01. Far Beyond The Sun - ここではない、どこか遥か彼方へ -
退屈で怠惰なシステムエンジニアの頭の悪いボヤキから、この物語は始まる。
少し不思議で荒唐無稽な物語を期待されている方は、この序章は読み飛ばして欲しい。次のエピソードも、イカれた前説でしか無いので、エピソード03から読んで頂いても良いだろう。
きっかけは何だっていいのだ。トラックに跳ね飛ばされるのが様式美だけども。別に、豆腐の角に頭をぶつけたっていいのだ。
人はいずれ死に辿り着くが、そこが終わりとは限らないというだけの事。
ついでに言ってしまうと、システムエンジニアである事すら、さほどの意味は無い。
「今、地球が爆ぜたら、どうすればいいんだろう?」
曇天の空は見上げる気にもならない。システムエンジニアという職業を目指し、上京したてだった頃は、いつも上を見上げて歩いていた。なので、よくゲロを踏んだ。
単に超高層ビルが珍しかったのもある。いつか、あの辺のやつを1本くらい自分のモノにしてやろう。そんな野心と希望に満ちあふれてもいた。
だがしかし。
10年過ぎてもIT奴隷のままだ。いい加減、現実を思い知らされた。
今日も、誰からも読まれる事のない運用設計書の執筆だ。下らない。穴を掘って、また埋めるような無意味な行為だ。まだ、掘っているのが自分の墓穴であるならば有益であるのに。
朝は、いつも憂鬱だ。特に月曜日は最悪。とどめに雨が降り出してしまえばフルコンボ達成だ。ほんとに地球が爆ぜないかな。それをきっかけに、異世界転生してしまいたい。
異世界に行ってしまえれば、楽しいに違いない。
最近、そんな妄想が止まらない。
今朝も、川崎駅の前で、魔法幼女とサイボーグ戦士幼女と幼女騎士を連れた女神幼女という、幼女4人パーティの幻覚を見た。使い魔として、ドラゴンとフェニックスまで連れていた。
昨夜も飲み過ぎたかも知れない。あるいは、脳の何処かを病んでいるのか。もしかしたら、魂が異世界へと転生する準備を始めているのかも。
「ああ、今すぐに地球が爆ぜないだろうか」
などと、朝から物騒な、というか間の抜けた事を考えながら、駅の改札を抜け職場へ向けて歩き出す。
毎日同じ道を通勤しているので、考え事をしながらでも、ほぼ自動的に体は職場へ向かう。
仮に、今この瞬間に地球が爆ぜてしまったとして、認識が出来るのだろうか?
「あ、地球が爆ぜた」
なんて。
「あ、地震だ」
みたいな感じで。
認識できたとして、どうすればいい?
どう考えても、完全に詰んでる。巨大過ぎる厄災を相手に抗う術など何も無いだろう。異世界に転移出来る能力でもあれば助かる? 念願の異世界生活の始まりだ。
だがしかし。
異世界に行ったところで、暮らしていけるのだろうか?
まず、言葉が通じないだろう。
生活習慣も、文化も文明の進化度合いも、価値観も何もかも違うかも知れない。
似たような部分もあるのだろうけど。
仕事は何が出来るだろう?どんな世界であれ、ニートは即射殺だろう。
この世界では、IT系のエンジニアとして働いているけど。
異世界にITがあるのか…??
ITの無い世界で、一体どうやって生活費を稼げばいいというのだ?
他に何か職業に出来そうな技術を持っているだろうか?
車の運転? …異世界に車があるのか?
そろばん…? …もう忘れてないか?
字は汚いし、楽器も弾けないし…。
…もしかして、…皿洗いくらいしかできないのでは…? あるいは全裸奴隷? 私は、この世界ではIT奴隷だけど、異世界でも奴隷なのかも知れない。
などと、暗い事を考えていたせいで、視線が下を向いていたようだ。
視界いっぱいに埃っぽいアスファルトの地面が見える。
いかん。
せめて、気分だけでも上向きに、と視線を上に向けると。
なんだか空が赤い?
いや?黒い?ような?虹色の光が彼方から迫ってくるような?
あ。
地球が爆ぜた。