14話
ダズからの話を聞いた三日後の夜。何度歩いても頭に入らない裏路地を抜けると、今まで気が付かなかったのか分からないほど巨大な塔が視界に広がる。その塔は天を突き抜け、最上部は雲に覆われて確認することができないほどだ。
こんなデカい建物があったら遠目でも分かるはずなんだが……
横目に案内人でもあるダズを見てみると、この光景には本人も驚いているようで手元の地図と目の前の塔を視線が行ったり来たりしている。
ひとまず予想を超えた光景が目の前に広がってるのは理解ができたので、試しに建物を下から切り崩すとどうなるのか気になり、腰元の剣の柄に手をかける。
「噂には聞いてたが、さすがに行儀が悪すぎるんじゃないか?」
声と同時に赤い衝撃が空から落ちて来る。反射的に矛先を変えて振るう刃から手元に強い重みを感じるが、腰元から全身にかけてを回転させることで一気に斬り開く。
戦いとは主導権の握り合い。意図していない後手は今後の形勢に大きな影響を与えるため、誰がどんな攻撃を加えてきたかの判断は後回しで声の方向に向かい二の太刀、三の太刀を振るう。
「おっと……」
声の主はどうやったのか。空を蹴るようにして急加速して地上に降り立つ。重力を無視したように赤く広がった長髪が全身を覆うように広がっているため、細かな造形は捉えられない。
ざっくり二足歩行の人型と想定してるのも束の間、息つく間もなく一瞬で距離を詰めてきた。
「血染めの髪」
そのまま頭を振るったかと思うと、視界いっぱいに広がった赤髪が剣山のように毛先を鋭くしてこちらへ向かってくる。
「行儀が悪いのはどっちだ……よ!」
まともには受けきれないので髪の毛を天避ノ刃で打ち払う。剣圧で左右に髪が切り払われたが、そこには何の姿も見当たらない。半ば予想通りの結果に視線を左に向けると、目に映るのは腕を振り上げた赤い獣。
そのまま振り下ろされる一撃を鞘を引き上げる形で受けとめ、勢いのままに右側へと飛び衝撃を受け流したところで声が掛けられる。
「さすがだな…… 一撃くらいは入るかと思ったんだが、そう甘くはねえか。」
あえて声帯を潰したような耳ざわりな声が響く。
「お前がレッドバックか? 随分と俺好みの姿をしているが、人間を辞めちまったみたいだな。」
目の前には形はたしかに人型だが、髪の先から皮膚の末端まで全身を余すことなく赤く染め上げた生き物が立っていた。指先、肘や膝などの関節が槍のように尖った形状をとっており、生活ではなく殺傷に重きを置いているのが分かる。
「俺も好き好んでこんな形をしてるわけじゃねんだが、お前らみたいな人間卒業生の相手を務めるにはこっちも化け物にならねえといけねんだよ。」
言葉を吐くたびに開く口が耳元まで裂けており、中途半端に残している人間部分がその外見の異様さを際立たせる。
「面白いこと言うな。だが安心しろ。これまでの経験上、細かく切り分けちまえば大抵のことは気にならなくなる。」
話しながらも剣の握りを調整して次撃の準備をする。ここまでは完全に後手に回ってしまった分、次はこちらから仕掛けたい。だが最後に間合いの調整をして二ラウンド目を開始しようとすると気になる勧誘をかけられる。
「そう焦るな斬魔。お前、斬る相手を探してるんだろ? お互い小手調べは終わったことだし、ここは一つビジネスの話をしねえか?」
「……その胡散臭い口説き文句を最近よく聞いてるんだが。まあいい。俺からすると、お前ほど斬り応えがあるやつはそういない。お前以上の価値を俺に提供できるのか?」
「俺の首にどんな価値をつけてるのかは知らねえが、アラクネの若頭である暴君タランの首。そして……世界最高戦力に数えられる帝国殲滅部隊。そこに名を連ねるアラクネの頭、ライラ・アルース・アルファジュル。
どうだ? 悪くねえんじゃねえか?」




