14. 蝋人形の館 - 誰にでも辿り着けるヴァルハラはきっとある -
フロアのど真ん中に、サービスカウンター。
そこから放射状に5本の通路が延びておりまして、通路の両脇には素敵なお部屋がずらっと並んでおります。鈍く光る鉄格子がラブリー。
サービスカウンターに常駐しているのは、素敵なコンシェルジュではありません。銃を持ったおっさんです。うーん、監獄。ここは横須賀プリズンの様な概念としての監獄ではありません。マジ監獄です。無期限入居パスを頂きました。
猫頭の部下2頭と仲良く一緒にシェアハウス暮らしの始まりです。
この監獄は、3食昼寝、おやつ付き、だそうです。この国の囚人は優遇され過ぎです。私達、戦場においては鹵獲された最終兵器でしたので、人権というものがありませんでしたが。ここでは、ちゃんと人権があります。国籍も貰いました。聖なる国だけありますよ。
ええ、国外に逃亡したつもりが、我々が上陸したのは聖国の首都でした。
第7艦隊を全滅させた上に、同盟国の旗艦を轟沈した罪で、おロープを頂きました。あの弩級戦艦は、敵国のものではなく、同盟国のモノだったのですよ。私達、魔法少女隊はやるだけやりました。そこに悔いなどありません。ドラゴンスレイヤーですし。
懲役1万2千年です。やっほう!
タイーホに来た陸軍を一個師団殲滅しましたからね。むしろ罰が軽い方なのでは? 死刑にしても、魔法少女は蘇ってしまうので懲役刑です。おかわりの一個師団に、3人とも殺されてしまい蘇生中におロープぐるぐるされました。
ああ、ドラゴン退治前の朝ご飯をおかわりしておけば! 空腹でMPゼロとなった猫魔獣は魔法少女ではなく、ただの可愛い猫ですからね。
私達、この世界の歴史を変えてやりましたよ。帝国だけでなく、聖国の最大戦力を無力化しちゃいましたからね。その結果、長く続いた戦争が終わりました。私は、異世界から来た平和の使者ってわけですよ。ご褒美が、プリズンという名の別荘での優雅な暮らし。
私達、とても可愛らしい猫耳娘なので、乙女の貞操がピンチですね。プリズンといえば、肉体をいじくりまさぐり合う部活が盛んです。映画で見たので知っています。
そろそろ食事の時間です。さっき入所したばかりなので、食堂で初めて他の囚人と遭遇するわけです。頭からお味噌汁かけられたり、足をひっかけられて床にご飯をぶちまけたり。そういうイベントがあのでしょうね。これも、映画で見たので知っています。
ふひっ。ちゃんとイベントが発生しましたよ。
私達の椅子になった囚人達が、グスングスン泣いてうるさいです。でも、アヒル鳥人は椅子としてはなかなかですね。元プリズンクイーンの縦ロール女をモップにして、床にぶちまけたお味噌汁を拭き取っているのは、さっきまでモップの取り巻きだったコウモリ獣人です。コウモリだから鳥人? どっちでもいいか。元プリズンボスのヒツジ魔獣で床を空拭きしているのは、ネズミ女ですね。
コウモリ鳥人とヒツジ魔獣は、見た目だけは、まるで悪魔なんですけどね。ドラゴンスレイヤーの私達猫魔獣にとっては、雑魚乙でした。こいつらも、この五つ星プリズンの囚人なのだから、128人以上のニンゲンを殺した大犯罪者のハズなんですけどね。ま、ニンゲンは底辺の雑魚ですからね。あいつらは、魔獣や獣人を契約で縛るシステムを構築しているので、でかい顔をしています。暴力よりも知恵の方が上って事なんでしょうね。
「ペンペンはケンケンよりも強しにゃ」
いつもの事ですが、猫頭達の言ってる事が分かるようで分かりませんね。猫魔獣は暴力だけでなく、知能でも他の種族を圧倒していますからね。ペンでも剣でも、お刺さりますよ。
「おい! お前ら、何やってんだ!」
看守のおっさんが、ものすごい剣幕でやって来ましたよ。食事中は静かにして下さい。
「うるさい、お前も蝋人形にしてやろうか」
看守は何も言わなくなりました。だって、蝋人形なので。
看守だけでなく、監獄の職員全員が無抵抗になりました。生きたまま蝋人形にされるのは嫌なんでしょうね。いつか作った蝋人形を何個か燃やしてやりましたね。アロマキャンドルにしたので、いい香りでしたよ。
猫頭達の魔法はスゴイです。他にもニンゲンをぬいぐるみにしたり、いろいろ出来るようです。このプリズンで暮らしている間に、いろいろ教わりましょう。いい機会です。
やらかして、騙され欺かれ、損なわれ続けた私の人生ですが。ここがゴールなのかも知れません。ここが、私のヴァルハラ。1万2千年もあるのです。猫魔獣の長い生涯も、丸っと収納出来るでしょう。
「猫魔獣は何年生きるの?」
「無限にゃ」
ふむ。さすがの猫頭も無限を表す慣用句は持たないようですね。江口寿史の新作を待つ時間だって無限ではありません。たまにはイラストくらいは出てきます。火浦功作品が完結しない事は、既に宇宙の真理なので、もはや誰も待ってませんし。
「ノヴィータさんの栗まんじゅうにゃ」
なるほど。それがありましたか。しかし、アレもいつかは誰かが始末せねばなりません。宇宙だって無限ではないのだから。私が宇宙海賊となって、エネルギー充填120パーセントで消し飛ばしましょうか。
罰としてのプリズン収監のはずなのに、起こるイベントは愉快痛快キテレツな事ばかりなのです。楽しくてしょうがないです。