heaven On a Heartbeat - 楽しく愉快に大騒ぎ -
なんという事でしょう。私は、不死のカラダを手に入れてしまいました。悪魔のカラダを手に入れたぞ!
クビをスパンっと刎ねても死にません。一瞬で治癒魔法が自己修復します。無自覚のオート発動です。レベル255の治癒魔法プロセスがカーネルに組み込まれて常時稼働しているのです。
私は、マゾではありませんからね。自分の乳首を千切ったり、腸を引き摺り出して蝶々結び、いや腸々結びしたりしている内に、秘められたパワーが解放されたのです。鼻の穴をニッパでパチンっとひとつにしても、痛みを感じる前に治癒魔法が発動しているくらいです。
鼻とか尻とか、カラダのセンターライン上にある穴粘膜を刺激すると激痛が走る事は知ってました。過去に改造手術を受けた事があるので。鼻炎と痔です。それ故に、自己防御反応が強力にかつ迅速に反応したのでしょう。
永久歯を引っこ抜いても、即時にゅるんっと生えてきます。ああ、この機能を日本人だった頃の私に装備させたかった。いやまあ、それはもう過ぎた事ですね。前歯が3本くらい無くたって、案外普通に暮らせましたし、誰も気付きませんでした。
いや、気付いたのかも知れませんが「いいトシして喧嘩でもしたの?」などとは誰も言いませんでした。みんな、やさしいですね。仕事もリモートワークで、引き籠もりだったので、殆ど他人に会いませんでしたけど。
そうだなあ。あの頃の私に最も必要な機能は「酔っ払った時に余計な事をペラペラと喋らない」機能でしょうか。飲み会に参加しなければいいんですけどね。妙に飲み会大好きなシステムエンジニアが多いんですよねえ。アルハラなる呪文が広く流布されてからは、簡単に飲み会を断れる様になりましたけどね。
あ、急に思い出しムカつきデス。月給19万円しか無かった時代。やたら高い会費を徴収されて毎月の様に飲み会が開催されていたのに。派遣の私の送別会はやってくれませんでした! 送別会で渡すプレゼント代を含むからって散々高額な会費を徴収しておいて、どういう事デスか! 月給19万円で、時間外手当もなし、社会保険すらなしだったんですよ!
治癒魔法の習得をきっかけにして、私は魔法のリポジトリサーバとでも言うべき存在へのアクセス権を入手しました。必要な魔法があれば関連パッケージと共にダウンロードしてインストールする感じで、スグに使えます。
猫頭達によると、自分で新しい魔法を開発する事も可能になるのだとか。オリジナル魔法はアップロードして公開する事も出来ます。Git Hubみたいですね。魔法少女同士は、その様にして助け合っているのです。
ふふっ、これからはハードボイルドで、ヘビーデューティな生活を送りましょう。これだけの能力があれば、1万2千の刑期も残り越えてしまうでしょうね。
「は? 刑期の再延長ですか? 3億年?」
3億円とはキリがいいですね。地方財政資金の調達に資することを目的として発行される、アレの当選金ですかね? ああ、そういえば、アレの通販サイトの仕様変更で、アレがナニしてましたね。具体的に言っちゃうと、私の身柄が特定されちゃいます。私は悪くない、お刺さっただけなんです。
いや、実は自慢じゃないですけど、いえ自慢ですけど。私、リカバリー不可能な失敗はした事無いんですよ。他人が起こした事故、大炎上案件の火消し専門。システムエンジニアとしても炎の魔術師だったのです。お陰で、それなりの腕にはなりましたけどね。
ああ、思えばシステムエンジニアとしても、最初は100円ライター以下でしたね。Pingってナニ? っていうド素人状態で横須賀リサーチプリズンに派遣されたのが、全ての始まりでした。多重派遣故のスキルミスマッチです。求められる人材と、そこに派遣された人材のスキルが大きく乖離していたのです。何処かで誰かが、或いは全員が私のビッグマウスなスキルシートを読み誤ったのです。なんだ、全員共犯じゃないですか。
それだけ人材が不足していたのでしょう。何しろ研究開発センターなのに、システムエンジニアの間ではプリズンと呼ばれ、YRP野比までの定期券は「地獄行きの切符」と呼ばれ、入館証は「のろいのそうび」などと呼ばれている程でしたからね。
のろいのそうび入館証の、入退出記録は、入館が月曜朝で退館が土曜日深夜という、不思議な記録しか残らない、時空を歪める呪われっぷりです。え? 事実通りの記録ですって? そんなバックドアな。
なんだっけ? そんな監獄とIT奴隷商人のお陰で、私はCrash and Burnしながらも、IT業界に潜り込む事が出来たのです。当時の世の中は、それだけデタラメだったと言う事ですが、そういう恩恵だってあったのです。悪事もなんとやらです。
ともかく。つい昔を思い出してしまいましたけど。大陸の形すら変わってしまう程の長い期間、私達を収監可能だと想っているのですが? その思い違いを正してやりましょう。