第15話
帝国殲滅部隊とは西の大国レグナトールの円卓の騎士団、全一教会の正義の使徒、冒険者ギルドの掃除屋、東国の天龍衆と並ぶ、もしくは超える帝国最高戦力である。
その戦力は文字通り《《殲滅》》を世界にもたらし、過去に帝国殲滅部隊が投入された戦地では唯一人の生き残りも確認されず、戦地の全てを更地へと変えた。その戦力に対抗するために対帝国世界連合郡が結成され、後の世界条約にて戦場への参入を禁止された超越戦力である。
「帝国殲滅部隊ねぇ…… 学のない俺でも知ってる馬鹿げた戦力だ。そんな人間をお前みたいなチンピラ上りが紹介なんてできるのかよ?」
センカは疑いの眼差しをレッドバックへと向ける。その間も剣を持つ右手の握りを調整し、すぐさま刃を振るうように備えている。
「さっきも言ったが、うちの頭が帝国殲滅部隊なんだ。お前も不思議に思わなかったか? 俺も何度かあったことはあるし、若頭に昇格すればその機会はますます増える。」
言葉を返すレッドバックも敵意がないことを示すために両手を上へ向けて上げているが、センカが動き出したら対応できるように視線で牽制をかけていく。
「……嘘ではなさそうだな。」
「騙すつもりならもっとマシな嘘をつく。まあ、なんにしても頭と会う機会はタランの兄貴の後だ。まずはそっちを片付けてもらう。」
「俺も帝国殲滅部隊が噂通りの実力なら、今すぐやり合うつもりはねえ。もっと肉体が成長してからでいい。それで、タランってやつはどんな奴なんだ? お前よりも強いのか?」
攻め気を失わずにレッドバックを中心として円を描くように動き始めたセンカの様子を見て、レッドバックがため息をつくと足元から赤い泥上の物体が湧き上がってくる。
「正面からやりあって負ける気はねえな。兄貴の魔術の詳細は知らねえが、なにか重さに関わる能力ってことだけは知ってる。……んで、何が気に食わないんだ?」
戦意を向けてくるセンカに向かい今度はレッドバックから問いかける。
「いや? 大したことはねえが人に物を頼むにしては頭の位置が高いからよ。まずは下ろしてやろうと思って…… な!!」
言い切るか否かのタイミングでセンカが間合いを詰め、刃をレッドバックの足元目掛けて振るう。
「このクソガキが。」
レッドバックが吐き捨てるように短い言葉で返すと同時に、先ほどの足元に湧き出てきた泥が膝先までを覆うと、脛あて代わりにしてセンカの刃を受け止める。
態勢を崩すことなく一太刀目を受けきったレッドバックは、そのまま上げていた両手をセンカへむけて勢いよく振り下ろす。
その両手は足を覆っているのと同様の赤い泥に包まれており、それを見たセンカは受けるのではなく避けることを選択して後ろへと飛び下がろうとするも、剣が脛あての泥に絡まれて引き抜けない。
「……ッ!?」
咄嗟に剣を手放し、不格好ながらも一撃を回避することには成功するが、その隙を見逃さず、レッドバックは立て続けに肩を主軸としたタックルを繰り出す。
「くっ……!」
態勢を崩しながらも鞘を剣に見立てて突きを繰り出してレッドバックの側頭部を狙い撃つも、勢いを受け止めきれずタックルに巻き込まれたセンカは更に後方へと吹き飛ばされる。
ただし予想外の反撃にレッドバックも無傷とは言えず、こめかみを抑えて立ち止まる。
「ちっ…… いてーじゃねえか。頭がクラクラしやがる。」
反撃はないと予想し不用意な二撃目を繰り出したことを反省したレッドバックは、慎重にセンカへ視線を向けながら足で絡めとった剣を抜き取ると、自身の後方、センカから最も離れた場所へと放り投げる。
一方のセンカは衝撃を緩和するために二転三転と自分から地面を転がり、最後は地面に鞘を突き刺し、二本の足で立ち上がる。勢いを多少は殺したとはいえ、一撃をもらったことには変わりなく、自身の状態を確認しながら次の一手に思考を巡らせる。
(痛みがあるが戦闘に支障はなし。それよりも警戒すべきは…… あの赤い泥だな。俺の一撃を受け止めるほどの強度と粘着性か。加えてやつ自身は軽く剣を引き抜いていたのを見るに性質の切り替えは自由。厄介だな。)
「おい。今ならまだ軽症で済ませられるが、まだやるか? 言っておくが、懐かねえ犬は殺す。もしも自分が殺されないと思ってるなら大間違いだ。お前は便利だが、必ず必要ってわけじゃねえ。」
殺意を漲らせてレッドバックが言い放つ。その身に纏う魔力の圧が殺意と同調するように高まり周囲の空間を軋ませている。
「そっくりそのまま返してやるよ。自分が殺されないと思ってるなら大間違いだ。自力で俺を楽しませられない人間の話しなんて聞く気はねえ。」
センカが鞘の切っ先側をレッドバックへ向けながら言い返すと笑い声が響き渡る。
「カッカッカ!! ……ああそうかよ。じゃあ、死んどけ。」
赤き魔獣が斬魔センカへ殺意を開放する。




