第13話
「随分と素直に言うことを聞くじゃねえか…… まあいい。だが、勘違いをするな? 俺が斬魔の居所へ向かうんじゃねえ。お前が斬魔を俺の元へ連れてくるんだ。」
レッドバックはそう言うと掴んでいた髪を離して、周囲を取り囲んでいた男達へ目配せをする。それに対して男達は頷き返すと、当初の立ち位置と同じようにレッドバックの後ろに並び直した。
そのまま何もなかったかのように店主を呼び出すと酒の注文を始める。まさかこのまま居座り続けるとは思わず引き攣った表情を浮かびあがってしまう。
「なにを変な顔をしてやがる。その軽い舌でお前が知る限りの斬魔の情報を共有しろ。」
「……あの人からは今みたいな状況に陥ったら隠し事をしなくていいと言われている。だけど斬魔、冒険者センカさんについて俺が知っていることは殆どないぞ。出身地とかの個人的な話は全く聞いたことがないし。
分かることは……異常な程に斬ることに対して執着があること、そしてその執着を実現できる剣の腕の持ち主ってことだけだ。
そもそも俺はあの人の被害者第一号で、この街の案内人として見逃されただけにすぎないしな……」
三ヶ月ほど案内人として関わっているが、あの人は柄のない刃だ。文字通り触れる者、関わる者すべてを傷つけずにはいられない。まともに付き合っていられるのは物理的にも精神的にも強靭な一部の化け物達のみだ。
「相変わらず運がいいんだが悪いんだかよく分からねえ奴だな。だが、斬ることに執着か…… 他には無いのか? 弱点に相当するものがあれば楽なんだが、それこそお前の妹は弱味にならないのか?」
レッドバックがいやらしい顔を浮かべて質問を続けてくる。
根本的にこの男は抜け目がない。暴力至上主義のくせに相手の弱みを必ず押さえて立ち回ろうとする。だからこそ、この若さで今の地位までたどり着いたのだろうが。
「残念だが、妹は弱味にはならない。今もより多くの人間を斬るのに便利だから斬って居ないだけで、人質に盗られたら嬉嬉として刃を向けると思う。」
あの人は今のこの状況も望み、狙っていたはずだ。襲われたから斬ったという理由もつけられるし、自分から探さずに獲物がやってくる環境を喜ばないわけがない。
エイサもそんだ事は分かっているはずなのに、どうして進んで関わるのだろうか……
その後も様々な質問を繰り返されたが、我ながら全て正直に答えたと思う。聞きたいことを聞けたのか、レッドバックはグラスの残り分を一息で飲み干すと呆れた様に言葉を吐く。
「イカれ野郎は面倒臭いな。」
その点については完全に同意だ。
「まあいい。三日後にこの場所につれてこい。……数少ないガキの頃からの顔見知りだ。今回は見逃してやる。」
そう告げると一枚の紙を机に残し、取り巻きの男たちを連れて店から出ていくのだった。
「……数を減らしたのは、お前が殺したからじゃねえか」
すっかり酔いも覚めた俺は折れた鼻を抑えながら店を後にする。
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案の上、拠点へと向かい先ほどの出来事を伝えるとセンカは非常に喜んだ。
「三大マフィア・アラクネの若頭候補のレッドバック……ね。肩書は何でもいいが、そいつは斬り応えはあるのか?」
「……斬り応えがの基準が何なのかはわかりませんが、強いです。冒険者だったら間違いなく銀級、下手したら金級相当はあると言われています。ちなみにセンカさんはアラクネをご存じです? 」
「噂程度はな。三大マフィアの中でも特に暴力を売りにしている組織だろ? 若頭候補ってのがどのくらい偉いのかまでは知らないがな。」
「……一応補足すると、アラクネは組織のトップを頭と呼び、その下に若頭と呼ばれる三人の幹部で構成されています。まあ候補と言っても上の席に空きがでなければ、いつまでたっても候補どまりなのですが。ただその空きが出た際の新若頭としてもっとも有力な人間がレッドバックです。」
「若手筆頭ってとこか。……出迎えも相当派手にしてくれそうだな。ちなみにその若頭や頭が出てくる可能性は?」
「正直言って俺も組織の内部事情までは詳しくないのでなんともいえず…… ただ、出てくるとしたらレッドバックの直属の上司である人間、暴君タランと呼ばれる若頭だと思います。」
暴君タラン。ビッグネームすぎて名前だけしか聞いたことはないが、この蜘蛛の巣における荒事の顔役とも言われている大物だ。
「いかつい名前だな。まぁ下を潰せば上もいずれ顔を見せるだろ。とりあえずデカい舞台になりそうだし、俺もちょっと準備運動がてら散歩にでも行ってくるか。」
そう言うと剣を片手にどこかへ消えていった。この人のことだから散歩と言いつつ斬りにいったのだろうが……
正直俺としてもセンカさんが死んでくれれば日々の恐怖もなくなり大万歳のため、レッドバックへの協力は惜しまず全てを話した。ただ、格上すぎて俺の脳みそでは結果に検討もつかないが、一つだけ頭にこびりついて離れない事がある。
それはつい先日の殺戮の後に唱えていた独り言
「……ようやく馴染んだ。」
この言葉を聞いた時、俺の頭の中から冒険者センカ…… いや。斬魔センカが敗北する未来が消えうせるのを感じたのだった。




