13. Dragon Attack - 倒すべき敵を見誤るな -
大海を進む空母の上、見渡す限り広がる水平線。
陸地を目指して飛んだところで、魔法飛行の航続可能距離には限度がありますからね。陸地に辿り着けなければ悲惨な目に会います。クラーケンの触手責めとか。この世界なら、きっとあります。つまり、ここは移動する監獄なのです。
魔法少女である私達は空母の艦載機というわけです。飛行魔法を駆使した、敵との空中戦が任務になるのでしょう。海上で撃墜されて死んだ場合、敵と味方どっちが回収するかは未知数ですね。聖国ならいいんですけど、帝国に出戻るには最悪です。海上で何処と戦争してんのか知りませんけど。
「あれは、何だ?」
「艦影ですにゃ? 春の新作スイーツにゃ」
ふむん? 敵艦隊の姿が猫魔獣のハイパーニャン視力でハッキリと見えてきました。艦橋に居るニンゲン共には、まだ分からんでしょうけど。
旗艦っぽいのは、大和級の巨大戦艦ですねえ。ロマンですわあ。航空戦の時代に、何じゃソレってヤツですけどね。
「アクア型弩級戦艦ですにゃ」
この世界でも、巨大なモノを表現するのに「ド級」と言います。地球では、巨大戦艦ドレッドノートのド、ですが、この世界ではドラゴンのドです。つまり、アレを沈めればドラゴンスレイヤーになれる、というわけです。魔法少女たるもの、ドラゴンスレイヤーの称号くらいは欲しいですよね。
「よし、行くぞ」
「やるにゃ。今こそ、故郷を滅ぼす時」
「アジの開きこそが、ドラゴンスレイヤーにゃ」
それ、慣用句だよね? 故郷を滅ぼしちゃダメでしょ。ダメかな? むしろ滅ぼすべき? 私達が倒すべき敵って何かしら?
「相手は水の女神の名を冠するもの、我の敵として不足はない」
「隊長のおいなりさんの方が大きいにゃ」
「開きっぱなしのホッケにゃ」
私のおいなりさんって何だろう? 今は、そんな事を気にしている場合ではありませんね。弩級戦艦は、もう目の前です。さあ、ドラゴンを倒すぞ!
「艦橋スレスレを飛んで驚かせてやりましょう。誰がもっとも寄れますかね?」
「おお? 勝負ですかにゃ?」
「トップニャンは私ですにゃ」
またしても、お刺さってしまいました。
まず猫頭2頭が艦橋左右ギリギリをマッハで通過。艦橋は、どっかんと砕け散りました。そこに、私が真正面からぶっ刺さりました。うーん、飛行魔法の制御が、うまく出来ませんね。妖精さんの仕業なので、是非もなし。
既に起きてしまった事は、全て良い事なのです。
送別会くらいはと、珍しく飲み会に参加したばかりに、言わなくていい事ならまだしも、言っちゃいけない事まで、ぺらぺら喋った挙げ句に、帰りの電車を乗り間違えて終電を逃し、奢って貰った分以上のタクシー代を使ってしまったとしても。それは良い事なのです。
システムエンジニアは飲んだくれが多いので、誰も覚えてませんよ。私は覚えてません!
はてー? 弩級戦艦を強奪したのはいいですけど。コレ、どうすんの?
「誰か船の操舵できる?」
「実家が漁師やっているので、私の煮込んだ小豆です」
戦艦を漁船と同じ感覚で操舵出来るのか知りませんが、部下を信じて任せるのが隊長のお仕事です。彼女に任せましょう。では、私はドラゴンスレイヤーとして何をすれば良いのか?
「さっきまで載ってた空母も、弩級なのよね?」
アレもドラゴンなのであれば、ドラゴンスレイヤーである我ら魔法少女の狩りの対象ですね。45口径46センチ3連装砲を、ぶっ放す。ロマンです。今の私達は水兵さんなので、セーラー服と主砲です。連射するのがお仕事です。
「攻撃目標、聖国第7艦隊の空母! 撃てー!」
私が初めて撃った銃は、45口径46センチ3連装砲でした。トリガーハッピーになってしまった私は、聖国海軍の主力を無力化してしまいました。航空戦力を失った空母など、ただの船。かの航空戦力は今ここに居ますからね。反撃する手段なし。粉々です。
「戦いとは終わってしまえば虚しいものよ。残ったのは名誉なのか? それとも罪なのか?」
「湯切りに失敗したカップ焼きそばにゃ」
「新刊かと思って買ったら、もう持ってた本にゃ」
適当に陸地を目指して進みましょう。このまま軍を脱走して、どこかの国へ亡命です。そこも、幼女を兵器扱いするようなブラック国家であったらなら滅ぼしてしまいましょう。ニンゲンの国家如き、ドラゴンスレイヤーの敵ではありません。
ところでアジは本の購入で失敗が多いですね? あくまでも慣用句なの?
「もうらめー。ガス欠にゃ」
「この艦を敵の手に渡すわけにはいかぬ」
「勝手に食べちゃったプリンは容器もちゃんと捨てるにゃ」
証拠隠滅です。覚えたての破壊魔法を試してみましょうか。真っ黒なおはぎのような隕石を落とす暗黒魔法、あんこ食う?
「飛べない豚ども、お疲れにゃ」
「ブタ魔獣に失礼にゃ」
弩級戦艦は、ど真ん中から、ぼっきりと折れて轟沈しました。
「陸地はすぐそこだね。上陸しよう」
ホウキに跨って飛んで行きます。我々猫魔獣に、やさしい動物愛護の国だといいね。
もちろんと言うべきか、そんな国はありませんでした。




