第8話
誤って9話から先に投稿しておりました。
こちらが8話になります。
ジンとの話を終え、ギルドから出るころには日も傾き始めていた。先ほど自由依頼を確認してきたところ、雑用以外は魔物の間引きが依頼の大半だったため、夜間での戦闘を気にしなければ今から討伐に出ても問題はない。むしろ夜のほうが活動が活発になる魔物がいることを考えると好都合だ。
ようやく魔物を斬れる。この後のことを思い浮かべると浮足立つ心が止められない。今後の異世界ライフに夢を膨らませながら、中心街から街の外に向かって大通りから出て進んでいく。いくつかの路地を曲がったところであることを思い出す。
この街の外に繋がる道を知らない。
思考が別のところに夢中になり忘れていたが、ここは迷路とも称される街、蜘蛛の巣。なんとなくで先には進めず、一度迷ったら目的の場所にたどり着くのは至難の業だ。
仕方なく中心街に戻ろうと帰り道を辿るも、どこかで道を間違えたようで行きの倍以上の時間をかけても大通りに出れない。
彷徨うこと数時間。もう諦めて壁や建物を斬り捨てながら真っ直ぐ進もうとしていたところ、素行の悪そうな集団に出くわした。地獄に仏とはこのことか。案内役の一人を残して斬り捨てようとすると、街灯に照らされた顔つきを見てあることに気が付く。向こうもこちらに気が付いたようで、それまでの談笑していた表情から一変、絶望の底に落ちたような顔つきの男がいる。
ダズだ。
路頭に迷っていたところで顔見知りにあった俺は嬉しくなり、つい声をかける。
「丁度いいところで会えた。外に出たいんだけど道に迷っちまってな。案内してくれないか?」
「あぁ? なんだてめぇ?」
一緒にいた別の男がこちらに詰め寄ってくる。
「ばっ、ばか! やめろ!」
ダズが必死になってその男を止めようとするも
「なんだよダズ、情けねえ顔して。こんなガキにびびってるのか?」
男は取り合わず、ダズを小馬鹿にした表情を向けた後こちらへ詰め寄ってくる。
「おいガキ。道に迷ったが何だか知らねえが。舐めた口きいてるんじゃねえぞ?」
そのまま胸倉を掴むつもりなのか、ポケットに入れていた右手を俺の首元に向かって伸ばしてくる。しかし途中で違和感に気が付いたのか動きが止まる。
「えっ……?」
伸ばした腕の手首から先がないことに気が付いたようだ。反対の手で触って確認でもしようとしたのか、右手のあったところに左手を近づけるも、そちらも手首から先がない。
一瞬の静寂のあと、ポトリ。何かが落ちる音が周囲に響いた。
「ああああぁぁぁぁぁ!!! 俺の腕がぁ!!!」
男の絶叫が響き渡る。しかしその光景に対して、不思議と男の傷から血が流れていない。
「どうよこれ。あえて剣を振りぬくときの摩擦を利用して切断面を焼いてるんだ。これなら血が出ないし、服が汚れなくて便利だろ? ただ斬った感触があまり良くないのが難点なんだよなぁ」
ダズに説明するも男の声が大きくて聞こえているか心配になる。
「ちょっとうるさい。」
ダズの友達のようなので、いちおう喉ではなく舌だけを斬り落とす。
「んんんん!?」
尚も声を上げようとする男の口をダズが塞ぎ、何故かこちらに誤ってくる。
「すいません、センカさんっ! こいつには言って聞かせておくので、どうか。どうかこのくらいで勘弁してください……」
「ん? 別に俺は気にしてないぞ。案内を頼むのにダズの友達を斬るのは不味いと思ってたからな。むしろ斬る理由をくれて有難いくらいだ。
まあそれはいいや。それで? 案内してくれるのか?」
先ほどまでと異なり、ダズの友人らしき人間達もダズと同じような表情に変わっていった。
「もちろん、させていただきます。
みんな、俺はこの人を送っていく。お前らはマルクを安静な場所に連れて行ってくれ。……いや、エイサだけは俺と一緒に案内だ。」
ダズとエイサと呼ばれた女性以外はマルクとやらを病院にでもつれていくようで、逃げるようにここから去っていく。
何にしてもよかったよかった。これで無事に外に出れる。
「お待たせしてすいません。こいつはエイサと言って俺の妹です。一緒に案内をさせていただきます。」
「エイサです。えっと……センカさん? ですかね? よろしくお願いします。」
妹と紹介された女性はあまりにもダズと似ていなかった。お世辞にもダズは顔立ちが整っていない。それとは対照的に妹は顔の造形が整い過ぎている。青髪のショートスタイルに切れ長の瞳、筋の通った鼻筋でかなりの美人だ。
「センカであっている。よろしくな。」
「……ちなみになんですが、センカさん。もしも俺が案内を断っていたらどうするつもりだったんですか?」
「断られたら? そうだな、適当に一人を残して全員斬り捨ててから、そいつに頼んでいたと思う。もしそれでも断られたら、壁を斬って進むつもりだったぞ。」
「……兄が断らなくてよかったです。」
あぁ、その引き攣った顔の表情は兄弟で似ているんだな。