第3話
斬った気がしない。斬り足りない。なんでもいいから斬りたい。
当初の予定だと集落内の人間を一人一人斬って回るつもりが、一振りで終わってしまった。
集落一つを切り刻めど、今大切なのは質より量。刃を振るった数が足りない。
魔術も予想以上につまらなかったし、完全なる不完全燃焼だ。手持ち無沙汰な心を鎮めるため、ナイフを振り回しながら歩みを進める。
その刃が振るわれる度に切先から斬撃が飛び交い、地に落ちた残骸が更に刻まれていく。
「やっぱ生き物のほうが斬り応えがあるんだよなぁ」
そのまま集落の出口でもある路地へ近づいたところで悲鳴のような声が響いた。
「いってぇ!」
悲鳴のようなというか悲鳴だな。
それよりも生き残りがいるとは思わず、ついつい笑顔で声の方を振り向くと予想外な姿が目に映る。
「…あれ? あんた、なんで生きてんの? まさか俺が斬り損じてた?
たしかに確認はしてなかったけど… 運がいいね。」
そこにいたのは先ほどの護衛の男だった。肩口から血を流していることと、全身打撲の後がついているくらいで元気そうだった。
表情はこの世の終わりみたいな顔してるけど。
でもてっきり、一の太刀に巻き込まれて死んでると思ってたよ。
路地の手前までしか斬撃が走らなかったから、運良く宙に巻き上げられただけで済んだのか?
だらだらと話しかけながら近づくと男は静かに涙を流しながら後退りをするので、なかなか距離が詰まらない。
「そんなにビビらなくても大丈夫だぞ? 斬り損じたやつは縁起物として、それ以上斬らないようにしているんだ。」
当日だけはな。翌日以降は気にせず斬るけど。
「斬り足りないけど仕方がない。ちょうどこのガキの知識じゃ足りなくてな。あんたはそこそこ歳重ねてるし、いくつか質問にこたえてくれよ。
あっ、先に伝えておくけど面倒くさいのが嫌いでさ。余計な質問返しとかされると無意識に斬っちゃう癖があるんだよね。斬ったらごめんな。」
護衛の男は顔色を真っ青に染めて頷くと、その後に続けた質問に対して素早く分かりやすく答えてくれた。
やっぱりスムーズなコミュニケーションは気持ちが良いな。
いくつかの質問を重ねたところ、面白い話を聞くことができた。
まず、この街の名前は蜘蛛の巣。元々は戦時中の防衛拠点として活用された場所で、蜘蛛の巣のように張り巡らされた路地で構成されているのが特徴の街らしい。
その構造は極めて難解な迷路のように入り組んでおり、所見の人間が案内もなしに中心部まで辿りつくのは不可能なようだ。
更にその特徴ゆえ、表立って外を歩けない人間が多数集まるらしく、数えきれないほどの犯罪者、犯罪組織の温床となっている治外法権の街として世間では有名とのこと。
そんな街でも中心街はそれなりの治安が確保されており、冒険者登録が可能な冒険者ギルドも中心街にあるそうなので、一旦の目的地をそこに決めた。
ちなみに男の名前はダズと呼ぶらしい。
「いやー、ダズが生きててくれて良かったよ。何も知らずに歩いてたら迷子になるところだった。ちょうどいいや。中心街までの道が分からないから案内してくれないか? 俺たち友達だろ?」
「はっ、はい…… 案内させて頂きます。」
何もかも諦めたような生気のない顔でダズが答える。
「それと中心街に行く前に、人がたくさんいるところに案内してくれないか? 夜が明ける前にあと何人か斬っておかないと、間違えてダズのことを斬っちゃうかもしれない。」
この短い間で何度目か分からない泣き顔になったダズは、半ば駆け足に近い速度で様々な場所に案内してくれた。